『狂界線』
八/癒される心、繋がれる想い。




「ふは」
 落下しながら雪那はどんどん自分が満たされるのを自覚していた。ここまで気持ちいいなら、最初から雪華を殺そうとしておけばよかった。
「あはは」
 しかもあいつはここまで全力で戦っても死ぬ気配がない。これほどまでに最高の獲物は他に存在すらしまい。
「ひひ」
 壊れて生きる雪那は笑いが止まらなかった。

(どうしよう)
 一旦距離を離した雪華は考え込んでいる。行ってきた戦闘で実力差が明確に出始めていた。最初は互角に戦えていたものの、雪那の宝具はまだ全ての形を見せていない。それに対して雪華の戦法は禁呪に至る全ての魔法と母の形見である聖宝具「カーネリアンヘブン」だけだ。聖宝具の力をまだ解放してはいないが、これをかわされるともう後が無くなる。純粋な接近戦では分が悪いし、遠距離でも雪那には弓がある以上そう問題でもない。
(やっぱり、もうあれしか)
 ならば最後の一撃に賭けるしかあるまい。雪那と離れたビルの上にいた雪華は、「カーネリアンヘブン」の力を解放する。
 キンッ……
 鎌に埋め込まれていた宝石が光を放つ。この聖宝具の特殊能力は光と闇の力を爆発的に増加させる能力がある。そして、雪華の手に光が集まり始めた。

「ん?」
 向こうのビルから魔力を感じる。
「あっちか!」
 すぐに移動した雪那は向かいにある同じ高さのビルの上に立った。
「あははは! これか、お前の切り札は!」
 既に異常なまでに膨れ上がった魔力とマナを見ることができた。雪華が決着をつけるために用意した光の禁呪。雪華は上空に手を掲げ、集まった光を開放した。
「究極の光の刃(アルティメットセイバー)……!」
 その言葉を吐くと同時に金色の光が剣の形を成す。全ての生物を極限まで進化させ続け死に至らしめる、禁呪の中でも一、二を争う魔法。
「最高だ……! もうこれで俺も終りにできる!」
 それを見た雪那は更に笑いが止まらなくなる。

 そして。最後の切り札を、手の中に具現化させた。

「え?……あれは、なに」
 既に雪那の手には見たこともない武器が握られている。豪華な装飾を施されている大剣とハルバード。それが一組になった奇妙な剣。
(宝具の一つ?)
 予想はそれくらいしかつかなかった。そして。
(ならば、勝てる!)
 雪華は刃を振り下ろした。

 雪那はもうこれで終りにするつもりだ。だからこれを手にしている。最早、呼び出すのに詠唱式を唱える必要などない。何故なら現在の自分が望んでやまないから。体そのものが体現しているから。
                         『善か悪かは関係ないのだ。』

「はああああああっ!」
 雪華が。ならばこちらも。
「第六(だいろく)」
 今更ながらセリフを聞いて雪華の顔色が変わる。
「源殺(げんさつ)ッ!」
 先端のクリスタルから延びた巨大な白い光は、真っ向から禁呪の刃と対峙した。そして――



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