〜図書室から〜


書評 『成熟した死の選択 インフォームド チョイス』 (医歯薬出版)
       鎌田 實・高橋 卓志
小野寺 勉 事務局長

 長寿社会が到来し、元気で長生きしたい高齢者が今時急速に増加する一方、これを受け入れる医療、福祉、介護等社会システムが制度疲労を越えて崩壊の一歩手前にある。大都市は高齢者で溢れ地方は益々高齢者のみ、取り残され過疎化が進む。「同じ病気でも東京の人は助かり地方の人は助からない」これらの不公平をなくしたいと信州の山あいの街で、何人かの仲間と共に始めた地域医療の姿がこの著書の内容である。健康で長生きできる力は、まだ地方には有る。大分県でも農村部に見られるように「自分の家で死にたい」お年寄りの現実。即ち、延命治療の医療より生きていて良かったと思える安心できる地域づくりを目指した闘いの日々。事の始まりは地域の寺の住職の父の看取りにあった。「小さな街に小さなホスピスを作ってごらん」この宿題をもらった鎌田医師は「いのち」について彼の住職、高橋氏と二人三脚を始めた。
 「地域の中で寺は死にかけている。そこに住んでいる坊さんも瀕死の状態になっている。同じように『学校は死んでいる』をもじって病院は死んでいる。」二人は同時期に宗教と医療の在り方に疑問を持ちはじめていた。かって寺が最も得意としていた分野と医療分野とを連携させることである。いのちの現場に職場復帰を果 たし、地域のいのちを支える役割を教えてくれたのは、沢山の人々の死が、職場放棄をしていた我々に気付かせてくれたのだ。これらの死は自分自身が選びとった治療、死に方、死後の在り方で「インフォームドチョイス」の実現であった。この道の延長線上に「成熟した死」が・・・死への準備教育も究極の姿を教えて下さった様である。