第5話 お医者さんで予防注射(平成5年11月27日)

ボクの主治医は「いいだ動物病院」の飯田先生です。その頃「いいだ動物病院」はボク達が住んでいるマンションの隣のアパートの1階にありました。かあさんは猫にも予防注射があることを本を読んで知っていたので、健康診断も兼ねてボクを連れていくことにしました。でもボクは抱かれるのが大嫌いなのでかあさんはキャリーバッグを買うことにしました。ホームセンターをいくつか見て歩きましたが大体同じようなのばかり。その中から丈夫そうなプラスチックのキャリーバッグを買ってくれました。ホラ、上がパカンと開くやつですよ。最近ではエルメスだとかヴィトンだとかいうブランド物のキャリーバッグもあるみたいですけど。イエイエ、ボクはそんな大それたものはいりませんよ。結局そのバッグ(と言ってもケース)は6000円位したようです。高いんだね。早速テプラで住所とボクの名前をバッグに貼ってくれました。「○○ケン太」ってね。正直言ってボクはこのバッグに入るのは大嫌いです。だってこのバッグに入る時は痛い思いをする時か寂しい思いをする時なんだもん。

さあ、東京からお父さんも帰ってきてかあさんと2人でボクをバッグに入れて病院へ連れて行きました。診察券を作ってもらったんですが、ボクの名前ではないんです。かあさんの名前じゃないといけないんだって。でもカルテにはちゃんとケン太(猫)ってなってるみたいだけど。名前を呼ばれたのでキャリーバッグごと診察室に入りました。先生も看護婦さんもとっても優しくて「ハーイ、ケン太君、こんにちは!」って言ってくれるんですがどうも妙な雰囲気なのでボクは固まってしまいました。先生はボクに聴診器をあてたり、口の中をパカッとあけたり、はたまたボクのからだをギュッギュッと大きな手で包むようにして見てくれました。「うーん、この子は大きくなるねえ。」 かあさんはギョッとしたそうです。「そ、そうですか? ところで何ヶ月くらいなんでしょうか?」とかあさん。「そうだね、この歯の感じだと4ヶ月くらいだから7月生まれかな?」と先生。「あっ、僕といっしょだ!」とお父さん。お父さんは相当嬉しかったみたいだよ。家に帰るまで何遍も言ってたからね。

体重もはかってもらったんだけど忘れちゃった。たぶん2sだったのかな? 拾われた直後のボクは料理用のハカリではかれたんだって。その時は1.4s。そうそう、さりげなくお尻の穴から体温計もつっこまれちゃった。ビックリしたけど痛くはなかった。それとお尻をツンツンとして便をとって顕微鏡で見てくれました。体温計も顕微鏡もOKだったみたい。実はボクがかあさん達と暮らすようになってすぐに、かあさんはペット用の虫下し薬を買ってきてボクのエサにそっと混ぜたんだって。そしたら次に出てきたウンコにニョロニョロした虫が一緒にまじってたらしいよ。すぐに捨ててくれたけどね。だから検便は大丈夫! また話がそれちゃった。ボクは世にも恐ろしい注射を体験するんです。あっという間だったけどね。

それは猫の三種混合ワクチンといって<猫ウィルス性鼻気管炎><猫カリシウィルス感染症><猫汎白血球減少症>用のワクチンです。先生はボクの首の後ろを消毒薬でサッサーと拭いたかと思うと、ブスッと注射の針を刺してピューッと素早くワクチンをうってくれました。ボクは痛かったけど声をあげることができませんでした。「イイ子だったねえ!」と先生は言ってくれましたが、なんと最初の年は1ヶ月後にもう一度打たなければいけないんだって。抗体ってやつを作る為なのかな? ウエーン、もう一度来なきゃあいけないんだ・・・なんてボクにはこの時はわかってなかったけどね。来年からは1年に1回でいいんだって。

さあ、診察も注射も終わったんだから早く帰ろうよう! ボクはまたキャリーバッグに入れられて待合室へ。かあさんが支払い(なんと5000円もかかったらしい。保険てやつがきかないからね動物は)を済ませて予防接種証明書を貰ったら、それに『種類:和猫』って書いてあったんだって。「まあ、背中の模様からして違うと思ったけど、前から見るとアメショだもんねえ。」とかあさんはちょっとがっかり。でも時々ボクのことを「お前は鵜沼山猫だよ!」て言うんです。ボクを拾った所が鵜沼という地名だからねっ、かあさん!

(写真のボクは2歳くらいの時。前からみるとアメショだよね。ボクの本当のお母さんかお父さんがそうだったんだろうねって、かあさんが言ってた。)