〜講演会から〜


「中高年をおそうこころの病気」            
馬場政宏心療内科クリニック  馬場 政宏 さん

1999年2月13日(土) コンパルホール

 私は、うつ病や自律神経失調症という比較的ポピュラーに見られる病気を診療しております。うつ病は、全人口の5%、500万人位 、糖尿病は600万人から700万人、高血圧は3,000万人とそれらと比較しても決して珍しくない病気です。
  うつ病は、良くなってしまうと、その人の生き方にとってプラスになることもあります。ただ罹っている時は、非常にしんどくて、人によっては自ら命を断ったりするほどです。
 *喪失体験とうつ病
 
48歳の男性の話をします。男性は中年期になると前立腺炎を起こしやすくなります。おしっこが近くなって、排尿時に不快感があります。前立腺の病気になりますと、うつ病になる人が非常に多いんですが、なぜかというと、体の中で一番大事だと思っているからです。
 女性も子宮筋腫とか卵巣嚢腫という病気で手術を受け、その前後でうつ病になられる方がけっこう沢山おられます。
 余談になりましたが、さてこの男性は、前立腺炎になって泌尿器科で治療を受けられました。抗生剤、炎症止め、痛み止めをしばらく飲むと、泌尿器科の先生が「もう炎症は、ほとんどないから大丈夫ですよ」と言われます。しかし症状が改善しません。前立腺炎は良くなっても多くの人が不快感や頻尿などのつらい症状が残ります。この方も泌尿器科で長く診てもらったけれど、全然症状が取れないと相談に来られました。
 これは一種のうつ病、うつ状態だったんですが「こんな深いな症状が毎日永遠と続くなら死んだ方がいい」とたびたび述べられました。うつ病としての治療をすると自覚症状が少なくなります。
 これは、この男性にとって自分らしさを無くした喪失体験です。こういう事は、身近にたびたび起こってきて、その時にうつ病としての症状を起こしてしまいます。「自分の体も衰えていくんだ。自分らしさも自分の自信も少なくなって弱くなっていくんだ」人間は、中高年期にそういう衰えを受け入れ、喪失体験を乗り越えて、もう一歩成長していかなければなりません。人間は、いつかは死ななければなりません。その前準備がある程度できているか、できてないかということにつながってきます。
 自分の健康、地位、お金、人間関係は永遠に続くという絶好調にいる人、あるいはそれが永遠に続くと思って疑わない人は、喪失体験に弱いかもしれません。
 喪失体験を体験する前に人間の価値観は多様なんだというのを受け止めていかないといけません。
 中高年は喪失体験を感じやすいため、うつ病は中高年に多く、うつ病の半分は40歳から60歳の間に見られます。
 その他に多いのが産後のうつ病や不眠からくるうつ病、仕事人間のうつ病などです。しかし、いずれの場合も自分の価値観を世間的な価値観から離れて、しっかり持っていると強いといえます。