『狂界線』
四/失われたモノ、
埋め込まれたモノ。




そのころクロイツは全速力で森の中を逃走していた。本来ならば失聖櫃(ロストアーク)に対抗できる力は失聖櫃(ロストアーク)しかない。人類最強の破壊の力に対抗できるのは同じものしかないはずだ。だが知っている。あれは特性上、こちらの攻撃は絶対に相手に届く事はない。同じ力とはいえ、殺し合いでいけばあちらが生き残るのだ。
「失敗しましたね。あれが相手では私であろうと誰であろうと関係ない」
 そうだ。もし雪那が全てを殺し尽くそうとすればその時点で人類は終わる。そういう類の代物。
「この依頼は失敗ですか。まあ、楽しめたことに違いはありませんからね。良しとしましょうか」
 満足できる内容ではあった。死んでしまえば楽しむこともできないだろう。もうこれ以上はあの少年達に関わらないほうがよさそうだ。連絡係達がいるポイントに向かう。
「逃げてくるとは珍しいな」
 その場所には黒ずくめの男が六人。いずれも上層部に属するエージェント達であるが、こんな雑魚共はどうでもいい。
「ええ。相手が失聖櫃(ロストアーク)の所持者になってのでね、これでは話にならない。所持したのは『第六・源殺』」
「! その言葉、嘘ではないだろうな」
「なら今から確かめに行ってはどうです? 最も、行くのであれば全員生き残れる保障はしませんが」
 元々この男の実力を知った上で依頼したのだ。まさか逃げ帰ってくるとは予想していなかったが、この言葉には嘘はあるまい。
「そ、そうか。ならば俺達はこれで――」
「クス」
 スパン。
 一人、体が真っ二つに割れる。大量の血を吹き出すスプリンクラーとなった同僚を見て、他の者達が銃を構えた。だが――
 スパン。
 また一人、また一人。また一人。また一人。残るは既に、一人。
「う、あ、あ」
「クス」
 ス、パン。
 切れたのは手に持っていた銃だけ。まだ男は生きていた。
「まあ、あなたは報告してあげてください。今のは楽しませていただいたほんの些細なお礼ですよ。くくっ、実力も伴わないくせによくもまあ偉そうな口を叩く」
「うあああっ!」
 走り出して逃げた男を気にも留めずに空を見上げた。茜色の空は何よりも血の色に近く、美しい。殺戮を生業とする男は再び口元を歪に曲げて見せた。

「どうした。腰でも抜けたか?」
 既に魔眼を解除した雪那はロイを見て笑う。
「あ、あのなあ。そんな切り札隠しておくなんてヒトが悪いぜ」
「隠していたわけじゃあないって。ついさっき所持者になったんだから」
「……あ? なんじゃそりゃ」
「とりあえず二人と合流しに行くぞ。話しはそれからだ」
 自分の体を確認してみる。違和感は特に無い。そしてあの時纏った紅いローブはもう着てない。あれは母さんが着ていたローブには違いないだろうが、何故自分が纏っていたかは解らない。息子へのプレゼントか、それとも制御用か。
「レイポイント、まだ封印しきれてないな。急ぐか」
 合流するべくロイを促して雪那は動き出した。


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