ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 第1章「食欲編」 ―――
――《 G・O・S コラム 》――
【 エクソシスト 】
悪魔祓いの祈祷師、または呪術師のこと。
かつて、突然人格が豹変した者を悪魔憑きと呼び、とり憑いた悪魔を祓うことが彼らの役目
であった。神父によって悪魔を祓う儀式が行なわれた事例は、世界に数多く存在する。
欧米の映画に同名のものがあり、日本でもブームになった。
しかし、本作品でのエクソシストの意味合いは「とにかく悪魔と名のつくものはぶっ倒す!」
という対・悪魔戦の戦闘技術を身につけた者を指す。
第5話 森と悪魔とまつたけ狩り −後編−
※注 : 今回のお話はトトカルッチョの町長が過去を語るという形で進行します。よろしくゥッ!!
……今考えれば、きっとあの頃がおかしかったのだ。
何もかもが思い通りに動いた…あの頃……。
そう、10年前―――
わたしがこのトトカルッチョの街の町長になったあの年……。
わたしは街の北の森で まつたけ が大量に発生する穴場を発見した。
その森の名は "エルジャンオリ"…。
いにしえ
古の言葉で "何者も立ち入ってはならない領域"…。
当時、トトカルッチョは何のとりえもない町だったが、森で大量に採れるまつたけを利用した
町おこしが大成功を納め、大いに湧いた。すべてわたしの計画だった。
『 まつたけ道楽 』
いつしか人々は、この町をそう呼ぶようになっていた。
そして、5年の歳月が流れ―――……
再び収穫の秋―――……
もはや、毎年恒例となった "まつたけ収穫祭" を目前にひかえ、街の活気は最高潮へと上昇を
始めていた。
この町にとっての運命の日が迫っていることなど、誰一人知るよしもなく…。
そしてついに、わたしは上機嫌で「収穫祭」前日の朝を迎える。
トトカルッチョ選りすぐりの頑強な男4人と、わたし・町長による "まつたけ根こそぎ狩り"
が行なわれる時だ!
町でもっともたくましい男4人とわたしとで、あの穴場のまつたけを持てるだけ持ち帰り、
翌日の収穫祭でその恵みを祝うのだ。
…毎年行われるこの行事が、わたしにとっての人生最高の至福であった。
わたしが築いた街――トトカルッチョが、もっとも輝く時なのだ。
しかし、この年を境に "それ" が永遠に消えることになろうとは……。
このあと間もなく、魔の惨劇が幕を開けるのだ…!
エルジャンオリの森はいつもと変わらぬ神秘的な雰囲気で我々を迎えた。
あか
紅葉の紅が相変わらず鮮烈だったことは、今でもはっきりと思い出せる。
わたしたちは、いよいよ大量のまつたけが待つあの場所へと歩きはじめた。
森の中央にある大きな岩が、目印だ。
高さにして7mはあろうかという大岩。
それは、赤い霧を吹き出す不思議な岩。
その周りに生える樹には、秋の美味・最高峰が一人ではかかえきれないほど生えているのだ。
わたしと私の信頼のおける者しか知らない場所に、それはある。
わたしの誘導で、一向はやがてその場所にたどり着く―――。
しかし、わたしたちを待っていたのは、思わず歓喜の声を上げてしまうようなまつたけの群集
ではなかった…!!
あ
……いや、たしかにそこに "まつたけ団体様" は在った…。
だが、それ以上に存在感をアピールするヤツがそこにいたのだ!
明らかに人ではない、人型の生き物―――。
それは、"三匹の悪魔" だった。
…笑っていた。
我々が来るのをたのしみに待っていたというニュアンスが込められた、不気味な笑い顔。
悪魔という表現がもっともふさわしい "そいつら" は、その圧倒な威圧感で我々の体の自由を
瞬時に奪い去ると、世にも奇妙な呪文を唱えはじめた…!
次の瞬間、わたしは4人の屈強の男たちが、みるみるうちに石化していく光景を目の当たりに
した。
ある者は「シェー」のポーズで…!!
ある者は「命」のポーズで…!!
また、ある者は「オッハー」のポーズで…!!
悪魔の見えない力が、操り糸が、彼らにそれらポーズをさせたのだろう…。
そしてその無残なポーズをとらされたまま、屈強の男たちは石と化していくのだ…!
ちなみに、残りの一人はよりにもよって「へんなおじさん」のおどりの途中で石化していた。
6枚の黒く大きな羽を広げた悪魔は、笑い混じりに私に言った。
"お前は この惨劇の語り部になるのだ"
その言葉を聞いた瞬間、体を拘束していた観えない "何か" が、解き放たれた。
わたしは弾かれたように走り出した。
"我々に挑戦する勇気がある者へ伝えるのだ"
耳の奥まで入り込んで来る声から逃げて、走った。
"3匹の悪魔がこの森で待つ と"
半狂乱になって疾走した。
"ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!" ← ものすげー笑い声
そのあとの記憶は、巨大な恐怖により大きく歪み混乱しているが……、
命からがら街に逃げ帰ったわたしの異常な挙動を見て、街に住む者達は困惑と不安に駆られ
たことは間違いないだろう…。
当然のことながら "まつたけ収穫祭" は中止され、再び時間は流れはじめる―――。
盛者必衰とはよくいったもので、その日を境に街は活気を失い急速に寂れていった。
それとともに私の肉体は衰弱し、指導者としての力を失った。
統率者を失い、労働意欲を削がれた住民たちは、やがて一人、また一人と街を去り…
ついには、わたしとわたしにとって親しい関係の者だけが街に残った。
「もし、あの日に……!
5年前のあの日に戻れるのなら……わたしは………!!」
町長は大粒の涙をその頬に伝わせて叫んだ。キシリィはかける言葉を失い、震える老人の
小さな肩を見下ろすしかなかった。日はすっかり沈み、すでに一番星が輝いている。
風が素肌に冷たい。
「…町長…」
アスパが自分の赤いマントを、小さな背中にそっと掛けた。
「……実はな、アレ、自白剤でも何でもないんだ。でっち上げなんだよ」
「ぇえ?」
キシリィがアスパの意外な言葉におどろいた。
「あれは…ただのお菓子さ。『ねるね○ねるね』の水を加える前の粉末のアレ…」
「……よりにもよってアレかよ」
だますにしても、もっとわかりやすいヤツにしろよ…と、キシリィは思った。
「しかし、何故…」
「プラシーボ効果ってやつさ」
キシリィの疑問を先読みしたかのように、アスパは説明しはじめた。
「自白剤を飲まされたっていう観念が、町長に過去を語らせた…。すべてを吐けば、少しは
肩の重荷も下りるだろうって思ってな。
長年背負いつづけた責任…謝罪…後悔………恐怖……。
いつまでも縛られてちゃ、いけないんだよ。"病は気から" 逆に言えば "気は最良の薬なり"
ってな。
いいかげん気楽になりなよ、町長さんよ…」
アスパの手が震える肩に触れると、町長はやっと落ち着きを取り戻しはじめた。
「……アスパ殿…、わたしは――――」
町長がかすれた声でアスパに何か言おうとしたが、アスパは小さく首を振った。
「皆まで言いなさんな、町長。わかってる、わかってるって! 案内したいんだろ?
おれ達をその【まつたけ地帯】に……」
「…ハ?」
「恐怖を本当に克服するには、立ち向かわなきゃ! "過去"に!
今からおれ達でやろうじゃないか、あんたが言う最高の至福――"根こそぎ狩り" を!
そして "まつたけ収穫祭" を!
5年前にクソッたれ悪魔の邪魔が入ってできなかった夢の行事を今こそ―――」
アスパの口からは、大量のよだれが流れ出していた。
「ちょ…チョットまていッ!!
あそこは、ヤベー悪魔が三匹もいるっつって、今、話しただろが!!」
信じられんつー顔で町長が再び叫んだ! でもね…
「案内しろ! このゴッド・オブ・ソードのアスパがいるからには大丈夫! 保証する!!
泥船にでも乗ったつもりでよぉ!! その赤い霧吹き出す岩んトコまでおれ達を連れて
けってば!! なぁ、キシリィ? いちおうコイツも、エクソシストだっつーしさァ?
…ナァ?」
「イチオウじゃねーよ、このボケ」
アスパの腕が、強引に町長の体を持ち上げた。そして、三人は歩き出す…!
松茸いっぱい、夢いっぱいの惨劇の森へと―――!!
つづけ!
<次回予告!>
――ってなわけで、次回はついに悪魔が棲むという "エルジャンオリの森" に
アスパが挑む…! アスパは『まつたけ狩り』のため、キシリィは『悪魔狩り』
のため、それぞれの目的を果たすべく惨劇の森へと足を踏み入れるのだった!!
そして、町長も案内役として連行され……。 イキナリ、バトル勃発!!?
――次回 ゴッド・オブ・ソード
第6話「紅葉の紅! 鮮血の赤!」
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