『狂界線』
伍.六/叫、刻み込め。



「御免。迷惑掛けたね」
「……瀬里奈っ!」
 テュッティが抱きつく。しばらくしてから瀬里奈は自分の足でここに戻ってきた。
「馬鹿。心配かけすぎだ」
「頼れといったのはお前だぞ?」
 それぞれが口々に話しかける。心配していた分、心から嬉しそうだ。
「ほんと、御免。色々あって塞ぎ込んでてさ、ちょっと錯乱状態になってた。……ごめんね、テュッティ」
「うん、うん、ほんとによかった」
 瀬里奈に抱きつきながらテュッティは泣きじゃくる。そうか。こんなに心配してくれている親友をここまで私は悲しませて。(でも)
「うん。戻ろう? みんな一緒じゃないと駄目だからね?」
「そう、だね。ええと」
「帰ってきたらまずは何て言うんだ?」
「あ、はは。その、ただいま」
「ああ、お帰りなさい」
 暖かい場所に迎え入れられて、自分の居場所を確認する。(けど)
「瀬里奈、手」
「え? あ、これは」
 瀬里奈の手は普通の状態ではなかった。治癒結界をかけられても剥がれた爪までは再生できなかったらしい。
「あのさ、気を取り直した後に一応結界かけたんだけど……」
「爪までは治らなかったか。それに加えて随分とひどい傷の跡だな」
「ん。結構無理したから」
「本当に心配した。……頼むからこんなことは二度としないでくれよ?」
 ああ。あなたにそう言われたらもう無理はできないな。
「えっと、こんな時にだけどさ。お腹空いちゃった。何か食べたいな」
「あはは。お前らしくていいや」
「そうだね。みんなで何か食べようよ」
「ああ、四人一緒だ」

 おいしい食事を終えて、いつもの部屋に帰る。
「ひどい状況だね」
 部屋の中を見たテュッティが呟く。まるで殺人現場みたいだ。
「う……ん。無理しすぎ、かな?」
「しすぎ」
 テュッティはそれでも瀬里奈に笑いかける。
 ズ、キン。
 これくらいは我慢できるだろう。
「整理できてないけど、その」
「今日は布団を下に敷いて寝ようよ」
「え?」
「それでもここは私達の部屋だから。問題無し!」
 元気なテュッティは心からの笑顔を見せる。少し胸が痛むがここまでいい顔をしているテュッティを見るのはいつ以来だろう。この笑顔を無駄にしたくないから。
「うん。そうだね、一緒に寝ようか」
 私も、受け入れよう。

――六日目。
「いやっほう」
「あはは、瀬里奈テンション高すぎ」
 昨日までの光景がまるで嘘のようだ。瀬里奈はしっかりと元気を取り戻し、テュッティもあの時のように影が無い。これこそがあるべき姿というもの。
「元気いいな、二人とも。まあ、塞ぎ込んでるよりは余程いいか」
 それを見た雪那も嬉しそうだ。やはりこうでなくては。そして実感した。ここまで親しくなると誰か一人がいなくなるだけですぐに崩れてしまう。絆が強い分、どれかが欠けると非常に脆い。
「そうですね。瀬里奈、お帰りなさい」
 フェイミンとダンデオンも瀬里奈の帰還を喜ぶ。あの後はすぐに寝てしまった為、二人が直接顔を合わせたのはこの時が久しぶりだった。
「うん。迷惑いろんなヒトに掛けちゃったからさ、その分は戦場でちゃんと返すよ」
「頼りにしてます」
「まかせて」
「さてと」
 今日は出立直前のためこの五人で訓練の予定だ。軽くするものの、決戦に向けての準備だということもあり気は抜けない。
「では始めましょうか」
 ダンデオンが始めようと合図をしたが、瀬里奈が意外なことを口走る。
「あのさ、雪那、テュッティ。今更だけどちょっと別の場所に付き合ってくれない?」
「はあ? 今更って」
「訳は言えないけどさ、お願いできる?」
 手を合わせて頼みます、のポーズ。
「私はいいけど……。フェイミンとダンデオンに悪いよ。後にできない?」
「うーん、その、あまり遅いとちょっとね」
 しばらく考えていると副隊長二人から声を掛けた。
「あの、私達は構いませんが」
「何か優先する事があればそちらを」
「いいのか?」
『はい』
 それを聞いた雪那はある提案をする。
「なあ、この五人でなら駄目か?」
「え? んっと、大丈夫だよ? 別に人数指定じゃないし」
「そうか。ならみんな付き合ってくれよ。ついでだから丁度いいだろう」
 結局この五人で行くことにする。
「少し外に出るよ」


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