『狂界線』
終、再/いつか見たあの日の空




 駅に着いてから椅子を探す。
「ねえ、トイレ」
 傍らにいた小さな女の子が話した。
「ん? 一人で行けるな?」
「うん」
「ここで待ってるから行って来い」
「うん」
 トテトテトテ。
 さて、荷物をおろすとしよう。バッグはあまり大きくはないが、それでも長時間持つと肩が痛くなる。
「よっと」
 椅子に荷物を置いて自分も腰を下ろす。すると隣には既に先客がいる。緑の服を着た青年が座っていた。
「……」
「……」
 何も言わずに時が過ぎる。すると青年が黒い服を着た少年に話しかけてきた。
「旅か?」
「ああ、まあそんなとこだ」
「二人か」
「まあな」
 他愛もない会話。けど、この瞬間は悪くはない。
「まだ若いだろう」
「だから?」
「随分と、な。訳ありか?」
「若ければ、というのは好きじゃないな。若くても人生経験が多ければこうなるさ」
「……それもそうだな」
 また黙り込む。今度は少年から。
「あんたは」
「同じようなもんだ。この街には結構長いこと居たがな、出ることにした」
「慣れた街を離れるのか」
「ああ。ま、俺も女に惚れてからいろいろ変わった」
「なるほどね」
 納得できる理由だ。本気で相手に惚れれば、自分の価値観は随分と変わる。
「餞別だ。何かの縁だし、やるよ」
 いきなり青年からライターを渡される。
「いいのか?」
「そいつは俺と昔から長い事一緒に居た奴だ。けど同時に裏の世界にいた証明でもあるからな。ここらで別れるいい機会だ」
 何度か少年は火をつけてみる。随分と手に馴染んだ。もしどこかで見つけていたら買っていただろう。
「サンキュ」
 受け取ってポケットにしまう。そして少年から話しかける。
「あんたも裏にいたのか」
「お前もか」
「ああ。変なもんだな」
「全くだ。ここまで変わるなんて思いもしなかった」
 少し前までは平気な顔してヒトを殺していたのに。今では大切なヒトを守ろうとしている。
「ああそうだ」
 少年がバッグをごそごそとあさる。
「これやるよ。お返し」
 青年が渡された物はペンダントだった。ひし形の小さな板に、見たことのないオレンジ色の宝石が埋め込まれている。
「綺麗だな。いいのか」
「おう。前に商人から買ったがな、まだあいつには早い。お前の彼女にでもプレゼントしてやれ」
「そうか。ありがとよ」




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