〜図書室から〜


書評 『闇への道 光への道』 (こぐま社)
       ヘンリ・J・M・ナーウェン、ウォルター・J・ガフニー
影山 由利 運営委員

「もっと早く・もっとたくさん・もっと快適に」−そのような現代社会にとって、「老い」とは何だろうか。もはや何の有用性もなく、肩書きや仕事、健康、やがては友人まで失ってゆくまったくの「闇」であって、私たちはそこから目をそらすことで自分だけは老いることがないという幻想に逃げこもうとしているのではないか。かくして老人とそうでない者とは弱者と強者として断絶する。結局、老いることを「闇」としているのは、肉体の衰えや喪失以上に、人間の価値を「どのような存在であるか」ではなく、「何を所有しどんな活動をしているか」によってはかろうとするこの文明なのだろう。
 
だがこの私自身も老いつつあり、やがてこの世を去る存在であることを認めて『自分の生は贈られた貴いもの』とうけとめるとき、老人は「師」として迎え入れられ、私たちにすばらしい贈り物を与えてくれる。業績や身分・報酬・持ち物などによらない「その人自身」を差し出し合う、新しい生き方へ招かれるという贈り物である。そのとき「老いゆくこと」は「光への道」すじとなる。そして、それこそが、ケアする(世話をする)ということだと著者は言う。「もう何もできない人に何かをしてあげる」ためにではなく、「その人が大切な存在であることを告げる」ために心から共にいて、耳を傾けるということである。
 著者の一人、ヘンリー・ナーウェンはオランダのカトリック司祭で、ハーヴァード大学神学教授の地位 を捨てて知的障害者の共同体“ラルシュ”に移りすみ、終生彼らの友として生きた。その彼の他の著作と合わせ読むとき、本書はいっそう味わい深い。