読売報知新聞 昭和20年7月19日(木曜日)

入魂機熱望の基地 故障機に血涙を呑む 【前線某基地にて鶴島、山崎両報道班員発】


 黄昏の基地を轟然と進発する特攻隊。晴れやかなその出撃を凝然と見送る一人の神鷲は、なぜ晴れの出撃に取り残されなければならなかったか。

 愛機不調のため任務に就けぬ特攻隊員の悲愁を幾度か眼のあたりした記者は、更に出撃の途上涙を呑んで南海に散った不時着機の話を聞けば聞くほど、銃後の工場に全國民に「優秀な飛行機を送れ」と神鷲に代わって心の底から叫びたい。
 それは決して高性能といふのではない。新しい飛行機を指すのでもない。特攻隊員が任務を必成できる故障の無い飛行機を送れといふのである。

 或る日、体當り寸前に愛機の故障で口之永良部島付近の海上に不時着した学鷲出身のハ少尉
(林一男=59振が魔の海上に難航を續け、やっと基地に帰って来た。生きるために帰ってきたのではない。まだ生々しい傷さへ癒えぬ身体をその日からピストに現して、不調で豫備機となり残されていた特攻機の整備訓練に努めたのであった。

 基地にはハ少尉のほかに六人の隊員が残っていたが、その六人の隊員は隊長ク中尉
(久保田邦夫=27振以下、特攻出撃して愛機故障のため不時着した傷つける荒鷲たちであった。いはばハ少尉と同じく荊棘の途を越えてきた不運の神鷲であった。

 ナ少尉
(名木山登=26振とミ少尉(三垣忠義=27振は遅れがちの愛機を翔ってなほ編隊に後續せんと密雲のなかを飛び續けたが、遂に力盡きとある畑中に不時着、共に瀕死の重傷を負って基地に帰着し、ク中尉は離陣直後不時着して軽傷を食らひ、オ軍曹は幾度か羽博かんとして愛機が動かず…(以下略)


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