もしも、効果の分からぬ薬があったら……≪T≫





 「よお、天使様じゃねえか。ロクスならここにはいねえぜ。」
 「……クラレンス…私のことを天使様と呼ぶのはやめてくれませんか?」
 人がいないときならまだしもここは酒場である。
 そんな中で『天使様』などと呼ばれては客が反応しないはずもない。
 「そんなこと言われてもなぁ。天使様は天使様だろ?」
 クラレンスが『天使様』と言う毎に客の目はレゼーヌの方へ向けられる。
 「…それはそうですが……ここではその言葉は非現実的なものですから。それに……居心地悪いです…。」 
 「じゃあよ、なんて呼べばいいんだ?」
 「……レゼーヌでいいです。」
 「俺には合わねえな……やっぱ天使様で通させてもらうぜ。」
 何時までもここで呼び方について話している気はないレゼーヌは近くの椅子に腰掛けました。
 「……分かりました。貴方とはそんなによく会うわけではないですからお好きなように呼んで下さい。」
 「そうさせてもらうぜ。……ところで天使様がこんな所に何の用だ?」
 ロクスに用がないのに態々天使がこんな所に来る理由をクラレンスは知りたいようだ。
 それはレゼーヌのとって一番簡単な質問だった。そのため僅かな時間もおかずに答えられた。
 「お酒です。美酒を求めてやって来ました♪」
 「……もしかして、天使様は飲兵衛か?」
 「失礼な方ですね。私はただ、美味しいお酒を沢山飲みたいというだけです。」
 「いや、だからそれを俗に飲兵衛だと……。」
 何時までもクラレンスに付き合ってはいられないとばかりに早速ワインを頼むレゼーヌ。
 運ばれて来たワインをグラスに注いで飲もうとした時にクラレンスが待ったをかけた。
 「……何か用ですか?」
 これからの自分の楽しみを途中で止められたと言うことで幾等か声のトーンが下がって来ている。
 「ああ、天使様はカード出来るか?」
 質問を聞いたレゼーヌはまず一口ワインを飲んでから答える。
 「ええ、以前貴方とロクスが勝負をしているのを見ていましたから…一通りは……。」
 「それだったら問題ねえな。俺と勝負しねえか? この辺にいる奴等の手はもう読めちって
 つまんねえんだよ。
 天使様が勝ったら何か好きなものやるからよ。」

 「え……いいのですか?」
 好きなものに反応をする……この辺は人間も天使も同じである。
 「ああ、男に二言はねえよ。」
 「では、貴方が私に勝ったら私が何かあげればいいのですね。」
 「いや、俺は何もいらねえよ。俺を楽しませてくれればそれでいい。」
 本当にクラレンスは勝負がしたいだけのようだ。
 「……貴方がそれでいいと言うのでしたら……。」
 「構わねえよ。じゃあ始めるとするか。」
 その言葉を合図に回りから人が集まってきた。


 「おいおい、あのヴァイパーが女と勝負だってよ。」
 「なんでも、天使様らしいぜ。」
 「勝ったら何でも好きなものやるって約束までしてるってよ。」
 「で、今どっちが勝ってるんだ?」
 「あ、また上がりました。」
 勝負の時には表情一つ変えないレゼーヌが手札を表に返す。
 それを見たクラレンスはコインを渡します。
 「……ほらよ。」
 「有り難う御座います。」
 しかし、以前に自分とロクスの勝負を見ていただけでこんなにも強いものなのかと不思議に思うクラレンス。
 ギャンブラーとしてここは聞いておかなくてはいけないだろうと言う事で質問することに。
 「なあ、天使様よ。何時カード知ったんだ? 明らかに俺達の勝負が初めてって訳じゃねえよな。」
 「ええ、色々とあってこういう賭け事には強いのです。」
 そういうことは勝負をする前に言って欲しかったと思うクラレンス。
 「あ、また……。」
 「…………。」
 「ヴァイパーが一方的にやられてるぞ。」
 「遂に運が尽きたんじゃあねえか?」
 本人達は小さな声で話しているのだろうが、その声はしっかりとクラレンスの耳に届いていた。
 しかし、ここは潔く負けを認めざるをえないところまで来た。
 「……天使様、もう俺の負けだ。どう足掻いてもここから逆転勝ちを狙うことは出来ねえ。くやしいがな。」
 「そうですか……まあ、早く片がついてよかったですけど…。」
 早いというものではない、まだ勝負してから10分と経っていなかった。
 「まあ、時間なんてそんなに気にするもんじゃねえよ。で、天使様の欲しいもってのは何だ?」
 「貴方の全財産の三分の二を下さい♪」
 勝負が終わったということで顔に表情が戻る。
 レゼーヌとは反対に表情を無くすクラレンス。
 「……三分の二…?」
 「ええ、本当は全て欲しいのですが、それではあまりになので、三分の二で我慢をしようと。」
 「……見かけによらずすげえ事言うんだな……。ほらよ、約束は約束だからな、持ってきな。」
 「有り難う御座います♪ では、私はこれで失礼しますね。」
 クラレンスから手渡られた袋を持って酒場を出る。その背に声をかけるクラレンス。
 「帰り道には気をつけろよ。誰が狙ってるか分からねえからな。」
 「御忠告感謝します。でも大丈夫ですこのお金は私が守ります。」
 「いや、金だけじゃなくて、あんたの身もだな……って、いねえ。」


 酒場を出て来たのはいいもののこれからいったいどうするか。
 このまま天界に戻ってしまってはこの金はなくなってしまう。
 だからと言ってこれから一人で使うには多過ぎる金額。
 と言う訳でレゼーヌが取った行動とは……。
 「クライヴ、これ預かっていて下さい。」
 そう、地上界に置いておけば消えることがないということでクライヴの元へやって来た。
 中に何が入っているかも言わずにただ『預かっていて』と……。
 「……なんだ、これは?」
 「お金です♪ このまま私が持って帰ってしまうと消えてしまうので……それだったら誰かに預かっていて
 もらえばいいのではと。」

 クライヴは渡された袋とレゼーヌの顔を交互に見た。
 「どうやってこれほどの金を手に入れた。」
 預かっているのは構わないが、問題なのはその入手方法。
 「……クラレンスというギャンブラーがいるのですが、この方とカード勝負をして勝って手に入れました。」
 「……そうか、分かった……。」
 分かったとは言ったものの、まだ腑に落ちない点があった。
 「……何故俺のところへこれを持って来た。」
 その点とは、勇者は他にもいるのに何故その中から自分が選ばれたのかということだった。
 しかし、その質問には答えが出ない。
 何故ならレゼーヌ本人にも、クライヴにそれを預けようとしたのかは理由として何も持っていなかったのだ。 
 そのためレゼーヌの思考ルーチンがフル活動をし始めた。
 一回活動を始めるとなかなか止まらないそのルーチン……しかももの凄く遅い。
 考えても出てきやしない答えを求めようとするので尚更時間がかかる。と言うよりも
 誰かが止めなくては止まらない。

 少ししてからレゼーヌの異変に気付いたクライヴは慌てて肩を揺さぶった。
 「?……クライヴ…。」
 一気に思考を中断されたせいかポカンとしてクライヴを見上げるレゼーヌ。
 「…もうそのことは考えなくてもいい。ない答えを求めていても時間の無駄だ。」
 「……ない答えって……あるかもしれないではないですか! 出てくるまで考えます。」
 くるりと後ろを向いて腕を組み首を傾げている。
 クライヴは悩んだ。このままにして置いては周りの様子にはまったく気付かずに
 ずっとこうしていることだろう。

 しかも考えることに対して意地になっているため、こちらの言葉には聞く耳すら持ち合わせていない。
 暫くして諦めたのだろう、レゼーヌは肩を思いきり落とし溜息一つ。
 「はぁ〜。……思い浮かびません……何故私はそれを貴方に預かって欲しいと思ったのでしょう?」
 「それを俺に聞かれても困る……。」
 語尾が少し上がっていることから質問を投げかけられたことに気付いたクライヴ。
 しかし、当然のことながらクライヴは答えを持っているはずなかった。

 「ですよね……。でも一度預かってくれると言ったからには預かってもらいますから。」
 「ああ、必要になったら取りにくればいい。」
 「はい、そうさせてもらいますね♪ あ…もうこんな時間なのですね、ではこれで。」
 「……気を付けて帰れ。」
 同じ様な言葉をクラレンスにもかけられたなと思いながらも心配をしてくれていると言う事に少なからず
 喜びを感じているレゼーヌ。

  「はい、クライヴも気を付けて下さいね。お金。」
 一瞬自分のことを心配してくれたのかと思ったクライヴは後に続いた言葉を恨めしく思ったとさ。








  (コメント)

 第一弾、第二弾とはまた別のお話です。
 はい、今晩は。もしも〜第三弾です。まだ本題には入ってきていないのです。
 でも、これがないとこの先進めないので……。で、二弾に続いてクラレンス登場です。
 実は慣れると扱いやすい

 ええ、これもチャットでですね……if...置き場がチャット話置き場になりつつあります(汗)
 しっかり見直して、間違いがないようにして同盟へお届け♪……なんだか○ザ○ラお届け♪ 
 って感じです(爆)




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