9/ 「痛え……もうちょい優しく……」 「あ、ごめんごめん。にしてもあんたも異常よねー。こんなに身体ボロボロなのに意識失わないなんて」 戦闘区域から離脱した雪那は手当てを受けていた。テュッティが治癒結界をかけ、瀬里奈が包帯を巻いてくれている。 テュッティは緊張の糸が途切れたのか、安全と分かると泣きながら抱きついてきた。が、そのため呼吸困難になり、今は全員が足を止めて休憩中。 「ご、御免ね、雪那。だってもう死にそうだったから、無事って分かったらつい抱きついちゃって……」 「いやあれじゃその前に死ぬって。あんたさ、もうちょい手加減しなよ」 「う、うん……」 そんな二人のやりとりもぼんやり聞いている程度。現在は意識的に体内の感覚を全て落としていた。 治癒に専念させるには無駄な体力を使わないほうがいい。顔を横にするとカーマインと目が合った。 「あまりにも無茶をしすぎましたな、雪那殿。ですがおかげで他の目的はまとめて達成できました。感謝します」 「……おう」 返事もどこか上の空だ。ここまで疲れたのは久しぶりのような気がする。宝具のこととかバルムのこととか色々あるけどまあいいや。とりあえず、ゆっくりと休むとしよう― 周りは、真っ暗。闇のみだ。自分がそこに立っている。上も下もない不思議な感覚だが、違和感は特に無い。 (先程の闘い、見せてもらった。お前はどうやら私に相応しい人物のようだ。) 「! 誰だ」 声は何処からもなくしてくる。雪那は警戒して構えをとろうとしたが、刀が無い。 「ありゃ?」 (そう殺気立つな。現在、私の方からお前の心に語りかけている状態だからな。) 「あいつとは違うのか?」 雪那はいつか自分に語りかけた声を思い出す。 (いいや。あれはどうやら元よりお前の中にいるようだ。私とは違う。) 「? うーん」 よく解らずに首を傾げる。 (まあよい。自己紹介をしよう。我が名は聖宝具「ナインブレイカー」) 「へ? 宝具? 喋れるの?」 驚いた。宝具が話せるなんて聞いたことが無い。 (この声は「選定」に使うためのものだ。所持者が決まれば声は無くなる。) なるほど。こうやって所持者が決まるのか。道理で一旦手にした聖宝具が他のヒトでは能力が使えないわけだ。 「なら一応、認めてくれたのかな?」 (ああ。お前ならば問題ないだろう。存分に我が力、振るうがよい。さて、邪魔するぞ。) 「は? 何が?」 次の瞬間、頭痛。 「ぐっ! おい、一体!?」 頭に直接刻まれる。この宝具の扱い方が。 (どうだ? これならばすぐにでも我を扱えよう。) 「おお、こうなってたのか。ちょっと感激」 (……と、言いたいが実はまだでな、すまん。) 「……おい」 なかなかお茶目な宝具だ。「ナインブレイカー」は話を続ける。 (私は名前通りに九つの形を持つ。だがその形を決めるのは所持者自身なのだ。つまり今は型がない。決めるがよい。) 「ん? 九つなら何でもいいのか?」 (ああ。そうは言っても形など大体決まっているだろう。使いたい物を九つ、言ってくれればいい。) 「うーん。よし、決めた」 雪那は少し考えてから即答する。 (え!? も、もういいのか? もうちょっと悩んだりしないの?) 「ナインブレイカー」は驚いた声を上げる。だが雪那は本当に決めてしまっていた。 「だって戦闘で使うものなら大体簡単に決まるだろ」 (前の所持者は三日悩んだぞ……。) 「そいつが優柔不断なだけだ。イメージするから、それに合わせて固定してくれ」 (う、うむ。了解した。) 雪那が頭にイメージを重ねていく。 「これとこれと……ああ、あとはこれだな。あと最後は……こういうこと、できる?」 (ほう……私をそのように扱おうとしたのはお前が初めてだぞ。ああ、できないことはない。だが完全な切り札になるが、いいのか?) 「ああ。今現在、切り札で倒せなかった奴がいる。万が一に越した事はねえよ」 (ふむ、あの男か。まあいい。では選定は完了した。あとは存分に振るってみせよ。) 「おう。じゃあな」 Copyright 2005-2009(C) 場決 & 成立 空 & k5 All rights Reserved. |