〜乙女の決戦日〜 後編

さて、2月14日。乙女の聖戦日。
エリーナはドッキンドッキンと煩いくらいに鳴っている心臓を抑えて
寝室でクライブを待っている。
(だ・・・大丈夫よ、私!!あんなに、教えてもらったじゃない!!)
エリーナは、そう自分に言い聞かせたが今いち不安が残るのも事実だった。
何せ、三人が教えてくれたのはムード作りだけ。あとの事は何も教えてくれなかった。
『後のことは、クライブが優しく教えてくれるよ』とは
アイリーンのべん。他の二人も頷きながら苦笑をもらした。
『もし、私たちが事前に教えるとクライブが怒りそうだからね』
『それに、大事な事は夫婦で教えあうべきだと思いますよ』
(でもでも!!私は、本当に知らないんです〜〜〜〜〜!!)
泣きたくなる気持ちを必死でこらえ、エリーナはもうすぐやってくるであろう
クライブを思って・・・・気を失いそうになっていた。
一方のクライブはといえば、お風呂から出てさっぱりした気分で
寝室へとむかっていた。
「エリーナ・・・気分でも悪かったのか?」
思わず口から出た言葉は、今日のエリーナの様子がおかしかったからだ。
去年はバレンタインにチョコレートをくれたのだが、今年はくれなかったのも
ちょっとだけ気になっていた。勇者をしていた時もくれたのに・・・。
「忘れてるのか?」
でも、エリーナはそう言ったイベントを忘れた事はない。
『クライブと一緒に過ごせる毎日の中で、特別な一日になるんですよ』
と言って、笑うエリーナは確かにクライブにとっての天使だ。
だから、余計にチョコレートをもらえなかった事が気になってしかたなかった。
カシカシと頭をかきながら、寝室の扉の前へと立った。
そして、大きな溜め息をひとつ吐くと、扉のノブに手をかける。
(今夜も自制心と欲望との戦いか・・・)
泣きたくなるが、それでもエリーナを傷つける事に比べたらマシだ。
また一つ溜め息をついて、扉を開けると部屋の中はベッドサイトテーブルに置かれている
ランプの明かりだけで、他の明かりは一切ない。
闇の中でほんのりと灯るオレンジ色の光の隣にエリーナはいた。
しかも、蓑虫のように毛布をすっぽりとかぶり座っている。
「・・・・・・エリーナ?」
「・・・・・」
「どうしたんだ?」
電気つけるぞ、と一言断り電気をつけようとしたクライブの行動を遮るように
エリーナの言葉が宙に舞った。
「つけないで下さいっ!!」
せっぱ詰まった声に、クライブは顔をしかめながらも電気はつけずに
ソッとエリーナの傍によった。
エリーナの前に膝をついて、毛布の中からかすかに覗いている
エリーナの顔を覗き込んだ。
「・・・どうしたんだ?」
「あ・・・あの・・・そ、そのぉ〜」
「?」
クライブが不信がっていると、決心したようにエリーナはバサリッと
もぐっていた毛布を取り払いクライブに抱きついた。
抱きつかれたクライブはといえば、最初は何が起きたのか分からなくて
それでも光の中で見たエリーナの姿に、思わず鼻を抑えた。
「おいっ!!なななななな・・・・!!」
うろたえるクライブもめったに見れないだろう。というくらいの
うろたえぶりを知ってか知らずか・・・。
エリーナはぎゅう〜とクライブにしがみついたままで離れようとしない。
今、エリーナが身に付けているのはレイラが見立てた
白いふとももの辺りまであるかないかのシースルーのキャミソールだけ。
つまり、クライブは抱きついたエリーナの後姿だけだが
しっかりと見たのだ。エリーナのほぼ裸体に近い姿を。
「は、離れろ!」
必死の自制心と理性を総動員して、それでも欲望に負けそうになりそうな
自分を押し殺して、そう叫ぶように言ってもエリーナは離れない。
エリーナの身体を引き離したいが、白く華奢な身体に手を触れれば最後。
そのままベッドの上に押し倒しそうで、それもできない。
「い、イヤです!」
まだ震えるような声で言うエリーナに、クライブも負けじと大きな声で警告を繰り返す。
「いいから!!俺が、まだ人間・・・じゃなくてっ!!!」
もはや、頭の思考回路が壊れているクライブに、今が精一杯のエリーナは気付くことなく
震える声で、それでもハッキリとした口調で繰り返す。
「イヤです・・・離れたくありません」
「まだ・・・震えてるじゃないか・・・」
今、目の前に湖があれば飛び込んで、
いっそのこと三途の川を渡りたい気分だった。(それは、まずいだろう)
「いいから・・・まだ、お前が恐がっているのは分かってるから!」
「震えるのはしょうがありませんっ!!こんなこと初めてなんですからっ!!」
「だからっ!!せめて、震えなくなってからでも・・・・」
クライブが最後の言葉を言い終えないうちに、エリーナが叫んだ。
「抱いてくださいっ!!」
「・・・エリーナ?」
「抱いてください・・・そう願ってはダメですか?」
「・・・・止まらないぞ?・・・」
「いいです・・・クライブになら・・」
その言葉を聞いて、クライブは理性の糸が切れる音を聞いた。
クライブはエリーナの言葉を聞きながら、優しく性急にならないよう気をつけながら
ベッドの上へと小さな身体を横たえさせた。
真上からエリーナを見下ろし、下からクライブを見つめる瞳に小さな口付けをした。
それから、顔全体にキスをしながら、最後に唇を合わせた。
最初は優しくついばむだけ。それから、じょじょに深く強くあわせる。
「ふ・・・ふぅ・・・」
息をあげたエリーナに気付き、クライブは唇を離した。
エリーナのキャミソールの肩紐に手をかけると、エリーナが思い出したように
声をあげた。
「あの・・・」
「何だ?」
あくまで優しく聞きなおすクライブに、エリーナは困ったように尋ねた。
「私は何をすればいいのでしょうか?」
「・・・は?」
「本当に、恥ずかしいですけれど・・・分からなくて・・・」
恥ずかしい事ではない。と、訂正するクライブに少しだけ安堵した表情を浮かべ
エリーナは言葉を続けた。
「私はクライブのために、何か出来る事はないのでしょうか?」
クライブは本当に嬉しそうに微笑み、エリーナを力の限り、それでも柔らかく抱き締めた。
「おいおい、それは教えてやる。だから、今日は」
普段は、エリーナですら初めて聞いたような、低く甘く艶のある声で
クライブはエリーナの耳元で呟いた。
「俺の事だけ考えて、俺に愛されていればいい」


「はぁ〜、上手くいってるかなぁ」
街の宿屋の一室に、アイリーンとレイラとセシアは一緒に酒盛りをしていた。
「いってるでしょう?」
「きっと・・・」
ワイングラスを傾けながらレイラは窓から街を見下ろした。
静かな光がポツリポツリともれている。
その中で、ふと見知った影が三つ歩いているのに気付いて
レイラが他の二人を手招きした。
「ねぇ?今日は大勢で盛り上がれそうね」
そう笑ってアイリーンは窓から、三人の影の名前を大きいな声で呼んだ。
「フェイン!ロクス!!ルディエール!!!」
名前を呼ばれた三人は一斉に声を主を探し始めた。
「ここよっ!!」
ようやく声の主を見つけた三人は、驚いた表情を浮かべた。
「ね!暇なら、私たちとお酒のも〜!」
「美女、三人がお相手するわよ」
「どうですか?」
アイリーンとレイラとセシアの問いに、三人は顔を見合わせ
代表してかロクスが口を開いた。
「お酒は僕たちが参加してもいいくらいに、あるんだろうな?」
「もちろん!」
アイリーンの明るい声に、三人は頷いて宿屋の中へと入ってきた。
「なぁ。今日は不思議な日だな」
ロクスは階段をあがりながら、他の二人にそう言った。
たまたま、今日はロクスがこの街について、ほぼ同時刻にフェインと出逢った。
久しぶりなんだから。ということで、酒場に行く途中でルディエールに出会い
そのまま酒場へと直行する途中で呼び止められたのだ。
「まさか、あの三人に逢えるなんてな」
「本当だなぁ〜」
そう言いながら、明るい声が聞える部屋の扉をノックすると
アイリーンが招き入れるように扉をあけた。
「いらっしゃい!」
「お邪魔するよ」
もうすでに、酔っ払っている様子の女性組みに
男性組みは「大丈夫か?」と声をかけた。
「平気!今日は記念日だからね〜。精一杯盛り上がらないと!」
「そうそう。あとは、素敵な偶然の再会にも感謝してね」
「ほら、早く飲みましょうよ!」
グラスを差し出され、男性組みは苦笑しながらグラスを受け取った。
「偶然の再会はいいとして・・・。記念日ってなんだ?」
「ん〜〜?だって、今日は乙女の記念日バレンタインじゃない?」
何かを含んだアイリーンの言葉に、レイラとセシアは顔を見合わせ「ね?」と
微笑みあった。
「まぁ・・・いいか。楽しい酒ならな」
そうロクスは言って、グラスを持ち上げた。
「それじゃあ・・・・」
「乙女の記念日と!」
「素敵な再開を祝して」
「「「かんぱ〜〜い」」」
カチンとグラスが重なり合う涼やかな音が辺りに響いた。

                 HAPPY VALENTINE´S DAY!!



(NO.89 朝井 智樹 様からのコメント)

クライブファンです。私・・・。なのに、こんな駄作でスミマセン(汗)
ええ、同盟の皆様方に撲殺される覚悟はしております・・・。
クライブが偽者ですので(遠い目)


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