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参/水鏡、曇のち晴れ。
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「いくぞ……!」

 ヴェルが自身の体に魔力を注ぎ込む。千鶴も使用していたが隊長クラスほどの実力があれば、身体能力を強制的に増加させる事ができる。もちろん、リスクも高いが。

 ダンッ!

 先程までとは比べ物にならないスピードでヴェルは動いた。

「!」

 さすがにシュトラも予想しきれていないのか、本能で戦うには危険な相手だと判断したようだ。
体からさらに何本もの剣を作り出し、ヴェルへと向かう。シュトラが繰り出す無数の斬撃を全てヴェルはかわし、ヴェルの斬撃もまたシュトラは全て捌く。恐ろしいまでのスピードでの接近戦が続く。

そして。


魂を喰らう地獄の番犬に命ずる

我は審判者(ジャッジメント)にして汝らを用いる者葬(ほふ)るべきは体、

裁くべきは魂

失われし断の力よ、

我が掌中に来たれ―


 準備が整った事を確認したヴェルは残る魔力を全て足に注ぎ込み、全速力でその場を離脱した。いきなり放置されたシュトラは状況を理解できていない。

「!」

 本能の察知。上空を見上げる。すると遥かなる空に、一つの黒い点。一瞬にして舞い上がったチカラは真下に向けて銃を構える。しかしその形は異形そのものだった。
異様なまでに長い砲身と、巨大な本体。そして銃口は一番先で三つに分かれている。審判者(ジャッジメント)は、破壊の言葉を紡いだ。

「第四・断罪」

 ドキュッ!

 放たれたのは白い光。そして着弾した、直後。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 まるで核爆発でも起こったかのような巨大な爆発が起こる。見渡す限りの荒野という風景もあり、その一撃は全てのものを飲み込んでしまいそうな破壊の光に見えた。

「隊長が失聖櫃(ロストアーク)を……!」

 遠くから第二部隊の隊員たちが驚愕の声を上げる。第四部隊の中には始めて見た者もいるらしく、インパクトが強すぎたのかその場に座り込んでしまう隊員もいた。

「あれを使うとは! どう、なった……?」

 不安げな表情を全員が見せるが、爆発はまだ治まらない。その後三十秒程してから、ようやく爆発は治まった。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 大地が、蒸発している。着弾した箇所には半径五キロに及ぶ巨大なクレーターができていた。ヒトが持つべきではない力の結晶体。まさにそう呼ぶに相応しい一撃だった。
上空からチカラが中心点に降り立つ。

「……逃したか」

 撃つ寸前に見えていた。シュトラは体を固定せずに、液体状に形を変えるのを。あのまま地中深く、それも今の一撃では届かない場所まで潜ったに違いない。

「無駄に大地を傷つけたな。すまない」

 この星に、謝罪する。するとそれに答えるように大地が光った。まるで友達を気遣うかのように。

「そうか。ありがとう」

 チカラは滅多に見せない微笑みを見せると、退避していたヴェルの元に向かった。

「ふう。いつ見てもとてつもないな、失聖櫃(ロストアーク)は」

 呼吸が荒いヴェルは既に歩く事ができないほどに疲労していた。全速力で退避するために魔力を全て足につぎ込んだからだ。

限界を超えた動きに体が悲鳴を上げている。極度に身体能力を増幅させると耐え切れない分は自分に帰る。それが増幅魔法(ブースト)の最大のリスクだった

「よう。随分と疲れているようだな」

 チカラがタバコに火をつけながら現れる。そして一旦煙を吹き出した後、ヴェルに告げた。

「撃つ寸前に見えたがシュトラを逃がした。すまんな、仕留めきれんとは」

「いや。この場から撤退させただけでも上出来だろう。少なくともこれ以上、被害は出ない」

 互いに顔を見て笑い合う。命が繋がった分は次に持ち越すとしよう。

「すまんが、肩を貸してくれ。少し、きつい」

「少しではないだろう。ほら」

 チカラに肩を借りてヴェルも歩き出す。後は部隊の連中と合流して帰還するだけだ。

「他はどうなったと思う」

 ヴェルが訊ねる。するとチカラは自信を持った声で答えた。

「問題あるまい。あいつらは俺達が一番よく理解している」

「……そうだな」

 二人の戦士は互いを支えながら、荒野を歩いた。



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