ファンタジー小説革命

 ゴッド・オブ・ソード  



  第1章 「食欲編」  

第10話 「絶叫フルスロットル! 悪魔VSエクソシスト」

 最初に伝わって来たのは衝撃だった。 反射的に閉じた目はすべての視覚情報を遮断していたが、耳から入り込んでくる爆音が頭を激しく揺さぶった。 アスパは目の前で起きた爆発を避けるすべもなく、爆風を全身で受け、そのまま後方へぶっ飛んだ。

 「ドク○べエさまぁあああ〜ッ!」

という悲鳴とともに…。

 「くっ…! アスパのやつ、とんだドジ踏みやがったな。 自分の魔法を悪魔に利用されるだなんて…」

水素と酸素の化合により生じた細かい水滴が爆発とともに広がり、霧のようにあたり一面を包み込んでいく…。 その霧のなかからキシリィのつぶやきが聞こえてくる。

 「…今の爆発じゃ、いくらあの変人でもただではすまないだろう……」

視界が悪い分、気配で悪魔との距離を測り、悪魔の次の動きを警戒する。
…が、すぐにその必要はなくなった。 木々がざわめき西から東へと風が森を吹き抜け、霧が一掃されたのだ。 いっきに視界が回復した。

「ベンジャミンの敵は討ちましたよ…」

霧が晴れ、再びビェネッタの姿がキシリィたちの前に出現した。 爆風から身を守ったのか、白く長い羽でコウモリのように体を覆っていた。

 悪魔とエクソシストが再び対峙した。 改めて向き合い、キシリィは悪魔を観察してみる。 気のせいか、顔つきがさっきまでより凶悪さを帯びているように見える。 三日月のよう両端をつりあがらせた口は、いっそう妖しさを増している様にも思える。 悪魔退治の専門家であるエクソシストのキシリィは、その微妙な変化が大きな意味を持っていることを、経験的に知っていた。

 (……本性を解放しはじめている……)

キシリィは、悪魔が完全な戦闘モードに入ったことを察した。

 「私がわざわざ『魔法を封じた』と告知して差し上げたというのに…。 ご自分で墓穴を掘るとは……フフフ……」

ビェネッタは、不様に倒れるアスパを哀れむような口調で言った。 アスパは樹の幹に頭を衝突させて、完全に失神していた。 4分の1くらい頭が樹にめりこんでいる。 その凄惨な(ある意味マヌケな)様子を見て、町長は「ひぃ…!」と、小さく悲鳴を上げた。

 「爆発系の魔法を放つために、せっかく空気中から水素と酸素を集結させたのに、それをそのまま私に利用されるとは……アナタのお友達も随分と間の抜けた方だ」

アスパは、自ら呪文により空気中から集めた水素と酸素による爆発を食らわされたらしい。 アスパが手先に集めた水素と酸素はビェネッタが送り込んだ魔力に触発され、そのままアスパの目の前で爆発を起こしたというわけだ。 これでアスパという戦力が消失し、町長は戦力外。 残る悪魔は目の前のビェネッタを入れて2匹。 いかに対悪魔戦のプロであるキシリィにも、これはかなりの痛手か……!?
…しかし……

 「たしかにアイツもマヌケだったけど、アンタもそーとーマヌケだよ?」

キシリィは余裕の表情で、悪魔に毒づいた。
「何を言いだすのやら…」といった表情で、ビェネッタが鼻で笑う。
…が、キシリィの次の発言には大きな反応をみせた。

 「アンタは、あと1分で死ぬ。 …苦痛と絶叫の中でね」
 「……!? フフフハハ!! またまた、ご冗談を…」

ハッタリにすぎないと思いつつも動揺する悪魔を、キシリィは冷たく笑った。

 「まだ気づかないのかい? …やっぱりアンタ、マヌケだよ。 ナハハハ」

そして、ついには悪魔を小馬鹿にするように声高に笑い出した。

 「いいかげんにしろよ、小僧!! ハッタリもたいがいにしろ!」

ビェネッタはキシリィの挑発的な態度に、ついに怒りをあらわにした! 今までの紳士的なものごしは、演技に過ぎんかったってのか…!? ついに本性をあらわした悪魔を見て、キシリィは満足そうに言うのだった。

 「いいねぇ。 やっと本音トークかい、悪魔さん。 じゃあさ、こっちもホントのこと言っちゃうとさァ、アンタがアスパに呪いをかけた時、すでにアンタに“術”をかけさせてもらってたんだよね」

その言葉に、ビェネッタはハッとした。 「呪いをかけた時」といえば「シッポを切られた時」でもある。 いやな予感が脳裏をよぎり、弾かれたように自らのシッポを見る。
そして、仰天した!

 「……火ッ…!?」

常に余裕を見せていたビェネッタの顔が、青ざめた! キシリィの手刀によって切られたシッポの先端が、白い光を放って燃えていたのだ。
それも、ただ燃えているだけではない。 白い炎は、目に見えるスピードでビェネッタのシッポを灰にしながら、胴体の方へと駆け上っている…!

 「エクソシスト秘密技・その三、『悪魔喰いの炎』。 その炎は、悪魔の体を丸ごと焼き尽くすまで消えない。 シッポを切られた時、すでにアンタの死のカウントダウンは始まっていたんだよ」
 「クッ! こんなもの……!」

悪魔はシッポを激しく振り地面に叩きつけたが、白い炎は消える気配を全く見せない。 それどころか、一層激しく燃え盛り、ついにはシッポの根元までを焼き尽くした。 そして、胴体へと燃え移る…。

 「消そうったって無駄だよ。 その炎は、悪魔の邪気を燃料にして燃えてるんだから。 いってみりゃ、今のアンタは頭から油ぶっかけられた状態なんだよ。 動けばよけい燃焼率が上がるし」

すでに勝利をさとったのか、よゆうで腕組みしながらキシリィは忠告した。 その間にも、ビェネッタの本体は聖なる炎につつまれ、気化をはじめていた。 悪魔の邪気が空気中へと抜け出し、ビェネッタの体中の力を奪っていく…。

 「き……キ…サマ……! ナニモノだッ…!? ただのニンゲンではないな…!!」

体を焼かれていく激痛と恐怖にもだえながら、ビェネッタは叫んだ。

 「通りすがりのエクソシストさ。 きさまら悪魔を闇へ葬る者……。 だが、本命はお前じゃない」

そのとき、キシリィの表情が一転して険しくなった。 勝利の笑みを噛み殺すように、もはや無抵抗なまま燃えていく悪魔をにらむ。 白い光を浴びたその顔からは、怒りの感情がにじみ出ていた…。

 「…エクソシストか……。 ガキにしては、どうりでデキるわけだ……。 この森に居座って5年…まつたけに群がるニンゲンを何人も殺して来たが……まさかエクソシストが来るとはな…! クックックク…! お喜びになるぞ、あのお方が…!!」

キシリィの60秒カウント開始宣言から30秒経過……、すでにビェネッタは胸から上だけを残して灰と化していた。 そんな状態で、なぜかビェネッタは笑い出した。 もはや正常ではない。

 「…あのお方……」
 「…そうさ、デビル・カテドラル 悪魔四司教のひとり…ヴォラギルノール様がな……!」

ビェネッタの叫びに、キシリィはこれまでにない大きな反応を示した。 表情は一層険しくなり、両手のこぶしは固く握られ、小刻みに震えている…。

 「…やはり、ヤツか!」

ののしるような、そして、吐き捨てるような口調でつぶやくその口は、何らかの強烈な感情で歪んでいた。 それは怒りか、憎しみか、それとも………。 それを見上げて、ついに頭だけとなった悪魔が笑った。

 「グハハハハハハハ!! 殺されろ! あのお方に! 残酷な死を…! 地獄を味わうがいい!!」

笑い狂う悪魔を、キシリィは冷徹なまなざしで見下ろした。

 「……地獄を味わう? それはオマエが今、真っ最中だろ? 残り10秒、存分に味わって灰になりな」

狂喜に満ちた笑いと断末魔の悲鳴がエルジャンオリの森に響くなか、町長は壮絶な光景に、ただただ怯え震えていた…。
目をそらしたいはずの、ゆらめく白い炎から目を離せずに………。

                  つづけ!


次 回 予 告

エクソシスト・キシリィの手で、ついに2匹目の悪魔が死出の旅に……!
エスカレートを続ける人間と悪魔の死闘は、クライマックスへの階段を余すところ
あと5段くらいのところまで駆け上がっていた…!!(?)
もはや、“まつたけ狩り”と呼ぶには語弊があるまでに壮絶なものとなった
このイベント……一体どんな結末に―――?!
そして、アスパは無事なのか…!?
最後の悪魔の正体は…!?
いーかげん、まつたけ食わせろ!!


―― 次回 ゴッド・オブ・ソード ――

第11話 「悪魔狩りの少年」






御伽の間に帰ろうか… あの懐かしきふるさとに……(長い)



  お ま け  


G・O・S 街角職人ファイル


 FILE.1 【焼きいも屋のおやじ】
 
 秋になると毎年、トトカルッチョの町のメインストリートに甘美な焼きいもの香りを漂わせる焼きいも職人。 かつてトトカルッチョが 『まつたけ道楽』 と呼ばれ、町全体がまつたけ商売に色めき立っていた頃も、一人焼きいもを売り続けていたという根っからの焼きいも屋。 そんな彼がつくる焼きいもは、40年の熟練された製法が生み出す薫り高さと、ほおばると口いっぱいに広がる独特の甘味を持っており、秋の味覚王・まつたけに決して引けをとらない。
 余談だが、トトカルッチョの町長とは十年来の付き合いになるが、やきいも30コぶんのツケを返済してもらっていないらしい…。