kyo.jpg(3351 byte)
参/水鏡、曇のち晴れ。
1/
line.jpg(1537 byte)


見えていたものは、虚実か、それとも現実か。

浴びるべきは血。喰らうべきは肉。

絶つべきは想い。いつだって戦場はヒトを飲み込む。

絶望、悲鳴、斬、叩、潰、貫、破壊、死。

キタナイママデ、ドコマデモツヅイテユク――



 部屋の入り口と出口から駆けた四つの影は部屋の中央で激突する。雪那は正面から、カーマインとテュッティはそれぞれ右と左から。そしてバルムは――

「ぬうん!」

 攻撃をかわそうとする姿勢も見せず、そのまま漆黒のオーラを纏う大剣を左から薙ぎ払った。一番バルムに近い位置にいた雪那へと斬撃が迫る。雪那はそれを受け止めようとして――

(……!?)

 奇妙な、違和感に襲われる。だが同時に本能が確信を告げた。あれは、触れてはいけない!

「チッ!」

 そのまま地面に倒れる直前まで体を下げ、雪那は斬撃を回避した。しかしバルムはそれでも構わず大剣を振り切ろうとする。その先には、カーマイン。

「避けろっ!」

 いきなり大きな声で制止されたカーマインは驚きの表情を見せるがそれでも何とか回避に成功した。刃を振り切ったバルムにテュッティが神速の突きを放つ。場所は、左腕の、肩。

「せいっ!」

 ガキイッ!

「!」

 確かに直撃したはず……だったが、バルムはその一撃を左腕に着けているガントレットのみで防いで見せた。貫くには、至らない。

「いい突きだ。自分の非力さを理解しているからこそ急所を的確に狙う。それは戦法として間違いではない」

 そう言うバルムは顔にまだ余裕がある。相手の判断力に満足しているようだ。雪那達は一旦離れて距離をとる。バルムはテュッティの槍を見ながら話を続けた。

「その槍はグングニルだろう。成程、その若さにして隊長級の実力を持つのも嘘ではないようだ。だが決めるならば今の一撃で宝具の力を解放するべきだったな。次からはこうはいかんぞ?」

 バルムが大剣を構え直す。肩に大剣を乗せていたさっきとは構えが違う。両手でしっかりと真正面に構えている。先程の一撃はどうやらこちらの実力を測るためのものらしい。こちらも一度仕切り直すためにもう一度構えをとる。すると緊迫した空気にも関わらずカーマインが雪那に質問をしてきた。

「雪那殿、先程はなぜ回避の指示をなされた。あのままいけば――」

 疑問をぶつけるカーマインに雪那は即答する。

「あの刃には触れるな。理由は解らないが触れれば間違いなく裂かれる」

 雪那は小声で、しかし確かな確信を持って言った。カーマインは雪那が非常に勘が優れている事を知っていたため、彼がそう言うならば間違いは無いと理解を示す。

「わかりました。あの刃に触れないように攻めましょう。テュッティ殿」

 合図を送る。

「うん。二人とも、頼むね」

 再び四人が激突する。今度は小回りが利くようにバルムは脇を締めて大剣を振るう。一撃、二撃。かわしたカーマインと雪那は前後に回りこむ。

「ほう!」

 真正面が無理ならば前後からか。バルムはとっさの判断でそのまま正面にいる雪那に突撃した。大きく振りかぶり、雪那を両断するための一撃を放つ。

「シッ!」

 すると雪那も怯むことなく真正面から突っ込んだ。そしてバルムが振り下ろすよりも早く抜刀術を放つ。だが狙うのはバルムの体ではなく、左腕のガントレットだ。

 キンッ!

「む!?」

 ガントレットを壊すわけではなく、弾くための一撃。それによってバルムの体が揺れ、完全に振り下ろすには至らない。これでは後ろから来るカーマインに対して致命的な隙ができる。そう考え、バルムは体勢を立て直そうとしたが――

「……!」

 油断したわけではない。予想していなかったのだ。雪那の脇からテュッティが姿を現す。そこからグングニルの力を解放した光の神槍がバルムに伸びる!

「ぬ、おおおっ!」

 刃ではなく柄に漆黒のオーラを纏わせ、グングニルを柄で力任せに弾き返す。しかし今度はオーラを纏わない刃に雪那が斬撃を加え、完全に弾いた後ろからカーマインが迫る。もらった、と雪那が手を緩めた瞬間。

「ち、なめるなああっ!」

 バルムは普通のヒトでは考えられない状態から体を急速に回転させた。

「っ! このっ!」

 そのまま刃を振り回すバルムはまるで台風だ。近づけば切られる。全員は一旦離れて距離をとった。だが回転が終わる頃にはこちらの次の作戦がスタートしている。


 大気に満ちる全ての水よ――


 再び雪那とカーマインがバルムに向かう。次は二人とも正面から。

 我が眼前において氷となり形を成し――

 バルムも再び突撃する。今のような策は、もう通用しない。今度はカーマインが先陣を切って仕掛けた。顔面を狙ってナイフを投げる。横にかわすと次は雪那。互いに攻撃をかわしながら一進一退の攻防が続く。


 汝、龍と成りて我が敵を喰らい尽くせ!―


 そして術式が完成すると同時に二人はバルムから大きく離れる。バルムが追撃を仕掛けようとした矢先。テュッティが全ての力を解き放った。

「氷の龍(フリーズドラゴン)!」

 テュッティの体の周りから白銀の龍がバルムに伸びる。バルムに向かう龍の数は―五匹!

「これが狙いか! だが負けん!」

 迫る五匹の龍は上下左右から襲い掛かる。剣で切ろうとしてもこれでは一撃はくらってしまだろう。するとバルムは大剣を上に垂直に構えて力を解放した。漆黒の壁がドーム状になって体の周りに展開される。その壁と、白銀の五匹の龍が激突する!

 バキイッッッッ!

「ぬうううううううん!」

 気合、一閃。音を立てて砕け散ったのは、五匹の龍の方だった。


line.jpg(1537 byte)
next/back/top
line.jpg(1537 byte) Copyright 2005-2009(C)
場決 & 成立 空 & k5
All rights Reserved.