『狂界線』 四/失われたモノ、 埋め込まれたモノ。 「で? これはどういうこと?」 瀬里奈が渋い顔をする。 「ま、はめられたかな」 雪那が冷静に指摘する。 「まあとりあえず進む?」 テュッティが促す。 「別の罠だな、やっぱり」 ロイは元々確信があったようだ。 「あたし一人だけむかついてる気がするんだけど」 「瀬里奈、カルシウムが足りんぞ」 「しわが増えるな」 「……うがー!」 男二人に喰ってかかる。瀬里奈が気に入らないのは予定のポイントには障壁などなく、単に暴走しそうなレイポイントが一箇所。本当にそれだけで、他には何もない。だが―― 「これで済むわけがないだろう。ここからは慎重に運んだほうがいい」 ロイはどうも不安が消えないらしい。戦術家として誰よりも優れるこの男が言うのだ、間違いあるまい。とりあえず足を進めながら話す。 「森の中って歩くの疲れるのよね」 「文句言うな。なんなら背負ってやろうか」 「馬鹿。彼女持ちが言う台詞じゃないでしょ」 「テュッティはいつでも言ってくれていいぞ。遠慮するな」 「うん。疲れたら頼むね」 「あーあ。このバカップルが」 そんなこんなで簡単にポイントも封印完了。あとは帰還するだけだが、最初に違和感を感じたのは雪那だった。相変わらず第六感は人並みはずれている。 「――いるな。誰だ」 「おや。勘が良い方ですね。もう少しでしたが」 木々の間から現れた人物は、誰もが予想していなかった人物だった。だが同時に全員が知っている。裏の世界でこの男を知らないものはまずいまい。 「クロイツ!」 「お名前も知っていただけているようで光栄です。まだ十代ばかりの方々のわりには実力は確かなようで」 礼儀正しく話すが、どこか嫌味を感じる声。飄々とした風貌ながら裏の殺し屋としては最凶。そして国連が国際指名手配犯に指定した唯一の「規格外者(ノンスタンダー)」。実力など、言うまでもない。 「珍しいな。今度のターゲットは俺達か?」 「ええ。ちなみに依頼人は国連の上層部の方々ですよ?」 「! なるほど、生き残りたければ、か」 「ふふ、簡単に死なないでくださいよ?楽しませてください」 状況はなんとか五分五分。だが相手が失聖櫃(ロストアーク)の使い手である以上、人数では押し切れない可能性がある。だが問題はそれだけでは済まなかった。 バシュッ! 「え!?」 遥か彼方に、光の柱。レイポイントが暴走している。 「あれは私がやりました。全く、情報操作は簡単に効きますね。油断しすぎですよ、あなた達」 「貴様……!」 「どうする? これじゃ被害が出るよ!?」 三人は焦りを隠せなかったが、ロイはすぐに指示を出した。 「テュッティと瀬里奈はポイントに行け。ここは二人で十分だ」 「そんな! 二人とも置いてなんて――」 反論したテュッティに対して今度意見を出したのは雪那だった。どうやらロイの考えが読めたようだ。 「先に行って来い。なあに、考えなしにロイは言わねえよ。安心しろ」 その言葉に続くのは、瀬里奈。今、引っ張らなければ二人が困る。 「わかった。行くよ、早く!」 手を引っ張って瀬里奈が走る。女二人が視界から消えてからクロイツが口を開く。 「なめてこちらにかかるのであれば細切れにしますが」 少々不満なようだ。まあ気持ちはわからないでもない。 「そういうなよ。考えがない訳じゃあない。十分に満足できるぜ?」 ニヤリと笑うロイ。自信がある表情だ。しかも恐らく本気で勝てる自信がある。その表情を見てクロイツは満足したようだ。修羅場をくぐった者の勘だろう、本気で楽しめると判断している。 「いいでしょう、では始めますか」 「瀬里奈! まだ間に合うから戻らないと!」 テュッティが瀬里奈に叫ぶ。雪那が一人だけなんて、認めたくなかった。しかも相手がクロイツだ。不安でしょうがない。 「そりゃあたしだって戻りたいよ! でもロイに策があるなら賭けるほうが得策! あんたはいつも心配ばかりなんだからたまには思いっきりあいつのこと信用しなさい!」 親友に檄を飛ばす。テュッティはどうも他人を優先で考える傾向にある。雪那にまでその態度ではあちらが不安がるだろうから、こちらから教えなければならないのだ。その気持ちを伝えて森を駆け抜ける。優先すべきは、レイポイント。 |