『狂界線』
四/失われたモノ、
埋め込まれたモノ。




「上層部から命令だ」
 いきなりヴェルに呼び出された三人はこう言われた。
「いきなりすぎ」
 メンバーは雪那、ロイ、テュッティ。
「ああ、すまん。まあ話すとしよう。座ってくれ」
 椅子に腰を下ろす。
「まあ、レイポイントの調査なのだが。問題が一つあってな」
「?」
 渋りながらヴェルが話を続ける。
「カーマインの隊員が確認したのだがどうもポイントの近くに障壁が張られているらしい。恐らく破れば中の魔物が溢れ出る」
「それで三部隊分か。なら準備を――」
「いや。お前達三人だけだ」
「え? ……ヴェル?」
 不思議そうにテュッティが訊ねる。
「上層部からの命令だ。恐らく一番若い十代のメンバーが自分達の手駒として使えるかどうかの最終確認だろう。これは上の奴らを安心させるチャンスだ。できれば三人で任務をこなし、付け入る隙を窺いたい」
 なるほど。これを機に油断する事があればこちらも情報を集めやすい。それにポイントの調査及び封印くらいならば三人でも何とかなる。単に手数が減るだけだ。だがロイはそれとは別に何かあると踏んでいる。こういう状況で上が動いていないはずはない。するとそのロイの表情を見た雪那が一つの案を出す。
「ヴェル。瀬里奈を一緒に連れて行ったらだめか?」
「む? どうした?」
「もしもの場合は二人づつに別れることが出来る。区切りのいい人数だし、それに実力からいけば問題はないだろう?」
 雪那の意見も一理あった。瀬里奈とテュッティは実力がほぼ同じだ。宝具による差はあるものの、単純な戦闘力でいけば接近戦は瀬里奈が上回る。それでも副隊長にいるのは前線に出るのが好きだからとか。そして、もう一つの理由は。
「……ふむ。まあそれくらいならば問題ないだろう。わかった、許可しよう」
「よし。ならこっちは準備始めようぜ」
「ん、ああ。テュッティ、行くぞ」
「うん」
 許可をもらって部屋を出た後、外でテュッティが雪那に訊ねる。
「ねえ、雪那。あれって私に気を使ってくれた?」
「ああ。俺だけ親友つきは不公平だし。あとで文句言われたら敵わん」
「えへへ。気配りしてくれるのって嬉しいな」
 頬を染める。ロイはその様子見てあーあのポーズ。
「いやさ。カップルとしてはいいだろうが見せつけられてる俺はきつい」
「ふ。悔しければとっととミリアに告白しやがれ」
「え? 雪那、ロイには話したの?」
 そういえばテュッティには言っていない。ここは話したほうがいいだろう。だがこちらが話す前に逆に切り出された。
「私も瀬里奈にだけは話したよ。うん、このメンバー丁度いいかも」
「そうなのか。都合がいいな、そりゃ」
 幸せそうな二人を見て、自然とロイも頬が緩む。ああ、こういうのは見てる側も気分がよくなるもんだ。瀬里奈も合流したらもっと楽しくなる。犠牲にした「普通の生活」とやらはこれで十分に帳消しだ。わけて貰える分はあいつら二人を守る形で返そう。それがいまの俺にできる唯一の事だから。
「二人とも、ちゃんと気持ち切り替えておきな? 戦場では容赦効かねえぞ?」
『はーい』
 そんなやりとりをしてるうちに宿舎の分かれ道に着く。
「じゃあ一時間後で。部隊の連中にも言っておかないと」
「うん。じゃあまたね」

 その頃。チカラはヴェルの元に来ていた。
「これが、か?」
「ああ。これで全てが決まる。予想が正しければ雪那は――」
「だが相手が悪すぎる……正直不安だ」
「いや。相手も使い手でなければ無理なんだ、これは。体が不安定な存在である以上避けられん」
 そして、あのヒトがそれを望んでこのような選択をしたはずだから。ならば自分はそれに賭けなければならない。恩師のために。
「分の悪い賭けだ。本当に」


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