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参/水鏡、曇のち晴れ。
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「痛え……もうちょい優しく……」

「あ、ごめんごめん。にしてもあんたも異常よねー。こんなに身体ボロボロなのに意識失わないなんて」

 戦闘区域から離脱した雪那は手当てを受けていた。テュッティが治癒結界をかけ、瀬里奈が包帯を巻いてくれている。

テュッティは緊張の糸が途切れたのか、安全と分かると泣きながら抱きついてきた。が、そのため呼吸困難になり、今は全員が足を止めて休憩中。

「ご、御免ね、雪那。だってもう死にそうだったから、無事って分かったらつい抱きついちゃって……」

「いやあれじゃその前に死ぬって。あんたさ、もうちょい手加減しなよ」

「う、うん……」

 そんな二人のやりとりもぼんやり聞いている程度。現在は意識的に体内の感覚を全て落としていた。
治癒に専念させるには無駄な体力を使わないほうがいい。顔を横にするとカーマインと目が合った。

「あまりにも無茶をしすぎましたな、雪那殿。ですがおかげで他の目的はまとめて達成できました。感謝します」

「……おう」

 返事もどこか上の空だ。ここまで疲れたのは久しぶりのような気がする。宝具のこととかバルムのこととか色々あるけどまあいいや。とりあえず、ゆっくりと休むとしよう―



 周りは、真っ暗。闇のみだ。自分がそこに立っている。上も下もない不思議な感覚だが、違和感は特に無い。

(先程の闘い、見せてもらった。お前はどうやら私に相応しい人物のようだ。)

「! 誰だ」

 声は何処からもなくしてくる。雪那は警戒して構えをとろうとしたが、刀が無い。

「ありゃ?」

(そう殺気立つな。現在、私の方からお前の心に語りかけている状態だからな。)

「あいつとは違うのか?」

 雪那はいつか自分に語りかけた声を思い出す。

(いいや。あれはどうやら元よりお前の中にいるようだ。私とは違う。)

「? うーん」

 よく解らずに首を傾げる。

(まあよい。自己紹介をしよう。我が名は聖宝具「ナインブレイカー」)

「へ? 宝具? 喋れるの?」

 驚いた。宝具が話せるなんて聞いたことが無い。

(この声は「選定」に使うためのものだ。所持者が決まれば声は無くなる。)

 なるほど。こうやって所持者が決まるのか。道理で一旦手にした聖宝具が他のヒトでは能力が使えないわけだ。

「なら一応、認めてくれたのかな?」

(ああ。お前ならば問題ないだろう。存分に我が力、振るうがよい。さて、邪魔するぞ。)

「は? 何が?」

 次の瞬間、頭痛。

「ぐっ! おい、一体!?」

 頭に直接刻まれる。この宝具の扱い方が。

(どうだ? これならばすぐにでも我を扱えよう。)

「おお、こうなってたのか。ちょっと感激」

(……と、言いたいが実はまだでな、すまん。)

「……おい」

 なかなかお茶目な宝具だ。「ナインブレイカー」は話を続ける。

(私は名前通りに九つの形を持つ。だがその形を決めるのは所持者自身なのだ。つまり今は型がない。決めるがよい。)

「ん? 九つなら何でもいいのか?」

(ああ。そうは言っても形など大体決まっているだろう。使いたい物を九つ、言ってくれればいい。)

「うーん。よし、決めた」

 雪那は少し考えてから即答する。

(え!? も、もういいのか? もうちょっと悩んだりしないの?)

「ナインブレイカー」は驚いた声を上げる。だが雪那は本当に決めてしまっていた。

「だって戦闘で使うものなら大体簡単に決まるだろ」

(前の所持者は三日悩んだぞ……。)

「そいつが優柔不断なだけだ。イメージするから、それに合わせて固定してくれ」

(う、うむ。了解した。)

 雪那が頭にイメージを重ねていく。

「これとこれと……ああ、あとはこれだな。あと最後は……こういうこと、できる?」

(ほう……私をそのように扱おうとしたのはお前が初めてだぞ。ああ、できないことはない。だが完全な切り札になるが、いいのか?)

「ああ。今現在、切り札で倒せなかった奴がいる。万が一に越した事はねえよ」

(ふむ、あの男か。まあいい。では選定は完了した。あとは存分に振るってみせよ。)

「おう。じゃあな」



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