三峡クルーズ(sankyo)

三峡クルーズ
長江の客船「女王号」で著名な作詩書家の先生と

 家内の還暦記念のイベントとして「どこかに行きたいね。」と話している内NECドリームクラブからの案内で「上海と三峡クルーズの旅」というのがありました。
 エージェントによってはもっと廉価なツアーもありましたが、二人のスケジュールの都合で、このツアーに参加することにしました。
ホテル、食事などの“心配度”からみると、そんなに高いとはいえないなと評価しました。
 ツアーのグループは11名のこぢんまりとしたもので大変家族的な旅行ができました。

 クルーズの船上ではいろいろなアトラクションや展示即売などがあり、筆ではなく指を使う書道の著名な書家が、即興で名前などを読み込んで漢詩を作り揮毫してくれるというものがあり、このたびの旅の記念に「足立 征一 幸恵」を読み込んだものをお願いしました。作品は次のようなものでした。
 




(ここの読み下しは横書きとなります)

智にり多くを謀り運の神が伴う

業の地には風が臨み

程の路上には好き伴侶があり

帆風順にして耕耘勤なり

(聡明で、ラッキーな神様が身に伴っている
 事業を創立すれば順風が吹く
 人生の路では良いパートナーと出会い
 一路順風で勤勉に働く
         =作詩者の解説=)

 はからずも自分の名前を読み込んだ漢詩(七絶)が三編もできました。内容はそれぞれおめでたいものばかりで、本人の業績とか人間性の高潔さなどとはまったくリンクしていませんが、頂戴した本人としては大変にありがたく感じています。
 これらの詩に書かれたような人間に(今さら遅いのは良くわかっていても)なれるよう努力しようなどと考えてしまいます。

 水墨画を描き、書道に親しみ、漢詩創作を目指し、太極拳を習い始めた自分にとって中国の旅は、なにはさておき体験しなければならないものでした。そして、中国のとてつもなく偉大な歴史を思うとき、計り知れない奥の深さを感じます。今回の小旅行はほんの一部に触れただけですが、折に触れてまた出かけてみたいと思います。
 先の不幸な戦争の末期、昭和19年の秋40才前の父が第3次補充兵として招集され訓練もそこそこに中国へ出征していきました。3年後シベリア抑留からかろうじて生還しましたが、その後多くを語ってはくれませんでした。しかし、脛にまともな治療を受けていないような骨折の傷痕があり、筆舌につくせないような苦労と困難を体験したことがわかりました。その父が「戦争でなければ、もう一度中国へ行ってみたい。」と、中国の文化に対する憧憬と尊敬をもらしたことがありました。そして、長い間その中国とはどんなところなのだろうと考えておりました。
 最近ではマスメディアも発達し居ながらにして様々な国の風俗や歴史を目の当たりにできますが、やはりこの目で確かめるのが一番かなと思います。

 また、この旅では大変感動的な出会いを経験しました。
 昭和38年頃の話ですが、仕事の関係で「広帯域多重化伝送路の雑音設計」についていろいろな技術論文やレポートを調べていた頃目にした「酔歩の理論」という大変にユニークな題の論文がありました。発表者の名前もはっきり覚えていました。そして、今回のグループの中に同じ名前があることを発見しました。旅程もおわりに近づいたある日、夕食のビールと紹興酒の酔いにも背中を押されて思い切って「ひょっとして“酔歩の理論”の**さんですか?」とたずねてみました。「やー!こりゃーびっくりした!」と本当にびっくりされたようでした。「若い頃あの論文に大変お世話になった者です。」と自己紹介しました。昭和28年に発表された論文ということでしたので当時35、6才のバリバリのエンジニアだったことでしょう。
 理論そのものは、ランダム雑音が長距離伝送路でどのように相加されるかといったようなことを確率論を駆使して解析し、設計者に指針を与えた世界レベルの論文ですが、ネーミングから想像しても「酔っぱらいが駅から自宅へ帰るとき、ふらふらと千鳥足でよろめきながらも、けっこう最短距離からはずれることなくわが家にたどり着く」といったようなことを想像させる面白さがあり大好きな「題」でした。
 若い頃は毎晩のように飲んでベロベロになり、しかしそれでも、あの素敵な奥様の顔を思い浮かべて、ちょっとでも早く家に帰ろうと、道路の幅をいっぱいに使って左右によろめきながら歩いている姿が、あの「論文の題」から想像でき、ご本人に会えてその確認ができました、といって大笑いになりました。
 一昔前なら、相手は日本の電気通信技術分野では大物中の大物、こちらは下っ端の一技術者で、そばによるチャンスさえほとんどなかったかも知れませんが、幸運にもご本人に対面でき大変に嬉しい思い出となりました。
 旅というものは、いろいろな体験をさせてくれます。「ウルルン滞在記」などにも負けてはいません・・・・・・


 再見!

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