〜会報によせて〜

「ホスピスの現場から 外科医からホスピス医」 
大分ゆふみ病院 藤富 豊 さん

 22年間外科医として手術に明け暮れていた私が、平成14年4月からホスピス医として再出発を始めました。癌の患者さんが多く、自然に一般 病院での緩和ケアを試行錯誤していました。そのため一般医より緩和ケアを知っているつもりでしたが、その思いはホスピスに勤務して、一日で崩れさりました。ホスピスで重要なのは、患者さんや家族の訴えであり、苦痛です。あたりまえと思われるかも知れませんが、その多くの訴えは、一般 病棟では末期癌だから仕方がない、どうしようもないと問題にしていなかったことでした。外科医として病気と向き合い、治る事を目的としていた頃は、癌にだけ関心が向いており、病気の延長として死を見ていたのではなかったか、病気を持った人の訴えにどれだけ関心を持って聞いたのだろうか。ホスピスでは、医療者の視点で無く、患者の視点で病気を診てどう対処し、これから起こることに共に歩んでいくことを知りました。もうひとつは、ホスピスは死ぬ 場所であると思っていたことです。状態が悪化して意識が無くても、とにかくホスピスに入りたいという方もおられます。ホスピスは人として限られた時間を生きる場で、ここにきて家族といい時間を持つことが出来、穏やかに過ごす場であることも知りました。そのためには一か月の時間は必要です。今まで大分には、最後の時間を過ごす場を選択する余地が無かったのです。病院、自宅そしてホスピスと選択する幅が増えたのです。癌で亡くなる方のほとんどは一般 病院であり、今まで闘病してきた病院で最後まで過ごすことを望む方もおられ、そこで可能な緩和ケアも必要です。
 「やさしくしてくれてありがとう」手術した病院で末期を過ごしていたが、ホスピスに転院した家族が私たちに残した言葉です。