ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 第1章「食欲編」 ――― <前回までのあらすじ!> トトカルッチョの街の町長の家は、ハリボテでした。 第4話 森と悪魔とまつたけ狩り −前編− 「わたしがこの街の町長、コックリーです」 はりぼての豪邸の下から這い出て来たみすぼらしい格好の老人は、アスパに向かって言った。 「うそこけ」 アスパは疑いの眼差しでそう言い返す。 「いや、わたしがトトカルッチョの町長ですって」 負けじと言い返す老人。 「じゃあ、なんで家が張りぼてなんだよ?」 「そ…それは……」 致命的なアスパの一言で老人は沈黙した。さらに、アスパが何か言おうとしたが、それをキシ リィの言葉がさえぎった。 「もし本当にあなたが町長なら、きかせて頂きたいことがあるんですけど…」 老人の視線がアスパからキシリィへと移る。 「…5年前、エルジャンオリの森で起こったこと……」 「………!!」 老人の顔が引きつった。その反応をみて何かを確信したキシリィは、更に言葉を続けた。 「あの森で、あなたは…3匹の悪魔に遭った…」 「…ひィッ……!」 老人の表情が豹変した。そして、震える両手で頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。 キシリィが老人に一歩歩み寄ると、老人は脅えたように体をよじらせて叫び出した。 「知らんッ…! わたしは知らんぞォ…!! なっ、なにも知らん……!!」 …この脅えかたは尋常じゃない。 アスパは焼きいも屋のおやじの言葉を思い出していた。 「5年前に起きた惨劇」、そして「そのたったひとりの生き残りが町長だ」という言葉……。 「あの事件以来でしょう? 『まつたけ道楽』とまで呼ばれて栄華を極めたトトカルッチョが すべてを失って……」 「もういい、やめとけって」 いつしか拷問と化していたキシリィの言葉をアスパが止めた。 「見ろよ、震えてるじゃねぇか。これ以上エスカレートしたら、じいさんマイっちまうぜ?」 めずらしくもっともなことを言うアスパに制され、キシリィは詰問口調を改めた。 「…ごめんなさい。 でも、ひとつだけ……ひとつだけ…答えてほしいんです。 あなたが遭遇した3匹の悪魔のなかに、六枚の…三対の…黒い羽を持った悪魔を見ません でしたか…?」 静かな声でキシリィはきいた。そして、しばらくの沈黙のあと老人はつぶやいた。 「…見た」 今度はキシリィの顔が変わった。感情を押し殺したような表情……しかし押さえ切れない感情 が周囲の空気を震わせている………。 「……どうも」 ひとこと言うと、キシリィは老人に手を差し伸べて、その体を抱き起こした。 エクソシスト 「いろいろ失礼しました。ぼくはキシリィ=トール、旅の悪魔祓い師です。…申し遅れて恐縮 ですけど……」 そして、老人を豪邸(張りぼて)の方へと肩を貸してつれていった。その背中に、アスパの声 がかかった。 「待ちな」 キシリィと老人が不思議そうな顔で彼を振りかえる。 「まだ、おれの質問が終わってないぜ」 「え? なに? アンタもなんか聞くことあんの?」 自分の目的を終えたらしいキシリィは、冷たくアスパに言い放った。 「てやんでぃ! 寝言は寝てからにしてくんな!」(江戸っ子) アスパはズカズカと二人に歩み寄り、キシリィを突き飛ばした。そして、 ・ 「ときに、町長さん。エルジャンオリの森のどのへんに…その……まつたけが大漁発生するの か、教えてはいただけまいか」 と、とってつけたような紳士的な顔つきで言った。 「うさんくさいなぁ…」と、キシリィは思う。 「いや、しかし、お若いの…あそこはキケンじゃて……」 「吐けぃッ!!」 老人がものを言い終わらないうちに、アスパの顔が豹変して毒づいた。 「森のどのへんに松茸がある?! すべてを吐け!!」 「やばいって、あそこは…」 嫌がる老人にアスパが押し迫る! 「おいおい、アスパ…」 見るに見かねたキシリィが、止めに入ろうとするかしないかというとき、アスパが奇妙な行動 に出た。胸ポケットからなにやらビンを取り出し、その中に入っている謎の粉薬を老人の口に 押し込みおった! 「もふぉっ…! なにをしゅるっ?!」 「いいクスリだ…安心しろ。飲み込め」 「アスパ――――ッ!! 町長に何を……!??」 ゴックン 小気味いい音が老人の咽のあたりで鳴った。 「わ…わたしに何を……飲ませたっ…?!」 「フフ…。アライザライ草といいましてな……。それを主成分に調合した薬品にございます」 「うさんくさい口調でしゃべりおって! キサマ…おぅ…!? グゥぬ…? 意識が…混濁してきおっ…たっ……??!」 老人の様子が明らかにおかしい。 「出始めたな…自白剤の効果が…」 「なにぃいいいいいいいいいいいいいい!?」 By.キシリィ 「いいかい、町長さんよ? まつたけ発生地帯のこと、そして5年前森で起こったことを…すべて話すんだ。 きっと楽になるぜ?」 しばらくモウロウとしていた老人――ああもう『町長』でいいや――だったが、やがて観念 したように語りはじめた。 「あのとき…もしあのときに戻れるのなら…… わたしは―――」 つづけ!
<次回予告!> 己の食欲を満たすためなら、手段を選ばぬ男・アスパ! 自白剤まで待ち出して、ついに町長からすべてを聞き出す……!! いいかげんにしなさいよッ!!! ――次回 ゴッド・オブ・ソード 第5話「森と悪魔とまつたけ狩り −後編−」
御伽の間が恋しいね