『狂界線』
六/壊れた獣は餓えるが故に
何よりも眼前の血肉を求める




(……っ!)
「へえ。それでも完全には意識を落とさないのか。やっぱ、だな」
(てめえ……!)
「そうかっかするな。状況を説明してやるから。それに今の映像は俺も見せられてんだ。ちゃんと意味があるんだよ」
(?)
「まず状況説明からいくぜ。テュッティが目の前で殺されたあの時、泣き叫んで意識が一瞬ぶっ飛んだ。その状態から意識が戻らないっつーよりは奥に入って出て来なくなった状態だな、今は。だから何を言われても反応しないし答えられない(・・・・・・)。余程ショックが大きかったんだろ。精神崩壊起こさなかっただけまあいいのか。外の連中はどう見ているか分からないけどよ。それで、残った意識が俺とお前なのさ」
(残った?)
「ああ。まあ感情なんてのは山の数ほどある。しかし俺らは本体そのものがどうも変な状態になったらしくてな」
(……どう捉えればいい?)
「んっとな、全部を決定するでかい装置があると思えばいい。その中からその時々に応じて必要な感情が選択されている」
(じゃあその本体そのものが壊れた?)
「その一歩前。どうしたらいいか分からなくなったのさ、本体ですら。そこまで影響を与えるほどテュッティの存在は大きかった」
(……それで? あの映像を見せられた意味は)
「壊れたかけた装置はそれでもどうにかして体を動かそうとしたんだよ。無意識で動かない以上、行動に必要なのは状況を見た脳の判断とそれに従うかどうか決める感情、つまり心だ。とりあえず体を動かす『原理』を決めるためにありとあらゆる感情にあの映像を見せつけて廻った。同じ体だってんのに何度も何度もな。そして最終的に残ったのはこの二つ」
(なるほど。そのまま消えなかった感情か)
「いいや? どうも違うみたいだ。どの感情もその後、俺かお前かの『どちらかの感情』にしかならなかった(・・・・・・)のさ。だから必要だと判断された二つってわけ」
(……なら、この二人は)
「お前は全ての感情を抑制できる『正常』。俺は全ての感情を抑制する必要の無い『異常』だよ」
(ここが)
「そうさ」

『狂界線だ』

「いかれるのか、それとも」
(抑えきれるか)
 姿を現す。もう一人の自分が。今度は「源殺」ではない、本当の自分。同時に放った『狂界線』。
(だれだ)
「お前だ」
(俺もお前か)
「ああ。殺し合おうぜ」
(なんで)
「俺が勝てばこの感情で本体が支配される。お前が勝てばそのままお前が体を支配する」
(所詮、体はただの器か)
「まあな」
(全く。簡単なルールだな、おい)
「だろ? 否定するのは勝手だけどさ、それならここで俺がお前を殺してそれで終いだ」
(自分なのに?)
「俺が司る感情はなんだった?」
 ――右手に力を込める。握られたのは、一振りの刀。それは相手も同じ。さらに右眼と髪の色が変わる。魔眼を開放した。自分自身との戦いで意味があるかは分からないが。
「それで正解だ」
(さあ)

 自分と、殺し合おう。

 交わる斬撃は全て同じ腕から正反対に繰り出され、同時に避け、同時に弾く。写し鏡のよう、ではなくて一ミリ単位に至るまで全てが同じだった。
                                    まあ本人だから当然か。
両者ともにそんなことを考えながら戦闘は続く。時間を計る術も無く、体力が尽きる事も無くただひたすら続いていく。どれくらい数をこなしたか。
 ――そして。
 ザクッ。
 刺さった。お互いの胸に。
『はは』
 互いに笑う。そして、裂く。
 ズバッ。
『あはは』
 互いに血しぶきが舞う。綺麗だ、これ。まだまだ。
 ザンッ。
 互いの左腕が切り落とされる。
 グサッ。
 互いの右脚に刺さる。
 ブスッ。
 互いの腹を貫通する。いくら血を流しても、微塵も痛みを感じない。
 ズ、バン。
 互いの首が、切り飛ばされる。
 くるくるくる、ゴン。
 互いに落ちた首と残った体からだらだらと血を流しながら笑う。
『ははははは』
 どちらがどちらだったか?
『さあ?』
 ああ、まあいいか。だって。

 こんなに楽しいから。両者共、笑いが止まらない――
 カコン。


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