愛するということ≪V≫


レイヴに剣を突きつけられ、アシュタロテはラビエルを捕まえていた手をゆっくりと
離した。離されたラビエルは苦しそうに咳き込んだがどうにか自分の力で立っている。
アシュタロテはそれを横目で見ながらも隙を作らず、レイヴへ話しかけた。
 「ほう、私の術が解けたようだね。」
 「いや、解けたんではない。お前が何をしようとしているのか、想像はついていたからな。
 術をかけられたフリをしていただけだ。」
と、レイヴはあっさりと答えた。
 「しかし、私をココで殺せば私が魔法で生き返らせたお前も死ぬよ。いいのかい。」
 「構わんさ。俺はもう死んだ身だからな。」
レイヴはアシュタロテを睨みつけたまま一歩もひかなかった。
それでも、アシュタロテも隙を見せなかった。
が、向こう側にいたクライヴが何もなかったように立ち上がったのはさすがに驚いた
らしかった。
 「貴様。何故あれだけやられておいて立ち上がれる。」
 「全て演技だ・・・。」
 「奴には演じてもらっていただけだ。お前が奴と話す機会をくれたじゃないか。」
アシュタロテには思い当たる節があった。
 「あの剣を交えた時か?」
と、レイヴに訊ねた。それに対してレイヴは「ああ。」とだけ答え剣をアシュタロテ
に向けたままラビエルのほうへ移動し自分の後へラビエルを隠した。
 「大丈夫か?」
と、レイヴの優しい声がラビエルを包み込む。
「えぇ。」とだけ答え、微笑んだ。それに答えるようにレイヴも微笑む。が、それを
見たアシュタロテはフッと鼻で笑った。
 「しかし、お前は甘すぎるよ。この女を救いたけりゃ私を殺せばすむはずだろう?な
 のに何故私を殺さなかった。」
 「それは・・・。」
レイヴの顔から笑顔がなくなる。アシュタロテは、
 「その女と話す時間が欲しかったか?そうだろう?」
と、にゃりと笑った。ラビエルはそれを聞くと驚いたようにレイヴの顔を見上げた。
 「レイヴ・・・。」
 「ああ、君と話したかったんだ。あの時君を一人にしてしまったこと俺は後悔してい
 る。君に辛い思いをさせないと約束したのにな。」
と、ラビエルに対して苦笑いを向けた。
 「バカな男・・・。」
アシュタロテのその言葉と共に彼女の翼が形を変えレイヴの胸を突き刺した。それは
一瞬のことで、レイヴは口から大量の血を吐き、ラビエルの前へ倒れた。
 「レイヴー!!」
ラビエルはレイヴの体を受け止め、すぐさま回復魔法をかけた。しかし、それはもう
遅かった。レイヴの体は見る見るうちに肉が溶け、骨が現れる。それは本来レイヴの
あるべき姿だった。死んだものとして当たり前の姿・・・。
 「どうして、どうしてやっと会えたのに・・・。」
次から次へと涙か溢れる。それをアシュタロテは良い様だと笑い、ラビエルに向かっ
て攻撃を仕掛ける。その攻撃をクライヴがどうにか受け止めた。
 「ラビエル、しっかりしろ悲しむのは後だ!!」
クライヴは剣でアシュタロテを振り払い、ラビエルから遠ざけた。
 「ちっ。」
アシュタロテは一瞬顔を顰めたが、またニヤリと笑い。
「ブラムス、出番だよ。」と、あの大男の名前を呼んだ。すると地面からクライヴ目
掛けて腕か伸び、クライヴの首を掴んだ。
 「!?」
クライヴは何が起きたのか分らなかった。しかし、ブラムスの手に力がこもると、こ
とを理解した。
 「くっ。」
ぎりぎりと首を締め付けられる。意識がだんだんと飛んでいくのが手に取るようにわ
かった。
 (くそっ、このままじゃ・・・。)
 「おいおい、王子様。もうこれでお終いかい。あの女に付いてくりゃ強い相手に会え
 ると思ったんだが期待外れのようだな。」
と、クックッと喉を鳴らし笑う。しかし、その瞬間しかだった。女の闇を裂くような
声が聞こえ、そして辺りに血の香りだ漂う。
嫌な予感がクライヴの中を駆け巡る。
 「ラビエル・・・?」
それを聞いたブラムスはチッと舌打ちし、
 「その女はいたぶって、殺すんじゃなかったのか?」
とゆっくりアシュタロテの方に振り返った。
 「おい、嘘だろう・・・。」
急にブラムスの手の力が抜けて、ドサッとクライヴは地面に落とした。クライヴはま
だはっきりとしない意識の中でその光景を目にした。
一本の氷の柱がアシュタロテの体を貫き天へと伸びている。そしてその横には頭蓋骨
を抱きしめ笑うラビエルの姿・・・。
 「あの女、いかれてやがる。」
ダラダラと冷や汗をかきながらブラムスは後退りし、逃げる機会を窺っている。しか
し、ラビエルは一歩一歩ゆっくりとこっちに遣って来る。ブラムスの体は無意識のう
ちに震えだしていた。そして、クライヴの体も。だが、クライヴは立ち上がり恐怖と
言う感情を消そうとした。が、ブラムスの恐怖はもう限界に達そうとしていた。
 「やめろ・・・やめろ・・・、それ以上近づくなー!!」
と、ブラムスはわめきだしてしまった。それをあやすかのようにラビエルは微笑む。
その瞬間ブラムスを青白い炎が焼く。耳に残るほどに苦痛の叫びを上げ燃える。まる
で地獄にいるような恐ろしさをクライヴは感じた。
 (ラビエル、ダメだこれ以上やったら君は戻れなくなる。)
 「レイヴ、もう少しよ。もう少しで、皆殺し終えるから。」
と、クライヴの気持ちが届かないかのようにラビエルは無邪気に笑う。
 (もう、俺じゃ止められないのか・・・。)
と、クライヴは思ったが、
 (いや、奴にあの時頼まれたんだ。ラビエルを救ってやってくれ、傍に居てやってく
 れと・・・。)
そう、クライヴはレイヴにやられたフリをしてくれと頼まれた時に、ラビエルを救っ
てくれと言われていたのだった。
ラビエルを刺激しないように近づき、優しく抱きしめた。
 「もういいんだ。もう・・・。」
その言葉がまるで呪文のように、ラビエルの怒りと悲しみを打ち消した。カシャと、
音をたて彼女の手から頭蓋骨が離れる。「ゴメンなさい、スカイ。ゴメンなさい、レ
 イヴ。私はもう・・・。」
と、最後まで言うことが出来ずラビエルは泣き出してしまった。クライヴはそんな彼
女を強く抱きしめ続けた。



それから何年経っただろう。天竜を倒し、世界に平和が戻た。
レイヴンルフトを倒した今でも、アンデットたちは人々の血を求め出没している。
クライヴはいまだ戦い続けている。
墓場の中に映る青年の姿。クライヴだ。
 「やっと終わったな。」
と、ため息をつき宿屋へと足を急がせる。
 「もうすぐ夜が明けるな・・・。」
と、東の空を見る。すると、向こうの方から小さな子供と、その母親らしき女が歩い
てくる。その子供はクライヴを見つけると、一生懸命手を振って走ってくる。それを
追いかけるように、母親の方も走り出す。
「パパ。お帰りなさーい。」と、クライヴに飛びついた。すると、クライヴは「ただ
いま。」と、優しく微笑みその子を抱き上げる。そして母親の方に目を向ける。そこ
には翼を捨て人となったラビエルの姿があった。彼女は、「お帰りなさい。」とクラ
イヴに満面の笑み見せる。それに答えるように彼もまた微笑み、
「ただいま。」と返す。

 (ラファエル様、私は今とっても幸せです。)

 ≪終わり≫


 


 (コメント)
やっと、終わりました。なぜか子供が出てきてしましましたね。
気にしないで下さい。名前が無いわき役です。
今回、挿絵?も添付いたしました。
使っていただければ幸いです。
そして、皆様の感想をお待ちしております。
良ければ、いろいろと聞かせてください。
今後の小説に役立てたいを思っております。
それでは、長い間ありがとうございました。 
                                 翼人



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