2011年7月のみことば

われらと共にいます神

 主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。主はわたしを青草の原に休ませ、憩いの水のほとりに伴い魂を生き返らせてくださる。主は御名にふさわしく、わたしを正しい道に導かれる。死の陰の谷を行くときも/わたしは災いを恐れない。あなたがわたしと共にいてくださる。あなたの鞭、あなたの杖、それがわたしを力づける。わたしを苦しめる者を前にしても、あなたはわたしに食卓を整えてくださる。わたしの頭に香油を注ぎ、わたしの杯を溢れさせてくださる。命のある限り、恵みと慈しみはいつもわたしを追う。主の家にわたしは帰り、生涯、そこにとどまるであろう。 
                           (詩編23篇)


1.父との最後の別れ
 『信徒の友』2009年7月号に、詩編23篇を詠った短歌が掲載されていました。伊東市の塩地やゑ子さんという方が、『重篤の 友の手握り 詩編二十三篇 読みて祈れば 握り返せり』と。
 わたしはこの短歌を読んだとき、急に胸が熱くなり、目に涙があふれて止まりませんでした。
 それは、父とこの世における最後の別れの時を思い出したからであります。

 いまから31年前、の1968年(昭和43年)の8月のことでありました。当時、わたしは越谷教会の牧師となり、忙しい日々を過ごしていました。
 新潟県十日町市の山の中の名ヶ山という70軒ほどの村落がわたしの故郷であります。76歳の父がその年の春来病床についていて、いつ召されるか分からない状態でありました。教会の役員会にお願いして、8月にお見舞のために帰省しました。

 父と別れるとき、心の中で祈りながら、痛む父の足を長い間揉んだりさすったりしてあげました。別れのバスの時間が近づいてきました。父は「ありがとう。もういいよ。もし、俺が危篤になっても、教会のご用が重なったときには、帰ってこなくてもいい。ここで最後のお別れにしよう。どうもありがとう。」と、大きな声で言ってくれました。

 そこで、わたしは父との最後の別れに、詩編23篇を静かに、ゆっくり、祈りをこめて朗読し、最後にアーメンを唱えて終わりました。すると、父は、「アーメン」と、大きな声で唱和してくれました。父はクリスチャンではありませんでした。「アーメン」と唱和してくれたのは、このときが最初であり、最後でありました。
 この年の12月、クリスマス礼拝の前夜、父の危篤が知らされてきましたが、父の最後の言葉から、わたしはクリスマス礼拝が終わってから、急いで葬儀に駆けつけたのであります。

2.わたしの好きなみ言葉
 2009年は日本のプロテスタント宣教150周年でありました。また、この年は、日本聖書協会が「新共同訳聖書」を発刊(1987年9月5日)して20周年にあたり、『わたしの好きなみことば』と題して、全国から164人の方々が選んだ聖書のことばを編集して出版されました。

 旧約からみことばを選んだ方が50人で、内訳は詩編を選んだ方が14人と一番多くおられました。一方、新約を選んだ方は114人と多く、ヨハネによる福音書、ローマの信徒への手紙、コリントの信徒への手紙1が上位を占め、50人でありました。

3.詩篇23編について
 詩編を選んだ14人の内、23編を選んだ方は4人おられます。さらに、その中の2人、松岡令一さんと小塩節さんは「文語訳の聖書」を選んでいます。小塩さんはドイツ文学者であり、東京・井草教会の小塩力牧師のご子息で、現在、井草教会の長老職にあり、井草教会附属の幼稚園の園長もしておられます。

 選んだみことばについて、それぞれが短いコメントを書いております。小塩節先生は、23篇1節の「エホバはわが牧者なり われ乏しきことあらじ(文語訳)」を選び、「幼いときから繰り返し聞き、23篇全文を導きの杖としています。」とありました。

 詩編は全部で150篇あり、それらの中にはたくさんの好きなことばが輝いていますが、やはりわたしは23篇が一番好きであります。また、23篇は、キリスト教の葬儀では、納棺式において、必ず用いられる聖書のことばでもあります。4節に「死の陰の谷を行くときも、わたしは災いを恐れない。あなたがわたしと共にいてくださる。あなたの鞭、あなたの杖、それがわたしを力づける。」とあります。

 わたしたちは、この世の旅路を終えて、死の世界に向かって歩むときも、主なる神は、わたしと共にいてくださり、力づけてくださるのであります。6節に、「命のある限り、恵みと慈しみはいつもわたしを追う。主の家にわたしは帰り、生涯、そこにとどまるであろう。」と確かな希望で結ばれています。

 教会には、天に召された方々の逝去者名簿があります。その名簿は長く受け継がれ、失われることはありません。わたしたちもまた、やがて天に召されるときに、神がわたしと共にいてくださることを信じ、「主の家にわたしは帰り、生涯、そこにとどまるであろう。」とのみことばを信じて、永遠の旅路に向かって、出発したいものであります。
小海寅之助教師 (隠退教師)
(こかい とらのすけ)




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