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弐. 伍章 『 秀、 劣、 生、 失。 』
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生きたまえ。君は必要とされるだろう。

活きたまえ。君は活躍できる人材だろう。
往きたまえ。終わりはまだまだ先だろう。

行きたまえ。君を利用するものもいるだろう。

逝きたまえ。全てはそこに行き着くだろう。

イキタマエ。何もかもを全て壊して。

ツキタマエ。全てを終局へと導く、この理想郷に。



 フランス方面に向かった雪那達は今のところ何事もなく順調に進んでいた。山道を歩く隊形は、前に副隊長、後ろに隊員、中に隊長達という形だ。こちらに着いてから特に問題がなく進んでいたため、雪那は一つ結論を出す。

「遺跡の中だな、何があるにしても」

「ええ、そうですね。バルムがこちらに気付いているかは解りませんが、遺跡の中での闘いになるのは間違いないでしょう」

 この意見にカーマインも同意を示す。彼もそうだが、先ほどから周りの気配を探るために雪那は周囲に気を張り巡らせていた。広い範囲でないとはいえ、少なくともヒトの気配は感じられない。

「遺跡の中では道が分かれている場所からが勝負だね」

 テュッティがそんな事を話す。その言葉通りで、カーマインの話によると遺跡内部には宝具がある部屋への道と、何かの儀式に使われていたであろうと思われる部屋への道があったらしい。そこまで来てしまえばあとは簡単だ。バルムがどこまで来ているかは不明だが何とかなる。そんな会話のあと一時間ほど歩くと、とたんに開けた場所に出た。

「うわあ……。これはすごいね」

「ああ。予想以上だな。ここまででかい遺跡だとは思っていなかった。まだ手付かずの遺跡でこんな巨大なものがあるとは……」

 雪那とテュッティが驚愕の声を上げる。遺跡の大きさは自分達が暮らしている宿舎三つ分くらいの大きさだ。中もかなり広そうである。

「中に入りましょう。中は比較的広い部屋が多いので、戦闘行動に支障はないはずです」

 カーマインが促す。雪那達は頷き、遺跡の中に足を踏み入れていった。



 同時刻。こちらはロイと千鶴の部隊。現在は二部隊ともまとまって行動している。

「いいですか、ロイ。宿舎を壊すという事は住んでお世話になっている家に対して失礼な行動ですよ。あなただっていい事をして相手に殴られたら気分はよくならないでしょう? 聞いてます?」

「……はい。スミマセンデシタ……」

 あの後、めり込んだ地面からなんとか自力で這い出たロイを待っていたのは笑顔で仁王立ちしている千鶴の姿だった。もうどうしようもないくらい顔を真っ青にしたロイは地面に頭をこすり付けて土下座したが千鶴はそれを許さず、移動中もロイにずっと説教し続けている。

「もう。あなたは宿舎の破壊率が一番大きいのですよ。もう少し自重して下さい」

「いやもうまじで。ごめんなさい」

「……まあいいでしょう。今は任務中ですからこれぐらいにしてあげます。怪我はたいした事ありませんね?」

 自分でやっておいてこの台詞はどうかと思うが。しかしこんな事を口にすればただでは済むまい。

「はーい。第七のかわいい子に治療してもらったからもうビンビンでーす」

「……あら、怪我、増やしたいの?」

 千鶴の表情が引きつる。まずい。これでは千鶴姉が鬼と言っている様なものだ。ロイはすぐに両手を横に振って否定のサインを出した。

「い、いやあ。千鶴姉が手加減してくれたおかげです。あ、はは、千鶴姉は優しいなあ」

 ほんと。駄目な男である。

「ふう。まあそろそろポイントも近いですから、気を引き締めてくださいね」

 千鶴もいつもの調子のロイを見て諦める。現在こちらは森林の中を進んでいた。ロシアの雪は積もる量が半端ではないため、下手をすれば簡単に足元をすくわれてしまう。そのため第一部隊の何人かが周囲に炎の魔法の応用術で雪を溶かしながら進んでいた。魔法で起こす火は周りの温度には左右されないため、一瞬で雪が解けている。

「距離は?」

 ロイが隊員に尋ねる。

「目標ポイントまでは後、3,000。予定ではあと一時間かかりません」

 その報告を聞いてロイは顔を引き締める。自分が仕掛けるとすればそろそろだ。こちらに気付いていれば距離2,000ぐらいで確実にくるだろう。千鶴にも目で合図する。すると千鶴が部隊の移動速度を少々速めた。仕掛けられるにしてもポイントに近いほうが対応しやすい。一瞬、風が強くなった気がした。


 さらに同時刻。こちらはチカラとヴェルの部隊。オーストラリア方面のレイポイントは荒野にあるのだが、そちらは隊員たちに任せて二人は街に来ていた。シュトラ関連の殺人事件がおきたのはこの街だからである。まだ奴がこの街にいれば被害は増える一方になるだろう。

「……情報が少なすぎるな。これでは場所が絞れん」

 そうチカラが毒づく。なにせ被害者に関連性がなく、場所までバラバラで次に何か起こりそうな場所が絞れない。

「そうだな。やはりこちらは後回しにしてレイポイントを優先するか?」

 ヴェルがチカラにそう意見する。確かに、これでは無駄足になる可能性が高い。レイポイントの封印が間に合わなければ距離が近いこの街に被害が出ないとも言い切れない。間に合うのであればそちらを優先したほうがよさそうだ。

「む、そうだな。これで終わるとは思えんがとりあえずはそちらを優先しよう」

「了解した」

 結局レイポイントを優先する事にする。まあどのみち、街中で失聖櫃(ロストアーク)を使う訳にもいかないのだが。他の隊員に合流するために少々足を速めて移動する。その途中でヴェルが話し掛けてきた。

「今回の件、やはり、か?」

「ああ。さっきも話したが上層部の連中の差し金だな、今回は。これにはまだ従うしかあるまい」

「他の隊員を犠牲にするわけにもいかんしな。恐らく使えるかどうかの再確認、というところか」

「ふん。後ろでふんぞり返るだけのクズ共が偉そうに。今の部隊は俺の家族のようなものだ。なにがあっても好きにはさせん」

 チカラは顔をしかめる。彼にとっては今すぐ上層部の連中を叩き出したいところだが他のメンバーの命が掛かる以上そうはいかない。近いうちに動きがあれば即刻、容赦しないで奴らは潰させてもらう、とチカラは呟いた。

「焦るなよ。その時は私も一緒だ。友一人だけに全てを背負わせることはしない」

 ヴェルもチカラの気を察してかそう話す。最古参戦の二人にとっては何が何でもこの問題は最優先で背負うべきだった。
後から入団して来た兄弟達を巻き込むのは覚悟している。だが、最初にこの事態を避ける行動をとるべきだったのはやはり自分達だったから。

「ああ、そうだったな。その時は頼むぞ、ヴェル」

 付き合いの長い戦友に同意、感謝しながら二人は地を駆けて走った。



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