隠岐ミュージックセミナー体験記
(平成13年8月3日〜6日)

第2日目(午前の部)

 習慣なのか、はたまた歳のせいなのか、朝はばっちり6時には目がさめてしまう。
朝食は確か8時からのはずだから、たっぷり2時間もある。
同室のお二人は昨晩のご帰還がかなり遅かったらしく
(私はぐっすり眠っていたらしく、まったく気がつかなかった)びくとも動かない。
仕方ないので、そーっと外へ出てホテルの付近を散策。
避暑地ではないので結構朝から暑い。とりたてて爽やかでもないので、早々に切り上げてホテルに戻った。

さすがに7時を過ぎると、お二人ともお目覚めのようで、早速風呂へ。
どうも昨晩はいりそこねたらしい。(ゲッ!きたない!)
私は荷物の整理やら、なんと殊勝にも今日のセミナーの予習をしたりして、朝食までの時間を過ごしていた。
8時になるのを待ちかねたように、3人で朝食会場へ。
昨夜ぐっすり眠ったせいか、すこぶる体調がよく、朝ご飯がおいしい。
2杯もおかわりしてしまった。
(これではセミナーの期間中に太ってしまうぞ、気をつけなければ)

 午前のセミナーは10時から始まるので、バスは9時30分にホテルを出発。
約10分ほどでセミナー会場に到着する。
セミナー会場は、町役場の裏手にある中央公民館。
おそらく島で唯一の文化施設なのだろう。
建物そのものは結構古い…が 内部は小綺麗に片づいており、維持管理がよく行き届いている。
変な話だが、トイレで用を足しているとき(もちろん小の方)に見る窓からの風景は、まことにのどかで、
どことなく「となりのトトロ」を思いおこしてしまった。

 今日のセミナーは、まず作曲家N村先生の「自作を語る」である。
さてどんなお話が聞けるのかと、楽しみにしていたら、
(それとお話の途中で眠ってしまったらどうしよう、なんて心配もしていた)
実行委員のY君が、いきなり「セミナーで使いますので、楽譜を買ってください」とおっしゃるではないか。
「えっ? 楽譜なら全部買ってあるよ。なんの楽譜を買うの?」と訝しく思っていると、
なんとN村先生の「死にたまふ母 無伴奏混声合唱のための」ではないか!
これって「自作を語る」じゃなくって「自作を売る」じゃないの?
なんとまあちゃっかりしてる、と憤慨したり感心したりしていると、
当のN村先生が「じゃあ、最初から歌ってみましょう!」とこれまた、とんでもないことを言い出した。
「皆さんなら初見で十分歌えます」なんてちょっとこちらの自尊心をくすぐったりして。
すっかりのせられてしまった私は(・・・いや私たちは)、
作曲家自らの情熱的な指揮(これが大変なくせもの)で、
朝からとても爽やかとはいえない曲を熱唱したのである。

作曲家が自作を振ると、あそこまで我を忘れてしまうのか・・・と思ってしまうぐらい、
それはそれは大変な指揮ぶりであったが、なんせ今日初めてお目にかかる楽譜だけに、
その指揮を十分見て歌えない。でも指揮をみたらもっと歌えない???
(あとは歌っている側の苦悩をお察し下さい。)

どうにかこうにか1時間半、ほとんどぶっ通しで歌い続け、
(途中で眠ってしまうのでは、なんて心配は幸か不幸か、まったくの杞憂に終わってしまった。)
指揮者も私たちも精魂つきはてた。
結局作曲家はほとんど自作を語らず、終わりに一言
「いや〜、指揮って大変だね。でもみなさんはさすがだね、こんな短時間でここまで歌えてしまうのだから」
とえらくご満悦のご様子。
まあそれならそれでいいか、と無理矢理自分を納得させておりました。
 
 さて10分ほどの休憩の後、今度はKa先生の「グレゴリオ聖歌を歌う」である。
「前のセミナーとギャップがありすぎるんじゃないの」なんて考えているうちに、練習が始まった。
もちろんこの楽譜は事前に配布されていたので、予習はできたはずなんだが・・・
なんせなじみの薄い「ネウマ譜」だったものだから、多分ほとんどの人が予習もせず
このセミナーに臨んだのだろう。(私も何を隠そうその一人)
案の定ばらばらのぐちゃぐちゃ。
何度か練習しても一向うまく歌えない。
それもそのはず、もともと私たちが普段目にしている楽譜はご存じの通り「五線譜」でかかれているもの。
だから五線譜ならそこそこ楽譜が読めるし、初見もある程度はきく。
その証拠にこの日の最初のセミナーではいきなり楽譜を買わされて歌わされたが、まあそこそこ歌えた。
(少なくとも作曲者は満足していた)
でもネウマ譜となるとこれを初見で歌える人はそう多くない。
だいいちネウマ譜の決まり事をそもそもよくわかっていないので、音の長さ、リズムがよくわからない。
これはもちろん私の不勉強ではあるが、受講生の恐らくほとんどがそうであったに違いない。
(そうでなかったらあんなに各自がてんでんばらばらには歌えない)

そんな状態のなか、Ka先生の指導は熱を帯びてきた。
というより、だんだん業を煮やしてきたといったほうがぴったりとくる感じで、
そのうちワンフレーズごとに先生が歌い、受講生が歌うといった、
まるで幼稚園のお歌のおけいこ状態になってしまった。
さすがに受講生はまねだけはやけにうまいらしく、
先生も「そう、その感じ、やっと何かつかんだようね」とえらくご機嫌。
でも正直いって、実は私個人的にはまったく何もつかめておらず、
ただただ、先生のマネをして歌っただけなのです。
恐る恐るみんなの様子をうかがってみたが、どうももう一つ納得のいっていない様子。
最後に通して歌ってみたが、やはりダメ。
最初はえらく威勢良くはじまるのだが、途中からみるみるテンションがおちていき、それこそ失速寸前。
先生が落ちそうになったところを、前で大きな声で補ってくださり、
どうにか最後までたどりついた…ってところで時間となり練習終了。

 すぐに同じくKa先生の指導で、Schaferの「Miniwanka」の練習にはいる。
この楽譜はまた通常の楽譜とはことなり、いわゆる「図形楽譜」と呼ばれるもので、
内容は水の様々な形、たとえば「雨」であるとか「波」であるとか、を表現したものとなっている。
五線譜でかかれているところ(すなわち音程のあるところ)も少しはあるが、
ほとんどが「自由な音程」と「自由なリズム」の歌になっている。

この「自由な」というのがくせもので、五線譜になれきってしまった私たちには、
かえって「不自由な」歌になってしまう。
いきなり「いろんな雨の音を自由にだしてください」と言われたって、
普段雨の音を無意識に聞いている私にとっては、「ピチピチ」とか「ジャージャー」ぐらいしか思い浮かばない。
他の人もそれほど大差ないらしく、結局みんなが同じような音をだす結果となり、
それではこの曲のおもしろさが半減してしまう・・・(らしい)。
いかに隣の人と違った音をだすか、それがこの曲の狙いらしいとわかって、
「雨」や「波」の音とは似ても似つかぬ音を大声で歌っては、女声陣の顰蹙をかっていた。

1カ所テナーにとても難しい箇所があって、気の毒に何回も何回もやり直しをさせられていたが、
(幸いにもベース…私のパート…は同じ音をずっとのばしているだけで、きわめてお気楽なところであった) 
正直あの先生の説明では、うまく歌えなくてあたりまえと思ってしまった。
たぶん先生はこの曲をなんどかおやりになっているから、「どうしてこんなことがわからないの」
といった感じなのだろうが、初めて歌う人にとっては、あの説明でちゃんと歌えというほうが無理。
案の定翌日の本番でも失敗してしまったようだが、まあ致し方ないだろう。

それにしてもどうしてこんな短時間にこんなに難しい曲をやろうとするのだろう。
隠岐くんだりまで(決してバカにしてるわけではないです。遠いってことで・・・)わざわざ歌いに来る人は、
さぞ合唱オタクで、こんな曲、お茶の子さいさいと思っておられたのであろうか? 
Ka先生は熱心ではあったが今一つ成果のあがらなかった練習が終わり、やっと昼食休憩となった。

あ〜疲れた!

…つづく…

【管理人の補足】
ネウマ譜は4線ネウマ譜と5線ネウマ譜の両方があります。
現代譜の音符でいう8分音符4分音符にあたる音価の長さを示す音符がいくつかあるし、
小区分線、中区分線、大区分線という間、休符のような沈黙もあります。
ちなみに、今回のテキスト「Salve Regina」をこの日記を書くときに見せて貰ったら・・・・
なんと、数年前に私が現代譜に書き直して(完全にはできないけど)、友人の結婚式の時、
教会で歌った曲でした。。。もっと早く言ってよ、楽譜をあげたのに。。。チャンチャン。
(下写真はフィレンツェのサンマルコ修道院にあったネウマ譜です。「Salve Regina」ではありません。)