11月1日 快晴

 雨の続いた天候もからりと晴れて、最近ない好天気。今宵は夜間研究演習予定のため、専ら整備。我ら退屈の余り漠然として机に向ふ。

 「出動準備!」 時、13時頃。突然、ピストの拡声器は叫ぶ。周章して上衣を着る。「突風出動」と続いて呼ぶ。縛帯をかけながら愛機まで走る。
 漸くエンヂンも廻りだして、急遽取り乗った。計器等の点検せるも急がしく、滑温の上昇するを待ちながら空を仰げば、白雲ひいて遙か高空をB29 1機、我ら皇土上空を悠々と東進するを見る。演習かとも思っていたが、明らかな事実であった。

 残念ながら今見た敵機は到底撃墜は不可能である。後続機あるを楽しみに離陸!地上勤務者は我らの壮途を祝してか、帽子を、手を振っている。あゝ、落とさずにおくべきか。
 高度1000米、隊長機
注=高田大尉は降下せり。事故か。単機高度を取る。高度2000米。
 館山上空には友軍の高射砲弾幕が見えた。しめたと、これに向かって上昇。しかし敵機は既に去った後であった。

 さらに敵機らしきもの見ず、我らが守る皇土には爆煙も見えず、悠々たなびく工場の煙突。無事であったことが何よりうれしい。しかし、今後くるかもしれない。
 嗚呼、残念。警戒器が速やかに発見しておれば、いまの様なことはなかったろうに。市民も我らを恨んでいることであらう。
 遂に敵機をもとめず着陸せり。機付等も残念がっている。

 再び離陸す。愛機故障のため予備機に乗ったため、無線不通。只索敵。心の余裕も得しが、急に故郷を心配して望いて見たが、無事らしい。敵は偵察を目的として来たらしい。必ずやこの次には来るであらう。次々と哨戒。

 夜、突然また父島地区を北進する敵機あると察知。出動命令下る。
 暗夜出撃。しかし敵も我らが行動を察知したか、遂に来たらず。帝都には明々として増産の燈火見え、何と心たのもしく思ふ。

 この日、新藤伍長は外出先より帰る。入院中の空勤者3名も白衣のまま、敵機撃墜せんものと不治の体にて駈け来る。たのもし。


11月3日

 ルーズベルト選挙を控えてか、敵は躍起となっているのであらう。その手先となったのが、1日のあの偵察であった。この分では、8日迄にはきっと来るだらう。

 情報は次々と入ってくる。勿論、警戒は怠らない。一隊、総武装。
 故郷に便りを出したいが、その寸暇もなし。

 哨戒に次ぐ哨戒。2回目において高々度であった為、酸素を使ったが、不足であったために少々頭痛あり。
 夜に入ってから雨降り出したが、すぐ止む。


11月5日 曇りのち晴

 4日から降った雨もどうやら小降りになって8時頃には止んだが、雲は低い。B29 1機北進の情報あり。早くも、つばくろ隊出動す。
 雲高100米、最も悪天候。如何にして上空に行くか不安であったが、如何にして出たか、早くも「つばくろ」敵機発見の報告あり。
 とっぷう隊一同、切歯扼腕す。然しながら高度9000の敵、遂に逃げられたらしい。この頃、既に八王子上空の情報あるも、攻撃中なる報告あらず。

 遂に我が隊、出動の命下る。相模湾目標に低空を這ひ前進す。平塚近く、方向舵2枚の飛行機あるを発見する。然し残念ながら海軍機であった。
 相模湾上空は快晴。大島に向かひ高度を取りつゝ直進。高度9500は哨戒。幾多情報あるも更に敵機なし。
 遂に酸素の欠乏により呼吸も出来ない状態に入る。長機に記号し反転、また反転し降下せり。
 遂に鬼畜の如き米機を今日また取り逃がす。敵は1日の行動と同様なる模様。地上に対し何ら損害を与えずして遁走せり。

 この日、みかづき隊の片桐中尉殿、発動機の故障か不時着、遂に尊き殉職。我らが落膽、また一人。


11月6日 晴

 東天漸く白む頃、早くも戦闘配置。愛機も「いざ」に備いて出発位置に○○○○○○○…。機付も余程寒いのか、外套の中に首を縮めている。情報は続いて我らの耳を打つ。
 「南鳥島に敵機動部隊あり」
 敵はまさしく艦載機を以て本土を空襲せんとするのか。憎き米機め!一億同胞も全く安心することが出来ないのだ。我らは速やかに皇土を原態勢になさねばならないのだ。

 哨戒に次ぐ哨戒。今日もまた酸素の不足により頭が痛い。夜間に入って、より乱雲増しつゝあり。故郷を思ひ、また敵機撃墜の方法を考えつゝ就寝す。

 突如!拡声器の声。不明機北進するを認むるを報ず。楽しい夢を結ばんとしたも束の間、時まさに11時。何処迄も憎き米英よ。
 幸い、曇り始めた空も、時に晴天も見える。遂に「とっぷう隊」出動。夜闇をついて離陸。翼燈、編隊燈も数機を連ねて、丁度ネオンの様だ。
 撃滅の意志に燃えし躍起した我らも、敵の陰も見ず着陸す。


11月7日 快晴

 静穏のうち夜も明けて、せめてこの世の名残をと、愛玩する尺八の音にうなる。
 今日もあまりに天気が好すぎるので、敵の来襲する憂い大と感ずるうち、我等が哨戒する警戒網を破り、またも1機高度9000付近を以て帝都に侵入せり。高射砲の弾幕続いて敵機の前方に散る。然し、残念ながら、とどかないのであらう。

 船橋上空西進すの情報により、「とっぷう隊」にも出動命令あると思いきや、更になく、我らは地上にありて見る。見よ!哨戒中の「つばくろ」「そよかぜ」が盛んに追っている。あゝ憎きB29よ、悠々と白雲引いて我らが頭上を行くではないか。
 高射砲の弾幕、益々熾烈。単機後方より追尾するを見る。整備員も手を叩いてその撃墜を見んものと、聞こえざる大空の友軍機に声援している。だが、その功もなく、悠々飛来す。残念ながら敵の性能も、また優秀か。我らの○○○○○○…

 敵機南進する頃、とっぷう隊の出動。嗚呼残念、またも敵に接することが出来ないのか。何故に早く出動を掛けてくれなかったか。きっと体当りも敢えて行ふではないか。
 どんなに口惜しいか、全く自分ながら心の置き場所がなかった。敵は笑って帰ったであらう。さうして今頃は、また基地にてその報告に鼻高々としているであらう。思ふにつけ残念なり。民もどんなにか我らを恨んでいるか、これも止むを得ず。

 この夜、遂に我らの任務上ゆるがせにすること出来ず、然して特別攻撃隊を選抜するに決す。これは、また飛行機を○○○し、武装をも○○○することとなる。

 我また、これに参加せんと希望を呈出せり。嗚呼、我に幸運来たれり。遂に選ばれたり。身命を捨てて誠君国のために殉ずるは、とき今。
 戦隊長殿
注=藤田少佐より節々の訓示。選ばれた我ら、僅か○名。恩賜の煙草頂く。


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