〜講演会から〜


「心にふれる人とのかかわり」          
六甲病院緩和ケア病棟チャプレン  沼野 尚美 さん

2001年11月24日(土)コンパルホール

 私はホスピスで大きく二つの援助をしております。まず一つは、最後にしておきたいと願っておられることを成し遂げて頂く援助です。二つ目は旅立ちの援助です。  
 私の関わった患者さんのお話をさせていただきます。
 28歳の若いお母さんが5歳と3歳の子供を連れて入院してこられました。ご挨拶に行きましたら、荷を解いておられました。「ママの新しいベbド」と言って、二人の子供がベbドの上でトランポリン遊びをしています。お母さんは、目に涙を一杯溜めて「私、この子たちをおいて死ねますか?」とおっしゃいました。私は何と申し上げていいか言葉に詰まりました。「私はどんな姿になっても、この子達のために生きたい」と言われました。それで私は「生きていて頂きたい」と答えました。  
 それから彼女の療養が始まりました。彼女は精一杯頑張りましたが、ある日訪問した私に「沼野さん、私もうだめだわ」と言われました。「どうしてそう思いますか?」と尋ねましたら、「体で分かる。生きて行く元気が出ないのよ。」とおっしゃいました。そして私に「レターセbトを買チてきて」と頼まれました。私はその日の帰りにレターセbトを買い、翌日渡しました。彼女は5歳の自分の息子が小学校に入学する日まで生きられないということを思いましたBひらがなばかりで「今日、小学校に入学した○○君へ」という手紙を書きました。「お母さんは、あなたのことを見てますよ。あなたは立派なお兄ちゃんになりました。今日のあなたはとっても素敵です。これから小学校でたくさんお友達を作って下さい」今度は中学生になる姿を想像されて、漢字とひらがなを混じえながら、「中学生になった○○君へ。お母さんはしばらくご無沙汰していました。あなたはもう立派なお兄さんです。お母さんはいつもあなたを見ていますよ。あなたと一緒にいます。お母さんはあなたが大好きです。あなたはこれから中学生になチて、いろんな意味で責任をとチていかなければなりません。」そして「高校生になチた○○君へ」というふうに、一人の子供さんの成長に合わせて手紙を書いていかれました。二人目の子供さんに対しても同じように成長に合わせて手紙を書いていかれました。そして全部書き終わった時点で、ご主人様に渡され、こうおっしゃったそうです。「私は、若くしてこの世を去るとは夢にも思チていませんでした。あなたは30歳。もし将来子供たちを大事にして下さる人で、あなたと一緒になりたいという女性が現われたら結婚して下さい。私は天から再婚を祝福します。自分が長生きできるなら子供たちに少しずつ愛を注げるはずだチた。ところがこんなに短くしてこの世を去らなければならない。子供たちをどんなに愛しているかということを伝え続けたい。『お前たちを生んだお母さんからだよ』と、その時々にふさわしくその手紙を子供たちに渡してもらえませんか? 私はそれだチたら今できると思ったから手紙を用意しました。」とご主人様に渡されたそうです。 (講演の中から一部を抜粋)

著書の紹介 『いのちの輝き』大切な人の希望を支えて  沼野 尚美 著
       (くすのき出版 TEL&FAX 097-547-0741)
       B6版並製85頁 本体 460円