ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 第1章「食欲編」 ――― <あ・ら・す・じ> いやあ、前回もたいへんでした。焼き芋屋は壊滅するし、アスパと店のオヤジはなぜか友情 芽生えさせてるし…。 それにしても、まつたけ食べたいねぇー。10年前の惨劇って、一体 なにがあったんだろうねぇー? …今回は今回でいろいろありそうな予感……。 あ〜っ、まつたけ食いてぇええっ!! 第3話 あいさつ一番! アスパの豪邸訪問 人は過去へはもどれない。 時間の法則がそれを許してはくれない。 それができれば、苦労はしない。 …でも…もし…… ・・・・ …もし、あのときにもどれるのなら…… 「…人生に後悔はつきものだねぇ」 旅の剣士アスパは、人気のない道を歩きながらため息を吐いた。日が沈みかけたトトカルッチョ の街は、昼間の喧騒がうそのように静まり返っている。 「…焼きいも…闘ってる最中に落としちゃった……」 闘っている最中とは、もちろん焼きいも屋のおやじと一戦交えたときのことである。またしても、 名前も知らない男と戦い、十八番の攻撃魔法【エンド・オブ・エンド】でブチのめしてしまった アスパ=ラギン=G=ガブリオーラ(そろそろ覚えた?)は、おやじが言っていた『町長』の家へと 一路 ――いや、寄り道しまくった末―― 向かっていた…。 「この道を真っ直ぐ行くと町長の家か…」 夕闇が濃くなり風も冷たくなり始めた道を、外灯がぼんやりと照らしている。普段テンションが 高いアスパにとって、秋の夕暮れは無性にもの寂しく感じられる。わずかに聞こえる虫の声が、 彼の感傷的な気分を一層引き立てた。 (…こんなときは歌でも歌おう) アスパは記憶の引き出しを開け、自分にとってもっともなじみの深い歌を歌った。 「 機械仕掛けヒーロー ガンバリンギャー のうた 」 歌 地瀬 大悟朗 曲 大文字 大 ♪ ガンバリン ガンバリン ♪ この世は不思議さ 奇々怪々 機械仕掛けの 機々械々 ♪ おのれ ゆるせん 悪の組織 低温集団 てめえら 全員 バナナの皮ふんですっころべ ♪ GO! GO! 午後・碁ッ!! 機械仕掛けヒーロー ガンバリンギャー それは、アスパが幼少のころから聞かされていた歌だった。 歳のはなれた兄が、いつも歌っていたラップ調の歌…。 あの事件以来、二度と聞くことがなくなった悲しき記憶を蘇らせる歌…。 「…兄さん……」 赤い雲が横たわる薄暗い空を仰ぎながら、かすれた声でアスパはつぶやいた。 そのとき…… 「あの――、ちょっとすみません…」 不意に後ろで声がした。アスパは肩を大きく震わせて喫驚した。そして、体を180度急速に 回転させ、声がした方向を向いた。 「お尋ねしたいんですが、…いいですか?」 声の主は少年だった。声と体格から察するに、まだ15〜16歳の若造であろう。 アスパ(身長176cm)の肩よりも少し低い位置に彼の顔がある。辺りが暗い上に、目深に かぶった帽子が邪魔して顔がよく見えない。 「ど、どど、ど、どうぞ、ご自由に…」 アスパは、かなりシドロモドロに答えた。鼻歌と独り言を聞かれた可能性が非常に高い。 しかも「…兄さん……」という台詞は、かなり感情がこもっていたので、聞かれていたとする となおのことはずかしい。さらに、 「町長の家って、どこか知ってます?」 という少年の意外な一言に、 「町長の…家?! てっ、てて、てやんでぃ! あっしもこれから行くところだったんでぇいっ!」 と、より一層狼狽するアスパだった。(取り乱しすぎ) 道を南下していくと、町長の家が見え始めた。この街で見たどの家よりも大きく立派なその 建物は、一目で『町長の家』だとわかった。夜の闇を押しのけるかのように、照明が煌煌と 輝いている。そこらの公園よりよっぽど広い敷地に、意味もなくライトアップされた4階建 ての豪邸が、ふんぞり返るように財力を誇示して 立っていた。 「なんかエラソーな家だな、オイ」 アスパは、とりあず毒づいてみた。その後ろで、少年が無言でうなづいている。 「ところで少年、名前はなんてぇんだ? なぜ、町長の家に行くんだ? それにしても腹減ったよな?」 アスパは、せっかちなことに同時に三つも質問した。 「名前はキシリィ。残り二つの質問には答える気はないね」 アスパのぶしつけな質問攻撃が気にさわったのか、少年は無愛想な答え方をした。 「なにぃ? こいつ目上の人間に対して…!! そんなこと許しませんよッ!」 「なんだよー。そんなこと答える義務もないし、義理もないもんね」 知り合うなりさっそく「人生の先輩」風を吹かすアスパに対して、少年は反抗的な態度で言 った。 「そういうアンタは何者だよ?」 「フフン、聞いて驚けよ? このおれこそ、剣を極めし者だけに与えられる輝かしき称号『ゴッド・オブ・ソード』を 持つ、アスパ=ラギン=G=ガブリオーラという者だ!」 …出た! 初対面 早々にしてやりやがった! またしても在りもせんゴッド・オブ・ソードとかいう称号を自慢しおった…!! 「フーン」 「『フーン』じゃねぇよ!! もっと驚け! ブッとべ!!」 知らん間に和気あいあい状態(?)の二人は、とうとう町長の家の門の前まで辿り着いた。 高級感あふれる外灯の下、まぶしいくらいの光を浴びて二人は立ち尽くした。このとき、 はじめてアスパは少年…いや、もとい! キシリィの容姿の全貌を把握した。 目深にかぶった赤いニットの帽子。 その帽子からはみ出すツンツンとした金髪の下からのぞく眼は、帽子よりも鮮やかな赤い色 をしている。 黒髪に漆黒の瞳のアスパにくらべると、ずいぶんと派手な印象を受ける。 (主人公のおれより目立つ格好じゃん…) などと思いながら、アスパは門の蝶番に手をかけた。 ギシィイイイ…イイィ…… 重々しい音とともに巨大な門が開く。 「ごめんくだっさぁあ――――――――いッ!!!」 いきなりアスパが馬鹿でかい声で挨拶をした。門から家の玄関まで30mもあるのに… 「なにやってんのさアンタ…!?」 キシリィが面食らった様子でそう言った直後――― バタァア―――――ンっ!! という何か大きなものが倒れる音が鳴り響いた。 「なっ、なんだぁ?!」」 キシリィはさらに面食らった声を出した。そして、数秒後やっとその音の正体を理解したの だった。 「……は…はりぼて………?」 なんと、目の前のに建っていた豪邸だと思っていたものは板に家の絵を画いた「はりぼて」 だった…!! それが今、倒れたのだ! アスパの怒号のような挨拶が、空気を大きく振動させ強烈な疎密波をつくった挙げ句、その 「はりぼて」の豪邸をブっ倒しちまったというわけ。 平面の情報しか持ち得なくなった豪邸は、むなしくライトに照らされてその醜態を二人の前 に晒していた。 「あ…、なんかおれ……マズイことしちゃった?」 「この豪邸、“なんちゃって”かよ…」 思い思いの台詞をはくアスパとキシリィの前に、ひとりの老人がはりぼての下から這い出して 現れた。 「こんばんは。町長のコックリーです」 しばらく硬直していたアスパだったが、とりあえず「お晩です」と挨拶をした。 つづけ!
<次回予告!> 町長の家がハリボテだったことに愕然とするキシリィと、笑いが止まらないアスパ…。 かつて、まつたけ産業によって栄えたトトカルッチョの街に何があったのか…!? 二人は嫌がる町長から無理矢理その過去を聞き出すのだった……!! ――次回 ゴッド・オブ・ソード 第4話「森と悪魔とまつたけ狩り」
御伽の間が呼んでるの…