ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 第1章「食欲編」 ――― 《 前回までのあらすじ 》 アスパのイカサマ心理作戦によって、町長はついに(半ば強制的に)「5年前の惨劇」に ついて洗いざらい吐くハメになった。なにもかもを知ったアスパとキシリィは、それぞれ の思惑を胸に秘め、悪魔が待つエルジャンオリの森へと赴くのだった。未だ悪夢にうなさ れる町長を道連れにして……! 第7話 献血王と呼ばれた男 「アスパ…!」 最初に事態を把握したキシリィが、声を上げた。 なんと! アスパの左の二の腕から、赤い噴水が立ち昇っている…! いつのまにか、大きな葉がアスパの腕に深くつき刺さり、皮膚が切れ血が吹き出したのだ。 「え? …おれ?」 当の本人は、案外のほほんとしてた。キシリィが「腕、腕! ホラ! 血ぃ出てる!」と指差し てやっと気がつく始末…。 いて 「あ、ホントだ! ゲェ――ッ!! 痛ぇっ!」 なんて言って、かなり鈍いアスパ。 …大丈夫か、こいつ? "ゲヒャヒャハハハハハァ―――ッ!!" 突如、森にヒステリックな笑い声が響いた。次の瞬間、町長が何かに気づいてある方向を指差 し、そこへアスパとキシリィの視線が集中する。 …それは、つむじ風だった。 無数の紅い葉が、渦を巻く様にして宙を舞っているのだ。 やがて、それらは回転の中心へと集合し変化を始めた。 「…ああ……! アアァッ…!!」 町長が声にならぬ声を上げた。今にも呼吸が止まりそうだ。 5年前、自分を恐怖のどん底へと突き落とした"悪魔"が目の前に出現したのだ! こだま 町長の絶叫が木霊する中、無数の紅い葉は、集合し一匹の悪魔の姿へと早変わりしていた。 赤と緑のマダラ模様が、小柄なからだ全体を毒々しく彩っている。その背中には、小さな羽が 一対あり、その下にはえているこれまた小さなシッポの先は、木の葉の形をしていた。 アスパに傷を負わせたのは、おそらくコイツか…! リーブス・ナイフ 「どうだい? オレの魔術・『木の葉の刃(紅葉ヴァージョン)』の切れ味は――」 悪魔は、口の端をつり上がらせて笑いながらアスパに話しかけた。まるで、いたずらが成功した ときのクソガキみてーに憎たらしい顔しちゃって。対するアスパは…… 「ん? ああ、切れ味? うん、切れ味・抜群! 見ての通り、抜群なんだけどね…… 技の名前がなァ――…ちょっとなぁ…… ありきたりっていうかぁ―――…… もう一ひねりしようぜ? 悪魔にしちゃ素直すぎんじゃねーの? ちょいとばかし」 と、相変わらず腕から血を吹き出させながら言った。 「…そ、そんなコトは聞いてないゾ! ニンゲンごときが偉そうに…!!」 思わぬコメントに、ちょっと悪魔は戸惑った。 ザッ 今度はキシリィが、一歩 悪魔側に踏み込んで、ひとつの問を投げかけた。 ヤツ 「おい、お前。6枚の羽を持ってる悪魔は、一緒じゃないのか?」 「あん?」 「…いるんだろ? …この森に……」 …6枚の羽の悪魔。キシリィは、妙にそれにこだわる…。 「ニンゲンのガキが…。生意気に、このオレ様に質問タイムか? ケッへへ…」 エクソシスト さらに一歩、キシリィが踏み込む。悪魔と悪魔祓い師の対峙……もはや、臨戦状態だ! 「ああ、そう。答えないなら、吐かせるまでだけどね…」 悪魔の反抗的な態度にブチ切れ寸前のキシリィは、殺る気満々といった面持ちだ。 エクソシスト・キシリィの実力が今、明らかになろうとしている…!!? 「待った」 そこへ、アスパが水を差した! 見ると、いつのまにか、わきの下に指をはさんで止血を終えている。そして、キシリィよりも さらに一歩前に出て悪魔と向き合った。 「キシリィよ…。悪いがこいつは、おれにやらせてくれよ。 さっきの大出血のお礼がしたいんだ」 アスパはそういうと、左腕に刺さった大きな葉っぱを傷口から引き抜いた。その葉は、悪魔の 魔力を帯びているらしく、妖しい光を放っていた。アスパがそれに自分の魔力を送り込む… ボッ! すると、低い爆発音とともに、その葉は灰と化した。 「アスパ、あんたがどれだけの使い手か知んないけどさ… 相手は悪魔だよ? しかもアンタ、今のでかなり血を失ってるんだから… ここは大人しく、 専門家のぼくに任せときなよ」 キシリィは、アスパの怪我の具合を案じてか、穏やかな声でそう言った。 「死ねやァ! 悪魔ぁあああ――――っ!!」 「ぁあッ!!」 キシリィの申し出をまったく無視して、アスパはイキナリ悪魔に襲いかかった!! これにはもう、キシリィは絶句するっきゃなかった。 そして、悪魔は悪魔で意表を突かれ、あせった! スイカ わ 「喰らえぃ! 西瓜割りの太刀ぃ!!」 アスパはすばやく剣を鞘から抜き放ち、電光石火のステップで間合いを詰め、悪魔の脳天に 振り下ろした!! ズブシュッ!! なんとも形容しにくい音がした。 「ぐうぅぬっ…!!」 続いて、アスパのうめき声が聞こえた。 「…言わんこっちゃない」 キシリィはため息を吐いた。 振り下ろした剣は、悪魔の頭部直前で魔力のバリアによって止められ、逆に悪魔の鋭い爪が アスパの腹に突き立てられていた。ボタボタッと、アスパの血が地面にしたたり落ちる。 「ゲッヘヘヘ! ニンゲン風情が…ざまあないぜ」 悪魔がニタニタと笑ってそう言ったとき、この闘いの勝敗が決まった。 ボォオオオオオオウッ!! 轟音がしたかとおもうと、突如、巨大な火炎が悪魔を包み込んだ。 よく見りゃ、アスパの左手が火炎放射器のごとく炎を発射しているではないか…! 「魔力! 人間バーナー <中火>」 これは、アスパの火炎系の魔法だ!! 「ぎぃいああああああッ…!」 悪魔は金切り声を張り上げ、地面に倒れ込んでのた打ち回った。 そこへ、アスパの剣撃が再度、振り下ろされる! 「成敗ッ!!」 空を斬り、落ち葉を舞わせ、アスパの剣閃が地を走ると、悪魔の胴体が見事に真っ二つに なった…! 次の瞬間、この世のモノとは思えないような断末魔が森に響きわたった。 分断された悪魔の下半分は力を失い、やがてピクリとも動かなくなる…。 しかし、残された上半身はなおも地面を這い、アスパの足にしがみつこうとする。 だが、火だるま状態の上この致命傷では、それすらもかなわない……。 「へっ! ざまあねぇな、アクマ様ともあろう存在が」 皮肉100%の口調で、アスパは悪魔を見下ろして言った。 「キ…キサマぁ…! ニンゲンごときが… あの出血量で魔法を放つとは…!」 辛うじて生きている悪魔が、息も絶え絶え言った。その姿を見て、満足そうにアスパは語る のだった。 「ヘッ! あの程度の出血、屁でもねえよ。 おれはなぁ… 少年時代、献血王と呼ばれた男だゼ? あの頃は、毎週、毎週、献血してたなァ……。 けんけつデー そう、おれにとって毎週土曜は "献血の日"だった…! すべては世のため人のため…! おれは献血に明け暮れたっ!! 決して、偽善でも献血後にもらえる粗品が目当てでもないぞ! そして、いつしか人々は俺のことを "献血王" と呼ぶように……」 アスパが、得意げに聞いてもいない過去を長々と語っているうちに、悪魔はとっくに息絶え ていた。 つづけ!
<次回予告!> 一匹目の悪魔を冥界へと葬ったアスパ――。 調子こいてたら、続けて出現した二匹目の悪魔の特殊魔法にかかり……!? 得意の魔法が使えなくなっちまった…!! ――次回 ゴッド・オブ・ソード 第8話「魔力絶縁状態!」
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