序章
建安16年(211年)1月。
父・馬騰が許昌に出向いている間の留守を任された長子・馬超は、この日も鍛錬を終えた後の武具の手入れを入念に行っていた。
いつもと変わらず外の空気は冷たく、鍛錬で火照った肌に心地よい。
そこに、城の伝令官がやってきた。「若君様、馬岱どのが到着なさいました」
「そうか。ところで、父上や弟たちはどうした?? それに蹄の音も兵の声も聞こえぬが?」馬騰と共に、弟の馬休、馬鉄、そして従弟の馬岱が許昌へと行っていた。
万を越える兵も、それに随行していた筈だったが、城下には兵たちの戻った気配すらない。
それをいぶかしんだ馬超は、伝令官に尋ねた。「それが……馬岱どのはお一人でお戻りになられました」
伝令官もおかしいと思っているようだ。
答え方も歯切れが悪い。「いま、馬岱はどこに??」
「はい。ご自分の館に寄られた後に、こちらへ……」伝令官が言い終わる前に、新たな人物が部屋に飛びこんできた。
「馬超さま、一大事にございます!!」
「おお、馬岱か。ん、一体どうしたのだ、その格好は??」飛びこんできたのは、馬超の従兄弟である馬岱だった。
しかし、左手に宝剣『騎翔』を持ち、農奴の着るようなボロを着た姿は、明らかにおかしい。「お父上をはじめ、弟君さまなどそれがし以外は皆、曹操の罠におかかりになり、殺されてしまいました」
「な、何だと!! それは真か?? 親父も、休も鉄も殺されたというのか!?」部屋に飛びこんでくるなり発せられた馬岱の言葉は、全く予想できない、信じられない事だった。
「それがしは城の外に待機していたので、なんとか生きて戻れましたが……お救いすることは叶いませんでした。かくなる上は、この剣にてそれがしの首を討ち、無様にも一人逃げ戻った罪を償わせてください」
そういうと、馬岱は宝剣『騎翔』を馬超の前に差し出し、頭を垂れた。
「待て、何を言うか。そなたが生きて戻らなくば、俺はその事を知らずに一生を終えていたところだった。馬岱よ、よくぞ生きて戻ってきた。もう一度聞く、この話は真なのだな??」
馬超は慌てて剣を収めさせ、そしてもう一度訊いた。
「……はい。それがし、お父上と馬休どのが許昌にて処刑される所を見届けてまいりました。敵の囲みは厚く、とてもお救いすることは出来ませんでした。そこに馬鉄どのは居られませんでしたが、恐らく乱戦の中討ち死になさったものと……」
「おのれ!! 一体親父が何をしたというのだ!! 絶対に生かしてはおけん。この手で仇を取ってくれる!! 馬岱よ、これよりすべての将を集めよ。曹操を滅してくれる!!」
「はっ。これよりすべてのものに召集をかけまする……」
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その後馬超は、電光石火の勢いで長安まで奪い取り、潼関にて渭水を挟み曹操軍と対峙する。
だがそこで離間の計にかかり、馬騰の義兄弟であった韓遂と仲たがいし、結局敗れてしまう。
その後涼州に戻り再起を図るが連敗続きで、妻子も殺され漢中の張魯を頼って落ちのび、その後劉備陣営に加わる。
そして222年、47歳でこの世を去った。
悲運の将、馬超はいかがなものでしょう??
この人はつくづく家族運がありません。
死に臨んだ彼自身の上奏文の中でも、従兄弟の馬岱のみが残ったと言っていますし。ちなみに、宝剣『騎翔』は自分の創作です。
馬超は宝剣『騎閃』を持っているという裏設定有りです。
まあ彼らはほとんど馬上で槍を使っているので、剣の出番はあまり無いのですけどね。五虎大将で最も早く出てきたのは馬超でした。
さて、次は誰が出るかな、誰が出るかな(笑)
黄忠と関羽とか、面白いかな……。