クローバーを描いた3式戦…陸軍飛行第244戦隊史より
ここで、市川大尉の乗機について書いておきたい。
近年、航空戦記雑誌等に繰り返し掲載されている12個の撃墜マークを描いた3式戦1型丁のそれである。
結論を言えば、イラストの元になった写真は、終戦後、調布飛行場の射朶付近に集積されていた3式戦の1機に、米軍兵士が根拠のない撃墜マークと欧米で「魔除け」を意味する三つ葉のクローバーを「落書き」し、厚木から遊びに来た米軍将校がそうとは知らずに撮影したものと考えられる。
よって、誰が唱えたのかは知らないが、「市川大尉云々」という説は事実無根のデタラメであり、否定されねばならない。
実際の市川機は3式戦1型丙で、しかも20年4月15日の夜間体当りによって失われたはずであり、本機には撃墜マーク以外に何のマークも描かれてはいなかった。
元々、244戦隊に個人的マークを記入した機体など存在せず、これらの機体を引き継いだ特攻隊員たちも、同じくマークの記入などしていない。また当時の戦隊に、塗装やマークなどという枝葉末節に凝っている余裕など皆無だった。市川機にしても、5式戦改変後は撃墜マークすら記入していないと伝えられる。
如何に「死人に口なし」とは言いながら、市川大尉も草葉の陰で怒っていることだろう。