ファンタジー小説革命 ゴッド・オブ・ソード
――― 序章「あしたはあしたで風が吹く」―――
いざよい 十六夜の月が、雲間から地上を照らしている。人気は一切なく、静寂だけがそこにあった。 そんな夜の広野の向こうから、ひとりの旅人が歩いてくる。赤いマントを夜風になびかせな がら…。彼の名は、アスパ。フルネームで、アスパ=ラギン=G=ガブリオーラ。 「…長くてゴメン」 彼は誰に言うでもなく、独り言のようにつぶやいた。(たぶん、読者のみなさまに向かって 言った…) そのとき、アスパは闇と静寂に潜むひとつの殺気に気づいた。明らかに自分に向けられた 殺気である。 「出てこいよ。そこの岩陰に隠れているやつ」 歩を止めてアスパが言った。しばらくの沈黙の後、 「バレちゃあ仕方がねぇ」 という声とともに、黒いツナギを着た男が姿を現わした。ただし、隠れていたのは岩陰では なく、木の陰だった。アスパは、ちょっと顔を赤らめた。 ゴッド・オブ・ソード 「お主、"剣を極めし者"のアスパ=ラギン=…えーと…C……いや、G……? そうそう、 G! …G=カルボナーラ、だな?」 ツナギの男がアスパに問いかける。 「ガブリオーラ」 「御免。アスパ=ラギン=G=ガブリオーラとは、お主のことだな?」 「いかにも。こんな夜更けに何か用か?」 アスパはそう言ったが、その『用』が何であるか聞かずともわかっていた。ツナギの男の腰 には、細身の剣が携えられている。男が放つ殺気から察するに、護身用とは到底思えない。 「貴様のお命、頂戴する。そして、ゴッド・オブ・ソードの称号は私がもらいうける!」 男は言い放つと、剣を鞘から抜いて構えた。 (…おいでなすった) アスパも無言で剣を抜くと、静かに構えた。刃の面積が大きいのが特徴的な剣だ。 「ゆくぞ、アスパ!」 「こいや――――っ!!」 広野を支配していた静寂は破られ、戦闘がはじまった。剣と剣が交じり合い、金属音が響き 渡る。 「死ねぇえ――ッ! このスットコドッコイが…!!」 「あんだと、コラァ―――ッ!!?」 たがいに罵声を浴びせ合いながら、剣を振りかざした。どっちかっつぅと、醜い闘いだ。 「剣技・黒風剣!」 ツナギの男がなんか、技らしきものを繰り出した! 横薙ぎに振った剣の軌跡から、真空の刃 が生じてアスパを襲う! 「あぶねえな、オイ!」 それを辛うじてかわしたアスパは、負けじと技を放つ! スイカ わ た ち 「西瓜割りの太刀!」 しかし、どう見てもフツウに剣を振り下ろしただけだった。当然かわされ、ツナギ男の猛反撃 を受けるハメに…! 「ゴッド・オブ・ソード、口ほどにも無し! やぶれたりィー!!」 調子に乗ったツナギオヤジは、アスパに嵐のように剣撃を浴びせた。アスパ、完全に劣勢!! 剣で剣を受けて防御するのが精一杯のようだ。 「くっ! ならば―――――っ!!」 アスパは大きく後ろに跳躍し、剣を地に突き立てた。 「ぬぅう?! 貴様、剣を手放すとは…臆したかぁっ!!?」 「黙って見てろ!」 怒るオヤジに悪態をつくと、アスパはみずからの胸の前で印を組みはじめた。 「まさか、魔法を…?!」 「そのとおり! 喰らえッ!! 極悪黒魔法―――」 額の前で強く組み合せたアスパの両腕が、青白い光を帯びはじめた。 そして、それは膨張し あたりの地形を闇から浮き彫りにする。巨大な、そしてほの暗い不気味な光が闇に代わって 地上にその支配圏を広げた。 エンド オブ エンド 「真・終・極」 その魔法の発動は、アスパにとって勝利を意味する。彼の両手がツナギの男に照準を合わせた。 「ターゲット・ロックオン!」 「そんなぁっ! 魔法使うだなんてっ……!!」 「光栄に想って喰らいなはれ! 発射!!」 無情にも極悪魔法は放たれた。膨大な魔力の収束波が、男にブチ当たり、速効大爆発を起こす! そして男の五体は勢いよく宙に放り出され、「聞いてないよぉお――――――…」とドップラー 効果を起こしながら、そのまま5000mくらいの彼方までブッ飛んでいった。 一山ぐらい越えたんじゃないかなァ…。 「いいファイトだった――」 カオ さわやかな笑顔で剣を鞘に納めるアスパ。その表情には一点の曇りもない。 「やっぱ今の時代、魔法が熱いよネっ☆」 汗をマントで拭いながら(汚ねーっ)彼は言う。 …最強の剣士――"ゴッド・オブ・ソード"…… そんな称号など、この世には存在しない。 なぜなら、アスパのやつが勝手に自分をそう呼んでるだけなのだから…(現に、彼は剣術より も魔法の方が得意だし…)。立ち寄る街や村で、 「おれは、最強の剣士の称号――ゴッド・オブ・ソードを持つ男だ!」とか叫んで回るもん だから、噂として蔓延し、腕に覚えのあるアホ共がアスパに挑戦してくるようになっちゃっ たのだ。 先ほどの男もそのひとり。今日もまた、在りもしない称号を賭けて意味なき戦いが行なわれ てしまった…。そんな不毛な戦いを繰り返しながら気ままに旅をする……。アスパ=ラギン =G=ガブリオーラとは、そういう男である。 つづけ!
第1章が気になる… 御伽の間へダイブ…