四宮中尉日記
昭和19年11月９日〜12月４日
11月９日
御厨中尉殉職。本日葬儀終了。残ル同期生、唯滅敵ニ敢闘アルノミ。
11月12日
はがくれ隊編成ナリテ五日。死ニ面シテ何等心サワガズ。君国ノタメニ逝ク日ヲ楽シムニ至リタル予ガ心境。
之レ二十有三年間ノ修養ノ成果ナリト認メラレ、楽シクモ嬉シ。（以下略）
11月14日
「富嶽隊」ノ戦果発表サル。戦艦轟沈。隊長西尾常三郎ナリト。
嗚呼、区隊長自ラ範ヲ垂ル。吾等教ヘ子、師ニ続カンノミ。
11月15日
八紘隊来ル。隊長、遠藤中尉。各方面ニ於ケル五十六期ノ活躍ヤ大。
將ニ吾等同期生ノ奮闘ノ秋ナリ。驕敵必滅、大イナル膽ヲ以テ一挙撃砕スヘシ。万難ヲ排セヨ。
11月17日
八紘隊出発。必死必中ノ攻撃ニ向ヒ勇躍出発ス。祈成功。
我レ亦、はがくれ特攻隊ナリ。（以下略）
11月19日
早朝ニ起キ出デ飛行場ニ至レバ、霊峰富士ノケダカキ英姿暁ニ聳エ、荘厳ノ極ミ也。
如何デ日本ヲ守ラデヤハオクベキ。予、生ヲ享ケテ二十有三年、大君ニ報ズルハ正ニコノ秋。全身全霊ヲ尽シテ仕ヘ奉ラン。
すめらみくにのもののふは いかなることをかつとむべき
ただみにもてるまごころを きみとおやとにつくすまで
必死報国、必死成功。はがくれ隊員総テ意気溢ル。神国日本ニ生ヲ享ケタル幸ニ感激身ニ沁ミテ有難シ。
11月21日
本日午后出動。天候不良ノタメ夜ニ至ルマデ阿部機ノ消息不明ナリキ。
板垣伍長ハ雲中突破、高度一五〇米ニテ辛ウジテ雲下ニ出テ帰ル。吉田軍曹、他飛行場ニ不時着、斯ノ如キ危険ナル結果ヲモタラセシハ、予ニ何ヲ教ヘシカ。（以下略）
11月22日
昨二十一日、他飛行場ニ不時着ヲナセシ、吉田、阿部機帰ル。
11月24日
（前略）
一二〇〇、敵機来襲、Ｈ九〇〇〇
一二五〇、銚子北方ニテ敵七機編隊ト対進。体当リ攻撃ヲ実施セルモ、ヤヤ左側前下方ナリシタメ成功セズ。
敵編隊ハ水戸上空ニテ右旋回、予ハ之ヲ見ルヤ左旋回対進、敵編隊長機ニ機首ヲ指向ス。敵影一挙ニ迫リ、予マタ編隊長機ニ突進、ヤヤ右ニヒネリツツ撃突ト思ヒシ瞬間眼ヲトズ。左側方ナリシタメ敵ノ右翼ニ撃突セリト思ヒシモ、不成功。敵機ノ後流ニ入リ二、三回横転ス。ヤヤ敵ノ下方ナリシガ如シ。敵ハ相変ラズ七機ノ編隊。
「クソッ」更ニ追撃、銚子沖五十粁海上。他ニ二機モ追撃。
突然敵編隊中ノ一機、静カニ機首降下。爾后一時水平ニナオリタルモ、次ノ瞬間、錐モミ旋転数回、尾翼分解シ水中ニ水煙ヲアゲテ突入、太平洋ノ藻屑ト化シ去ル。快ナリ！
追撃ヲ断念シ陸地ニ向ヒ帰還途中、後続梯団ニ遭遇。之ニ前下方体当リ攻撃ヲカケシモ高度差大ナリシタメ不成功。左翼ニ被弾一発。（以下略）
11月25日
敵、帝都ニ近接セルモ侵入セズ。
はがくれ隊八名ニ増加。残ルハ眞ニ幾何ノ期間ナリトハ云へ隊長トシテノ修養ニ努力セン。
払暁、新編成ニテ哨戒。
11月26日
敵三機、各単機ニテ帝都進入。
隊長トシテ統御道、統御法、味フベキモノアリ。
夜、特別操縦見習士官（第四期）ノ日誌ヲ見ル。先輩トシテ今マデ殆ド指導ヲ與エザリシヲ恥ズ。
11月27日
敵機来襲。雲上爆撃。密雲ニシテ邀撃不能。
11月28日
出丸中尉、靖国隊長トシテ逝ク。夜、特別操縦見習士官ニ話ス。
注１＝出丸一男中尉は、四宮中尉と同じ熊本市出身の陸士56期生。航空に転科して昭和17年12月、見習士官として244戦隊に配属。
11月29日
夜間敵来襲、雲上爆撃。位置標定概ネ確実ナリ。必ズ撃砕セン。
11月30日
前戦隊長、藤田少佐殿ノ離任式。新戦隊長、小林大尉殿命課布達式。
夜、将校団会食。高田、原崎大尉殿、水越中尉送別会。
注２＝将校団会食は、通常、月に１回程度開催されていた。
注３＝藤田少佐は常陸教導飛行師団教導飛行隊長へ。とっぷう隊長高田大尉は飛17戦隊長へ。みかづき隊長原崎大尉は、後に飛52戦隊先任飛行隊長。水越中尉は明野甲種学生（隊長要員課程）の後、飛22戦隊付。
12月１日
下士官ニ対シ統合戦力発揮上ノ注意、並ビニ射撃経過ト体当リ経過ノ差異ニツキ学科。
今回○○飛行隊長トシテ転出ノ内示アリ。当部隊ヨリ予ト行動ヲ共ニスルモノ数名。全力ヲ挙ゲテ邁進スルノミ。
光栄アル重大ナル任務ニ服スル、男子ノ本懐之ニ過グルモノアランヤ。モトヨリ艱難ハ望ムトコロ、恐ルルニ足ラズ。一途成功ニ向ヒ邁進アルノミ。
夜、新宿ニテ高田大尉殿送別会。良キ先輩ヲ送リ出ス。感慨深シ。
マタ、今日ハ共ニ送ル身トシテ集ヒシ先輩、同期生、後輩トモ、僅日ニシテ相別ルルヲ思ヘバ、感身ニシミテ言ナシ。
12月３日
午后、敵Ｂ29七十機来襲。数編隊ニワカレテ侵入。撃墜十六機、不確実七機、撃破二十機。
「ザマー見ヤガレＢ29ノ馬鹿者」
快ナル哉。然レドモ、今少シ優秀ナル飛行機デ、更ニ多数機ヲモッテセバ、敵ノ野望ナド、一挙ニ撃砕スルモノヲト残念ナリ。
予、一四一六、及ビ一四二四共ニ敵七機編隊ニ対シ、同高度側方体当リヲ実施スルモ不成功。
ツイデ、一五二四、高度九五〇〇米ノ敵五機編隊ノ最外側ノ一機ニ一万米ヨリ突込ミ、同高度直前方体当リ攻撃実施。撃突瞬前、機体ヲ右ニ傾クレバ、左翼ピトー管ヨリ先、敵ニ衝突折損、飛行場ニ不時着ス。
同機ハ爾后、白煙、ツイデ黒煙ヲフキ、東京湾上ニテ小松大尉殿ニ撃墜セラレタリト。
「ザマー見ヤガレ」
然レドモ、中野伍長未帰還、板垣伍長印旛ニ不時着。誠ニ残念ノ至リ也。
マタ、我ガ特攻隊ノ戦果ヲ挙ゲ得ザリシハ、深ク反省且ツ更ニ研究勇奮ヲ要スルトコロ也
12月４日
板垣伍長、中野伍長トモニ体当リ成功。シカモ無事生還ス。喜ビ限リナシ。
大本営発表、撃墜二十一機（内不確実七）更ニ奮闘努力セン。