――想いと共に――≪後編≫


  「う〜ん・・・。中々難しいですねぇ・・・」
  「アイラ様、チョコを沸騰させてはいけませんよ。風味が落ちてしまいますから。
  45℃くらいが基本です。」
  普段でもお菓子を作っているリリィに作り方を教わりながらアイラはチョコと格闘していた。
  お菓子を作ることは普段の生活でまず無いし、得意でも無いので途中で投げ出しそう
  にもなったが、クライヴの事を想うとそんな訳にもいかないのだった。
  「コレで型に流し込んで・・・・・・・」
  「じゃぁアイラ様、少し固めますね。時間になったら呼びますので椅子に腰掛けていて下さい。」
  アイラはそう言われたが、やはり自分の作ったものが気になって何度も同じ所を行っ
  たり来たりしている。
  そして待つ事数十分・・・
  「で・・・出来ましたぁ!!」
  ただチョコを溶かして型に入れるだけの簡単なカップチョコ。
  何故か型に入れるだけなのに、歪(いびつ)になっている物さえある。
  だが、それはアイラにとってクライヴに気持ちを伝える大事な掛け橋であった。
  「じ、じゃぁ私、クライヴに渡してきますね!!」
  リリィが用意してくれた透明な袋にチョコを詰めて、翼を大きく広げる。
  「お気をつけて、アイラ様。 持って行く時には十分注意して下さいね。」
  リリィの言葉を背中で聞きながら、アイラはスラティナ目掛けて飛び立って行った。
  先程まで作っていたチョコは落とさぬようにと大事に抱えて・・・



  こんな単純な作業でも丸一日過ぎてしまった。
  今日中に彼に間に合えば良いのですけれども・・・



  午後10時。
  月明かりが部屋に指して来た頃、クライヴは目が覚めた。

  寝ている間でも離さずにいた刀を脇に置き、外出する身支度を整える。
  昨日、又新たに仕事を受けたので森にアンデットを倒しに行かなければならない。
  「・・・世界の混乱が進んでいるのかよく知らんが、依頼が増えて来ているな・・」
  アンデット達を自分と共に葬るのがクライヴの使命みたいなものだったが、
  最近、仕事が増えてきている事に対してあまり良い気はしない。
  それもあの天使に出会ってから・・・
  着々と身支度を済ませていると、ドアの方から突如物音が聞えて来た。
  咄嗟に刀を握る。
  (人里に奴らは現れたのか?)
  息を殺して様子を見るが、どうやら襲ってくる気配は無いようだ。
  その内気配も消え、穏やかな空間に戻るとドアの近くに歩み寄り、おもむろに開けてみる。
  地面に視線を落とすと、そこには豪華なラッピング箱が置いてあった。
  「・・・何だ?」
  拾い上げ、貼りつけてあったメッセージを読んでみると
  ”良ろしかったら食べて下さい”
  多分、村の娘が置いて行った物なのであろう
  部屋に勝手に入るのを無粋と思いそのような行動を取ったのか、
  又は恥ずかしがって置いて行ったのか・・・。
  中を開けて見ると、いくつかのチョコが入っていた。

  「・・あぁ・・・今日は・・・」

  中身を見て、今日が何の日か思い出す。
  自分にとってバレンタインデーなど無縁なものと思っていたから、
  特に意識はしていなかった。
  ”あの事件”から一人暮しを始め、特別に誰かがくれるというのでもなかったから・・
  過去に貰った事があったとすれば、クライヴを育ててくれた婆さんからか、
  はたや近所の人達からのお裾分けか・・・
  どちらにしろ遠い出来事である。
  (今更そんな事を思い出しても仕方が無い・・・)
  半開きの状態でテーブルの上に箱を置こうとした時、一陣の風が部屋の中を冷ました。
  吹かれた方向を見てみると窓が開いていて、そこには翼を持った一人の少女

  「ま、間に合いました・・・」

  あれから急いで飛んで来て髪は乱れているが、チョコだけは今も大事に抱えている
  「・・・アイラ、どうした 事件か?」
  何か急いでいる様子に見えたので、事件が発生したのかとクライヴは思ったみたいだ。
  無理もない、肩で息をしているのだから
  「あの、そういう訳じゃなくて・・・ クライヴに ・・・・・!」
  ふと、クライヴの手に持っている物がアイラの瞳に映る。
  綺麗にラッピングされた箱。
  その箱からは丁寧に仕上げられたチョコが顔を覗かせている。
  それと自分の作って来た物を比べてしまうと、なんだか恥ずかしく思えてきて、
  サッと後に隠した

  (こんな物・・・とてもじゃありませんけど・・・・)

  「いえ・・・何でも・・ありません・・・」
  下を俯き(うつむき)ながら答える。

  ・・その場から早く逃げてしまいたかった。
  感情の抑制が制御し切れなくなりそうだったから。

  「・・・・・・・・・」
  無言でアイラの側に寄り、クライヴは隠されていた包みを取り上げた。
  「あっ!それは・・・」
  バッと顔を上げ、クライヴと視線が重なる。
  もう、アイラの顔は泣きそうだった。
  眼には涙を溜めて、頬に伝わせないようにと必死に堪えている。
  「・・・・・・悪かった。」
  アイラの手中に包みを戻すと、クライヴが悪そうに答える。
  再び自分の手元にチョコが戻って、
  気持ちまでも拒否されたような錯覚に陥り(おちいり)、一粒の雫が髪を濡らした。
  実際、包みをよく見ていないので、クライヴはチョコだと気付いていないのだが・・

  「コレ・・・・・本、当は・・・クライヴ、の為に・・作って来、たチョコ、なん、です ・・・」
  一度走り出した感情を止める事はできず、後から後から頬を伝って雫は落ちる。
  包みを前に出しながら話をするが、
  しゃくり上げながら泣いているので中々うまく喋れない。
  「でも・・・・見た目、も悪い、し・・・味も、どうだか判ら、ないの、で・・・・・・・・やっぱりいいです!!」 
  自分でもどうしていいのか判らず、翼を広げて外に出ようとした。

 (最低!こんな事しか言えない私って!!)

  だが、外の空気に触れる瞬間、腕を後に引き寄せられ重心が背中に集まった。
  「!」
  目の前の視界が微妙に変る。
  「待て・・・」
  一体、何が起こったのかと思い状況を把握すると、
  後からクライヴに抱きすくめられていると知る。
  泣く事も忘れ、ただただ驚きを隠せなく眼を丸くさせ、体を預けている。
  「クラ・・・イヴ?」
  軽く顔を上げ、クライヴの顔を少し見上げる体勢となった。
  「・・何故・・・そんなにもお前は泣いている? その包みは俺に渡す物ではなかったのか?」

  クライヴの声が頭上で響く・・・

  「これは・・・絶対においしくないと思います・・・ そこにある物と比べると・・・・」
  視線は何時の間にかに置かれたチョコの方に走り、
  少々ふてくされたような顔で自分のチョコを見つめる。
  そんなアイラを見ながら、軽く手の力を緩めると

  「・・・一つ、貰えないか?」
  「えっ?」

  アイラにとって、クライヴの予想外の発言。
  受け取って貰えないと思っていた。
  こんな形が外から見えているのだから・・・

  手を伸ばし、包みの中から一つチョコを取り出すとアルミカップを取り去り、口に入れた。
  アイラの方は様子を見て、いつでも回復が掛けられるようにと準備をしている。
  (ドキドキドキドキドキドキ・・・)
  自分では一生懸命作ったつもり・・・だった。
  リリィに教わりながらの初めてのチョコ作り・・・
  白い手がチョコまみれになるまで頑張り、
  指には、きざむ時につけた小さな切り傷が赤く腫れて生々しく現れている。

  「・・ど、どうです・・?」
  恐る恐ると答えを求めてみた。
  チョコを口に入れたまま何も言葉を発してくれなかったからだ。
  言われると、クライヴは声のする方に顔を傾け
  「・・・・美味い。」
  と、微かに笑みを浮かべて感想を述べる。
  ソレを聞いて驚いたのはアイラ。
  「えっ??! 本当に?? 本当に本当に????!!」
  眼をパチクリさせながら顔を上に持ち上げ、クライヴの顔を凝視した。
  お互いの距離が数センチだと言う事を感じずに・・・
  「クライヴ・・・無理してません?」
  未だにクライヴが言ってくれた事を信じられず、確認の意味を込めて聞いてしまう。
  「無理なんかしていない。ちゃんと食える。」
  アイラは先程まで泣いていたのが嘘だったかのように、満面の笑みを浮かべた。
  「良かっ・・た・・」
  安堵の息と同時に、そのままクライヴに持たれ掛けてしまう。
  「・・アイラ?」
  自分の胸の中ではスースーと寝息が聞えてきた。
  妖精達同様、慣れない事をして疲労が溜まり、
  さらに緊張の糸が切れ眠りに落ちてしまったようだ。
  「・・・・・・・こんなになるまで・・・」
  アイラの手を見、気遣うようにして自分のベッドに運んで行く。
  天使のままの姿なので寝かせる事は容易ではなかったが、
  羽を傷ませないようにと注意を払って布団を掛ける。
  満足そうな寝顔をしている天使に向かって

  「ありがとう・・・・・」

  と一言言うと、額に軽くキスをして、クライヴは自分の仕事を全うすべく森の中へと姿を消した。



  フロリンダとシェリーはそれぞれの勇者にチョコを渡したが、何も貰っていないロクスを不憫に思い、
  シータスが14日中にチョコを渡したらしい・・・

  「ロクス様。私からアレで何ですが、良かったら貰って下さい。」
  「あ、ありがとう・・・・・・」

  (男から貰っても嬉しくない!!!)



  ―この後、ロクスとアイラの信頼度が微妙に下がった事を知るのは極僅かな範囲の中である・・・― 
                              


 -END-




  (NO.33 葉月 様からのコメント)

 後書き〜♪との事で、はい、バレンタイン企画に出させて頂きました。
 何か話が纏まっていないなぁ・・・ (*_*)

 最初甘いのにしようかな〜とか思っていたのですが、中々詳しく表現
 する事ができないので、こんな感じに仕上がって ^^;
 人様の所で変な事をするのもどうかと思ってまぁ・・・

 うちのリリィはお姉さんタイプです。同僚、主君構わず面倒見ます。
 ゲームの方のイメージとは少し違うかもしれませんねぇ〜
 (休日にお菓子なんて作んないでしょうし)

 原案ではちゃんとロクスにも渡す予定だったのですが、
 気が付いてみたらアイラからシータスに変っていました(笑)
 アイラはクライヴの事で頭が沢山だったから、ロクスの所まで気が
 効かなかったんじゃないかなぁ〜?って思います
 (爆 ゴメンロクス・・ でも貰わないよりかマシ?)
 
 シータスって私の中ではそう言う所でも真面目なイメージがありまして、
 業務的、って言うと変かもしれませんがそんなふうに思っておりますです。

 本文の設定は、長編の方では少し変わってくるかもしれませんね〜
                                        


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