『狂界線』
八/癒される心、繋がれる想い。




「もう、大丈夫か?」
 泣き止んだ雪華を抱きしめたままで雪那は話しかける。
「あ……はい……」
 雪華も小さい声だが、確かに答えた。
「俺さ」
「はい」
「お前の事を忘れた日なんてなかった」
「私もです」
「忘れたらその瞬間に母さんにも父さんにも顔向けできないと思ってたから」
「……」
「でもさ、結局は償いたい気持ちだけ先行しすぎてた」
「え?」
「俺が歩いた道は母さんが歩いた道だ。それを辿ったたけだったんだよ」
「……私も、結局は」
「うん」
「どうか兄さんが罪を認めてくれたらそれでいいなんてことばかり考えて」
「そうか」
「歩いてきたのは、自分の道などでは」
「……そうだよな」
 ここまでくるのにどれだけ苦しい思いをしてきたのか。最終的に殺し合うまで追い詰められて。
「家族だから」
 そして最後に力を振り絞った母とテュッティに助けられて。
「一緒に、歩けます、よね?」
 こうやって、また。
「ああ。行けるだろ?」
 今度はここから歩き出せる。
「はい」
 キンッ……
「え」
「な」
 聖宝具「カーネリアンヘブン」が光を放つ。まるで二人の心が和解したことに反応したかのように。
「雪華、これ」
 宝具は光る事を止めない。
「わかりません。こんなことは今までに、一度も」
 そして頭の中に直接映像が送られてくる。雪那と雪華、両方に。
「――」
「――これ」
 この宝具を母が手にしてきてからどのような道を歩いたのか。どう戦い抜いてきたのか。何故誇りを持って生きていくことができたのか。そして、あの教会で――
「……そうだったのか」
 雪那が目を閉じる。
「はい。これが」
 雪華が想いを馳せる。
「始めようか」
「あの扉を閉じるのは私達の役目ですね」
「ああ」
 二人が開放するための言葉を放つ。前とは違う、完全なる言葉を。

『封印(オーヴァー)、解除(ドライヴ)っ!』

 ガキイィィィィィィン!
 マナが集まる。全ての魔力が開放される。従えるのではなく、共鳴し、共存する。

「これが」
「本当の姿、ですね」

 文字通り封印を解除した兄妹は姿が完全へと至っていた。雪那は左眼が、雪華は右眼が輝き、残る片眼も紅(あか)色に変わっている。もちろん髪も鮮やかな紅(あか)だ。そして最も変化したのは、背中の羽。片方にしか生えなかった羽がしっかりと二枚生えている。二人はこの瞬間、真紅の天使として再びこの世に生を受けた。
 ヒュン……
 大地が光る。祝福してくれたようだ。
「ありがとう」
 これからどうするかは考えるまでもない。
「雪華」
「はい」
「俺の大切な仲間を助けたい。手を貸してくれ」
「喜んで!」
「よし、いくぜ!」
 空を飛ぶ。そして最後の決戦の地へと向かう。もう負けなどはしない。だって、二人とも大切な家族が隣にいるから。綺麗な羽を羽ばたかせながら、兄妹は光を灯すために空を駆けていった――

 いつかあいつが言ってたな。都合のいい運命ぐらいは信じてもいいと。全くもってその通りだ。



――アリガトウ――




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