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天使の憂鬱〜吸血鬼ハンター〜
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クライヴ・セイングレント。
彼の人生は闇色に染め上げられていた。
吸血鬼に捧げられた女性の腹から生まれ、育ての親と師匠を
吸血鬼に殺されるという悲惨な生い立ち。
今でも彼は、かたきである吸血鬼と戦い続けている。
その一方で、毎夜のように騒ぐ、吸血鬼の血に屈しそうになる
自分を抑える苦悩の日々を送っていた。
そんな彼がある出逢いをきっかけとして人生の転機を迎える
こととなる。
月夜も眠るうしみつ刻。
辺りの闇は濃密で天空にかかる月だけが光を放つ。
風すらない。
夜の静寂の底から亡者たちのうめき声が響き渡る。
ざんっ。
深い夜をも切り裂く鋭い銀光と共に剣が振り下ろされた。
うごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
苦悶の声を発して動かなくなったそれに目もくれず、青年は
横から襲ってきたゾンビに一太刀浴びせた。
返す刀でまた別のゾンビを斬捨て、背後に迫った殺気に横へ飛び退く。
攻撃を避けられて体制を崩すゾンビ。
そこへ一撃加える。
その動作には少しも隙がなく、機械的にすら見える。
彼は今日も“仕事”の真っ最中だった。
この場所へ来てから大分経つ。もう何体のゾンビを葬り去った
のやら分からない。辺りに潜む気配は段々と少なくなりつつあ
る。おそらくもう少しでここらの連中を一掃できるはずだ。
刀を構え直して目前に迫っていたゾンビを斬り伏せようとした
時だった。
突然眩しい光が虚空に生まれた。
それは彼が斬ろうとしていたゾンビの頭上に出現し・・・・・、
「!!うわわわわ!何これ〜〜〜〜!」
と慌てたような声を発した。
直後、どさっと重いものが落ちるような音。
それが天使ユエが初めてアルカヤの地に降り立った瞬間だっ
た。
“あっちゃ〜。テレポート失敗しちゃったよ。”
とりあえず辺りの状況を確認すべく立ち上がろうとした彼女の
目に入ったのは、自分に襲い掛かろうとしている、月光の如き銀の刃。
考えるいとまなどない。ユエの身体は自然に動いた。
「真剣白刃取りぃぃぃぃ!なんちゃって。」
おちゃらけた掛け声と共に青年が振り下ろした刀を両手で受け止めた。
「!!」
それまで無表情で亡者を斬り捨てていた青年の顔に初めて
驚きの色が浮かんだ。
目前にいるのは燐光をまとった女。彼女から発せられる気は
この場所に似つかわしいものだった。
しかも後ろに見えるのは純白の翼?
それだけでも驚愕に値するのに、彼女は彼の刃を素手で受け止めていた。
これははっきり言って驚くなという方が無理であろう。
思わず硬直する青年。
そんな青年を天使ユエはぎろりと睨むと一気にまくしたてた。
「あなたねぇ!!危うく死ぬところだったじゃないのよ!
こんなか弱い身を守る術も持たない、いたいけな乙女に向
かって斬りかかるなんて一体どういう了見よ!」
刀を素手でつかむような女のどこが“か弱い乙女”なのか。
それに正確にいうと彼が斬ろうとしていたのはゾンビである。
彼女がゾンビの上に出現、落下したために、そうなってしまっただけで。
ユエの言葉によって青年は硬直から解放され、改めて彼女を
見直す。ごく平凡な、その辺にいるような女だ。黒髪に黒い眼。
顔立ちは格別美人というわけでもない。
ただ背中から生えた羽と、神々しいまでの気が彼女が人外のも
のだと物語っている。
「お前・・・一体何者だ?魔物ではないようだが・・・・」
再び無表情に戻った青年は低い声で問うた。
「あのねぇ。私が何者うんぬん聞く前にその刀引っ込めてくれ
ない?手が痛いのよね。さっきから。」
女から敵意や殺意は感じられない。青年は力を抜いて刀を下
ろした。ただしそのナイフのような紫の瞳は彼女に据えられたままである。
ユエはため息をついて手を見た。鍛えているとはいえさすがに
無傷とはいかない。傷を治すべく治癒魔法をかけようとしたその時・・・・・・・・
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然の咆哮。殺気。先ほどユエの下敷きになったゾンビが復
活して襲い掛かってきたのだ。その一撃を難なくかわすユエ。
「死者は死者らしく、あの世で茶でも飲んでなさい!」
罵声と共に必殺の蹴りをお見舞いしてやる。
ちなみにユエのはいているブーツはただのブーツではない。
ラツィエルお手製のスパイク仕込みのブーツである。
ついでに今の蹴りには破魔の気を込めておいた。
たまらず土へと帰すゾンビ。
「ゾンビごときがこの私に触れようなんて10万光年はやくてよ。
ほほほほほほ!]
腰に手をあてて高笑いするユエ。しかし勝利に浸る間もなく、
数体のゾンビが2人に迫る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
青年は無言で刀を一閃、二閃させた。その度にゾンビ達が地に
倒れ伏す。
「んもう!あんたらうっとおしいわよっ!消えなさい!」
ユエが手をかざすと、淡い光と共にその手にヌンチャクが
出現した。それでもってゾンビを殴って、殴って、殴りまくる。
こちらも複数の亡者達を葬った。
数分後、2人は全てのゾンビを倒していた。
「ふぅ〜〜〜。これで全部・・・か。ったく。手間取らせちゃって。
雑魚が何匹来ようと変わんないっつぅ〜の。」
ぶつぶつ言いながら先程、青年の刀を受けて負った傷を治して
いるユエ。
対照的に、黙ったまま刀を懐紙でぬぐい腰の鞘におさめる青年。
奇妙な沈黙がその場に流れた。
“う〜〜。どうしてこの人何も喋らないのよ。
・・・・・・まぁいいか。こっちの用件だけ言っちゃえば。
断られたらその時はその時よね。”
いずまいを正すと咳払いしてユエは話し始める。
「こほん。え〜と、あなたはクライヴ・セイングレントですね。
私は天界からやって来ました、天使のユエと申します。
実は今日はあなたにお願いがあって・・・・・・・・」
「・・・・・本当に天使なのか?」
話続けようとするユエを遮ってクライヴは尋ねた。
嫌味でもなんでもなく、彼はただ単純にその疑問を口にしただ
けだったのだが・・・・・その瞬間ユエの顔が引きつった。
“こいつ・・・・無口なくせに痛いトコ突いてくるわね。
いやいやこれくらいの事で怒っては駄目よ。確かに翼がなきゃ
全然天使に見えないもんね。私って。インフォスの勇者達にも
散々言われたしね。ここはスマイルよ。“
不自然な、強ばった笑みを浮かべて天使は言った。
「ええ。お疑いなら今この場で飛んで見せましょうか?」
背中の羽を動かしてみせる。
「いや。必要ない。」
「・・・・・・・・。それで、お願いがあって来たのですが、あなた
勇者になって頂きたいのです。勇者というのは・・・・・」
クライヴの言葉に再び引きつりながらもユエは一気に喋った。
今、このアルカヤの地に混乱が起こっていること。
勇者の意味や役割について。
クライヴはその間も終始無言だった。相槌すら打たない。
夜の闇にも似た、漆黒の髪。水晶のような鋭い紫の瞳。
冷たいまでに整った顔立ち。
“顔はこの上なく私の好みなんだけどねぇ・・・・・・・
勇者ってひょっとして顔で選んでない?インフォスの時も皆
美形だったしね。そういう意味じゃこの仕事ってすごくおいしいかも。”
その美貌に内心感嘆のため息をつきながらユエは言葉をつないだ。
「そんなわけで如何でしょうか。私の勇者になって頂けませんか?」
じっと目の前の青年を凝視する。彼の表情に相変わらず変化
は見られない。ユエの視線を真っ向から受け止め、クライヴは
重い口を開いた。
「そうか・・・・。分かった・・・・頼みたいことができたら来い。」
それだけ言うと、クライヴはふいっと視線を外した。
これ以上話す事はないとばかりにユエに背を向け、闇へとむ
けて歩き出す。
「へっ・・・・・。って・・・それだけなわけ?!」
一人取り残されたユエ。その叫びは空しく虚空へと消えてゆく。
“前言撤回。そう・・・・インフォスの勇者達は美形だったけど
皆、性格に難があったじゃないの。なんか手のかかる子供が
6人もいたようなもので・・・・。クライヴなんてレイヴに近いわ。
あの無表情で無口で何考えてるんだか分からないトコなんて
特に似てるわね。でも!レイヴだってもう少しリアクションって
ものがあったわよ。いくらなんでも反応が薄すぎない?“
ひどく疲れた顔をして、ユエはがっくり肩を落とした。
“ああ・・・・・。なんかすごく疲れたわ。帰ってシータスにお茶
でも入れてもらおう。“
もはやテレポートする気力もなく彼女はふらふらと飛び立った。
尖った月が冷えびえと、無機質にあたりを照らしている。
彼のふるう刀は月に似ている。
意味も無くユエはそう思った。
END
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(コメント)
なんかすごく中途半端ですね。
ギャグなんだけどギャグに徹しきれてないような。
反省・・・・・・・。
でもらぶらぶもしたいです。
こんなのを読んで頂いてありがとうございました。
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