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参/水鏡、曇のち晴れ。
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 敵の群れに突撃した二人はまさに暴風そのものだった。三つの拳銃でありとあらゆる魔物を撃ち殺す男と、美しいながらも力強い斬撃で全ての敵を裂いていく男。周りには何百の魔物が集まり、攻撃を仕掛ける。だがかすりもしない。初級や中級程度の魔物では相手にならなかった。

「邪魔だ」

 チカラの両手に握られた銃が吠える。彼が所持する「ケルベロスシリーズ」はそれぞれ特徴がある。左手の「レフトハンド」から放たれる弾丸は敵を追跡する誘導弾(ホーミングバレット)。上空の敵を逃がさず撃ち落す。右手の「ライトハンド」からは威力の高い破裂弾(バーストバレット)が放たれる。

的確な狙いは魔物の頭ごと吹き飛ばす。そして、三つの中で最も威力の高い「センターヘッド」。その砲身の長さを利用して魔物を殴り飛ばした後、何十体もの魔物を巻き込む破壊弾(ブレイクバレット)を放つ。
相手はなすすべもなくひれ伏していく状況は、一方的すぎた。故に、相手からすれば地獄のような光景からつけられたコードネームは「地獄の拳銃使い(ヘル・ガンナー)」。

「ふっ。ぬるいな」

 ヴェルはまるで散り逝く華のような美しい動きで、敵の間を縫う様に移動していく。だが、通り過ぎた後に残るのは魔物の死体。どれだけ数で攻めようとも、ヴェルは間を縫ってかすりもせずに攻撃をかわす。

そしてすれ違いざまに繰り出される斬撃には全くの無駄がない。的確に急所を切り裂かれた魔物はこれもまた、無駄なく崩れ去る。
相手が早ければその倍の速度で。手数で攻めればそれの全てを見極めた上での最速の動きで。一切の無駄がなく、まるでその場で踊っているのかと思わせるくらいの優雅な動き。たかる者達には、魔力を帯びさせ刃のリーチが伸びた剣で全てを切り裂いていく。

故に、戦場で誰もが見とれる美しい動きからつけられたコードネームは「剣舞の騎士(ソードダンサー)」。

「残り、五十」

 荒野を埋め尽くすほどの数の魔物は既に五十すらいない。部隊最古参戦にして、間違いなく最強の二人。死線をくぐり抜けてきた確実な実績と、怠ることのない修練の賜物は未だにこの二人を最前線で闘い続けさせて最強の名を欲しいままにする。

「四」

 拳銃が吠える。

「三」

 剣が切り裂く。

「二。終わりだ」

 「センターヘッド」が咆哮を上げる。この際の所要時間、実にたったの六分。範囲魔法が得意な千鶴ならばともかく、他の隊長達ではこうはいくまい。恐らく早くても十分近くかそれ以上は掛かる筈だ。
互いの足りないところを補うのは当然のこと、何年も組んできた二人は互いが後ろ向きでもだいたい現在の行動がわかる。そして繰り出される行動は全てが何手も先を読む。まさに敵からすれば、完全なる行動と破壊のそのスタイルは暴風そのもの。

「ヴェル、終わりだ。急ぐぞ」

「ああ」

 まるで二人は通りすがりに違う用事を足したくらいの会話を残し、レイポイントをすぐさまに封印、他の隊員の元へと向かった。

 その頃、隊長を欠いた第二部隊と第四部隊は、魔物の群れに押されていた。実力では問題なく勝るものの、いかせん数が違いすぎる。隊長達のように突出した強さを持つものがいないため、徐々に押されている。
特に問題なのは第四部隊の隊員だ。ほとんどがプライドの高い貴族でしか構成されていないため、第二部隊との連携をとろうとしない。しかも実力をわきまえずに向かっていくため被害が増える一方だ。
第四部隊の副隊長であるエミリー・スカーレットは第二部隊と積極的に連携する陣を組んでいるため問題はないが、他の隊員は孤立した陣形で戦っていた。

「くっ! やはりあの者達を実戦に投入するにはまだ早いか!」

 遠目から状況を確認したヴェルは、すぐさまに孤立した部隊に向かう。

「エミリーはこちらで受け持つ。遠距離から援護してやるからあの坊ちゃん達を生かして返せ」

 チカラも状況を見て、まずは孤立している第四部隊を援護する事にした。そして部隊に合流する。

「隊長!」

 副隊長のエル・ジュディスがチカラを確認して安心する。だが状況はよくない。

「申し訳ありません。まさか第四の連中があそこまで頭が固いとは……」

 頭を下げて謝る。だがチカラは特に攻めることもなく、すぐに次の指示を出した。

「森はエミリーの方だな。よし、第四の連中の援護から始めろ。ヴェルが合流するから大丈夫とは思うが放って置く訳にもいくまい。俺はエミリー達の方に行く」

「了解しました」

 そのころヴェルは合流に成功したものの、負傷者が多いためにその場から身動きが取れないでいた。防御に徹しながら敵を倒すが、このままでは数で押し切られる。

(チカラはまだか……? このままでは……)

 無理をしてでもこの者達は生かして返さなくてはならない。今後の時代に必要な若者をここで終わらせるわけにはいかないのだ。覚悟を決めた、その時。

 ドゴォン!

 強烈な爆音と共に敵が吹き飛ぶ。爆音は止むことがなく、次々と敵を殲滅していった。

「間に合ったか!」

 ヴェルが顔を向けると、その先には「センターヘッド」を容赦なく連発するチカラの姿があった。チカラの銃は魔力によって作られた弾丸を武器とするため、簡単に弾切れは起こさない。
「規格外者(ノンスタンダー)」であるチカラの魔力はほぼ無限の為、遠距離から「センターヘッド」を連発する砲台モードに入ると手がつけられなくなる。

「ヴェル! すぐにエルたちの方向に非難させろ!」

「了解した!」

 魔物が追い討ちをできない事を確認してからヴェルはすぐに部隊を撤退させた。

「エミリーはあちらへ行け。森、残りは一気に蹴散らすぞ。容赦するな」

「ありがとうございます、チカラ隊長」

「了解。さて、反撃開始と行くか……!」

 そう話す第二部隊副隊長の森光臣(もりみつおみ)はスナイパーライフルを扱うエルとは正反対で、肩に担ぐ形のバズーカを得意武器としている。体格が良い為、大型の武器担当は彼の役目だ。チカラと同じように容赦なくまとまった敵の中に撃ちこんでいく。

「ヴェルの部隊が傷を癒す前にカタをつけるぞ」

 その言葉通り、戦況を覆した第二部隊は瞬く間に敵を殲滅する。ヴェルが隊員に癒しの魔法を掛け終わるころには敵は跡形もなくなっていた。レイポイントの封印を終えたチカラがヴェルに状況を確認しに行く。

「どうだ? 死人はでているか?」

「いや、全員生きている。すまないな、また足を引っ張ってしまったか」

 ヴェルはすまなそうな顔をした。隊員が実力、精神面共に未熟なことを承知した上で経験をつませようとしたのだが、やはり結果はいつもと同じ。プライドが邪魔さえしなければいい部隊になると思うのだが。すると第四部隊の隊員が口を挟む。

「ヴェルフォルス様は悪くありません! 第二の者達がこちらに合わせないから……」

 そこまで話した瞬間、チカラは物凄い殺気を込めて隊員たちを睨んだ。するとさすがに第四部隊の面々は黙り込んでしまう。中には恐怖で怯えている者もいる。

「実力の伴わない者が偉そうな口を叩くな……! 自分達が正しいと思えばそれで済むとでも思っているのか! 互いに信頼さえ置けずに先走り、挙句の果てに対応できる相手にも関わらず自分達が足を引っ張った事を自覚しろ!」

 チカラは本気で怒っていた。ヴェルが苦労するのも解る気がする。その姿を見てさらに第四部隊の面々は顔を下げる。彼が本気で怒る事は滅多にない。
任務で組む時もヴェルの変わりにチカラが面倒を見ることがあった為、第四部隊のメンバーは他の隊長よりも信頼していたのだ。その本人がここまで本気で怒るという事は、反省すべき点があるということ。

「チカラ、それくらにしてやってくれ。後は帰ってからでも反省できる。まずは負傷者の治療が優先だ」

「……そうか」


 ヴェルがなだめた為、チカラもそれくらいで治めることにする。状況も落ち着いてきたのでそろそろ帰還しようかとも考えたがまだ残っている事がある。


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