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参/水鏡、曇のち晴れ。
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「……シュトラ、来ていないな」

「ああ。これだけのレイポイントならば来るとは予想していたが」

 シュトラは「規格外者(ノンスタンダー)」の中でもさらに特異な位置にいる。もとは中級の魔物だったが、原因不明のまま「ガイアの穴」を通過。その際に体が液体状になったため、液体の体そのものが結界として存在する事になった。

そしてマナを搾取することを目的に行動しているため、このような場所に現れると踏んでいたのだ。

「意外といえば意外、か。……ん?」

 ヴェルの後ろに、水溜まり。

「どうした? 何かあったのか――」

 ガキイィィンッ!

「な!?」

 後ろの水溜まりから一本の針が延びていた。それがヴェルに刺さる直前で止まっている。防いだのは、銃をクロスさせて受け止めたチカラ。

「っ! 野郎……!」

 すると水溜まりが段々とヒトの形を成す。透明人間の輪郭だけが見えていればこのような状態だろうか。半透明のヒトの形をした液体は、あからさまにこちらを狙っている。

「シュトラ! このような状況で……!」

 タイミングが最悪だ。負傷者もいる現在の状況ではそちらが優先的に狙われる可能性がある。

 バンッ!

 至近距離から銃を放ち、チカラがシュトラを吹き飛ばす。しかし、吹き飛ばされた部分は液体として飛び散っただけで、すぐに再生してしまった。これがシュトラの厄介な特徴である。体が液体であるため、ありとあらゆる物理攻撃が効果を持たない。

さらに再生も大気中の水分を使ってすぐにでき、体を自由に変形できる。奴を葬るには失聖櫃(ロストアーク)しか、方法が無い。

「全員退避。ヴェル、いくぞ」

 すぐさま撤退の指示を出してチカラとヴェルはシュトラに向き会う。だが――

 ヒュッ!

「がはっ!」

「!」

 再び伸ばされた針は隊員の体を貫いた。そして体のマナと血液を吸い尽くす。

 ズブ、ズブブブブ……

 マナと血液を吸い尽くされたヒトはミイラのような状態になる。それを見た他の者達が慌てて一斉に退避し始めた。そして再びシュトラが腕を伸ばす。

  バゴッ!

「……!」

 しかし、吹き飛んだのはその腕。

「誰が追ってもいいと言った」

「お前の相手は私達だぞ」

 銃と剣を構えた二人が立ちはだかる。それを見た(目はないが)シュトラはターゲットを変更した。まずこちらから片付けなければ、獲物どころではない。

 バシュッ!

 腕の形が二本の剣に変わる。接近戦で、勝負。

「いいだろう」

 ヴェルが地を蹴った。真正面から一人と一匹がぶつかる。

 ガキイッ! キンッ!

 両者共に互角といったところか。だが――

「! くっ」

 何も無い体の部分からまた別の剣が伸びる。これは人間の動きとは全く別のもののため、慣れない動きにヴェルはバランスを崩した。するとその後ろから、銃声。

「なめるな。こちらは二人だぞ」

 その剣を、撃ち崩す。ヴェルが接近しているにも関わらず、正確無比な射撃で別の剣を撃ち崩していく。こちらも「規格外者(ノンスタンダー)」故の芸当。

しかしそれを除いてもこの戦場に立つ者達は「普通」から逸脱していた。荒野で繰り広げられる、死闘。

「これならばどうだ」

 チカラが魔力を込めた弾丸を撃ち込む。すると、シュトラの体がみるみるうちに凍っていく。液体の身体を凍らせられればさすがに――

 パリンッ……

 だがシュトラは身体の温度を急激に高めて凍った体を元に戻す。半透明の色が僅かに赤くなる。

「温度調節までできるのか! やはりここは」

 そこまで考えて、ヴェルは目で合図を送る。チカラも納得したようだ。



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