ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 第1章「食欲編」 ―――
<前回までのあらすじ>
最強の剣士の称号――ゴッド・オブ・ソードを持つ(と大嘘こいてる)男、アスパ=ラギン
=G=ガブリオーラは、大ボラ吹きの上に食いしん坊だった。『マツタケ大漁』という言葉に
惹かれて目指す"エルジャンオリの森"…。「その森には悪魔が棲んでいる」と忠告してくれた
焼きイモ屋のおじさんに、アスパは事もあろうか暴言を吐き、2人は臨戦状態に…!
とも
第2話 夕日に消えた宿敵
「あの森に行くのなら、このワシを倒してからにせい!」
オヤジは刃物をギラつかせて、アスパに怒鳴った。
対するアスパは、
「ならば容赦はせん。ゴッド・オブ・ソードの名にかけて、あんたを倒す…!」
と、在りもしない名声を振りかざし剣を鞘から抜き放つ。町の平和な空気を、2人の闘気が
席捲していく。
そして次の瞬間、昼下がりの街道が戦場と化した!
「魔破・閃豪斬ッ!」
せき
堰を切ったのはオヤジの方だった。包丁の刃を超振動させながらアスパめがけて振り下ろす!
刃の震えを金属の固有振動数に共鳴させることで、アスパの剣を破壊して、そのまま彼を斬り
倒す気なのだ! まさに防御不能の一撃必殺技である。
「なんのっ!」
アスパは構えていた剣を放り捨て、包丁を白刃取りで捕らえた。そして、包丁の刃に面した手の
平に魔力を集中させた!
マジック サブリメイション
「魔力・灼熱昇華」
アスパの両手が包丁の刃をみるみるに気化させていく…! その熱量は半端ではない。
…アスパのやつ、熱くないんか?
やがて、包丁は刃をすべて奪われ柄だけとなった。しばらくその光景をあっけにとられて見てい
たオヤジは、気を取り戻し肉弾戦をしかけた!
「くらえぃ! 殺人キック!!」
それを難なくかわし、アスパはオヤジの懐に入り込んだ。間合いゼロからの掌打が炸裂する!
中国拳法のひとつである。オヤジの体は吹き飛び、自分の店に激突を余儀なくされた。派手な音
をたてて倒れ込む。そこへ、アスパの容赦ない魔法攻撃が放たれた。
エンド オブ エンド
「真・終・極」
トトカルッチョのメインストリ−トに、青白い光が荒れ狂った。その光は、破壊活動の限りを尽
くして消えた。 がれき
…焼きイモ屋は、もはや瓦礫の山となっていた。
「出力40%のエンド・オブ・エンドだ。あんたなら死にはしまい」
アスパはそう言うと、自分の剣を拾って鞘に納めた。
その数秒後、瓦礫の一部が崩れひとりの男が姿を現わした。…焼きイモ屋のオヤジである。
「立てるか?」
アスパがオヤジに手を差しのべた。その手をとって、オヤジは笑い混じりにつぶやくのだった。
「…完敗だよ。ゴッド・オブ・ソードよ…」
とも
どうやらふたりは、闘いのなかでお互いを宿敵と認めたらしい。傾きはじめたオレンジ色の太陽に
照らされたふたりの漢は、強い握手をかわした。
「あの森へ行くなら、町長に会うがいい…。
彼は、10年前にあの森で起こった惨劇の…たったひとりの生存者だ……」
「惨劇…? 10年前……?」
不吉な予感が、アスパの脳裏をよぎった。
「…すべては町長から聞くがよい」
遠くを見るようなオヤジの目は、一体何を暗示しているというのか…?
今のアスパには知るよしはない。
「そうか…わかった。…ありがとう、焼きイモ屋のおじさん」
最後の最後で素直になれたアスパ。深々と礼をして、その敬意を伝える。
「生きて帰ってこい」
オヤジは笑顔で応えた。
瓦礫の山を後にし、アスパは『町長』の家へと向かう…。
(ただ、マツタケが食いたかっただけなのに……エライことになってしまった…)
店をぶっこわした引け目もあって、もう後へは引けない…。
アスパは、「悪魔」と「惨劇」という言葉を交互に思い浮かべながらそう思う…。
一陣の風が吹いた。
その風は、アスパの背中を押しているようだ。
「もう後戻りはできない…」
夕日に向かって歩きながら、もう一度つぶやく。
そんな彼の後ろ姿に、熱い視線を送る人物がいる。
「マツタケぎょうさん持って帰ってこい…。そして、いっしょにマツタケ・パーティーをしようぞ」
焼きイモ屋のオヤジである…。
つづけ!
<次回予告>
…町長は語る。
10年前、あの森で起きた凄惨な事件の全貌を…。
5人の男たちが遭遇した恐怖を…。
『3匹の悪魔』…。
彼らは今も森の闇を、人の血を求めてさまよっているという…。
アスパは早くも決意を弱めるのだった……!
――次回 ゴッド・オブ・ソード
第3話「森と悪魔とマツタケ狩り」(仮)
御伽の間へ帰らせて…