第1話 かあさんに初めてあった日(平成5年11月1日)

それは平成5年の11月1日でした。(と、かあさんがいってました。)
かあさんは今住んでいるマンションのすぐ前にあるお米屋さんへお米を買いに行きました。するとマンションの植え込みから子猫の「ミャー、ミャー」と訴えているような鳴き声がするでははありませんか。かあさんが「どうした、どうした。」と覗いてみると、植え込みにはアメリカンショートヘアにクリソツな子猫(つまりボク)が大きな口を開けて鳴いていました。「まあ、なんて可愛い子猫なの!」 かあさんは、すぐに家へ帰り、「ねえねえ、カワイイ子猫がいるのよ、早く来て来て!」と、おとうさんを連れてもう一度植え込みに戻ってきました。

ボクの鳴き声は身体のわりにとても大きかったので、マンションの他の住人、初老のオバサマと幼稚園の子供を連れた若いお母さんも来てました。若いお母さんは「あっ、この子もしかしたら幼稚園の近くに何匹かいたうちの1匹かも」と呟いていました。初老のオバサマは慣れた様子で「よしよし、今、おいしものあげるからね」とチーズとコーヒー用のホワイトを持ってきていました。

かあさんはかねてからアメショが欲しかったので僕を見た瞬間、「この子を飼おう!」と思ったそうです。みんなは何とかしてボクをつかまえようとするのですが、人間が怖くて怖くて、ボクは鳴きながらドンドン奥へ入っていきます。でも、さすがにお腹が空いていたので、ついついチーズにつられて大阪のうちで何匹か猫を飼っているという初老のオバサマの前にフラフラと出ていってしまいました。オバサマは素早くボクを抱き上げ、お父さんに差し出しました。ボクは、つい目の前にある大きなお父さんの指に噛みついてしまいました。

お父さんの指からは赤い血がポタポタとしたたり落ちましたが、それでもお父さんはボクをしっかりと抱いてエレベーターで2階の家まで連れて帰りました。マンションのエントランスとエレベーターの中にはお父さんの血が点々と落ちていたので、かあさんはティッシュを持って拭きにもどったそうです。痛かったよねお父さん、ゴメンナサイ。でもボクも怖かったんだよう。

(写真の左上のゲンコツはお父さんです。ボクがまだ男の子だった頃です。94年)