7/8 早朝、四時。まだ朝日が完全には昇りきってはいない時間。 「おおーい。朝だぞーっ。起っきろーっ」 最悪のモーニングコールで目を覚ます。ベッドの上から下を覗くとロイが何やら踊りを踊っている。なんかジャマイカ辺りで儀式に使われていそうな踊りだ。よく見てみると、体の外見と踊りを踊っている状況からするに、昨日の傷は完治したようだ。だがこちらは不機嫌なのに変わりはない。 「起っきろ。起っきろ。起っきろ。起っきろ。起っきろー」 寝ぼけている頭をフル回転させて奴を黙らせるための術式を編む。属性は、大地。 「起っきろー。儀式が止まんねえぞー」 「死ね」 「は?」 術式を解放する。するとロイの周りだけ重力が倍以上にかかり、とてつもないGに襲われる。 「ふぎゃっ!」 いきなり強力な重力で押し潰されたロイは踏み潰された猫のような声を上げた。しかしそれだけでは終わらない。 メキッ。バリッ。このままでは床が――バキイッ! 「おわあああああああああああああああああっ!?」 グッバイ、ロイ。そして静かになった後、雪那はもぞもぞとベッドから這い出てきた。ロイは恐らく今ごろ下の部屋すら突き抜けて地面にめり込んでいるだろう。部屋を壊した原因は全てあいつのせいにしておけばいい。穴から下の階の部屋を覗き込む。そこには驚いた表情の隊員が二人。 「すまない。あの馬鹿が変な儀式を行うのでな、制裁させてもらった」 一応、形だけは謝る。上から覗き込んだ姿にはなっているが。すると二人はすぐに気を取り直して話し始める。 「あ、いえ。やっぱりロイ隊長だったんですね。朝からずいぶんとうるさい足音が上から聞こえてくるので何事かと。今度は儀式ですか?」 この二人も随分と慣れたものである。まあいつもの漫才の様な物と取ってもらえればこちらは気が楽だ。 「実は昨日疲れて早めに寝たからあいつにモーニングコールを頼んでな。それで起きてみれば意味の分からん儀式だ。すまん、人選ミスだった」 「いいえ。じゃあこの穴の修理代と千鶴隊長の説教は全部ロイ隊長に、ということで。たまにはこういうことがあるといい刺激になりますから、構いませんよ」 なんとも気のいい二人である。うちの部隊に欲しいくらいだ。 「ああ。まあ、早起きしてコンディション整えるのも悪くないということで」 「はい」 そんな会話も終わり雪那は大きく背伸びをする。 「んんっ、ふう。まあ時間的には妥当か。少し時間を掛けて準備をすれば問題無いな」 さて。まずはシャワーを浴びに行くとしよう。そうして階段を降りてシャワー室へ向かう。その途中にロイが下半身全てを地面に突き刺した状態で存在していた。普通こんな事態になってあそこまで強力な重力をかければ怪我ではすまないのだが、ロイはぴんぴんしている。地面に刺さる前にしっかりと障壁を張っていたのだ。腐ってもここは隊長の実力を見せつけてくれる。 「雪那あ。これはさすがにやりすぎだろ。ちょっと出れないぞ」 「しばらくそうしていろ。あんな起こし方されれば誰でも不機嫌になる。大体何の儀式だ」 「え? あれは中国の山奥の民族が雨乞いに使う儀式だけど」 「本気で殺そうか」 かざした手に魔力を込める。今の状態で同じ魔法を喰らえば間違いなく全身が地面にめり込むだろう。するとロイは突き出ている上半身を九十度に折り 「ごめんなさい」 と謝った。自分の状況が悪いと判断するやいなやすぐこれだ。将来は絶対嫁に尻に敷かれるタイプだろう。 「ふう。まあこれくらいで勘弁してやるけど、下の部屋の二人には謝っておけ。それくらいはするべきだろう」 「おう、それくらいはな。って魔法使ったのはお前だぞ?」 「俺はもう謝った。あと、穴の修理代と千鶴姉の説教は全てお前持ちだ。よかったな」 その台詞を聞いたロイの顔が一気に真っ青になる。 「お、おい! いくらなんでも説教まで一人はないだろう! 魔法使ったのはおまえだし!」 相当焦っている。今日の部隊編成でも一緒なのだからそれもそうであるが。 「すまんが下の部屋の二人もそれに同意した。もう逃げられんぞ」 「そんなあ……ひどいよ、せつなあん」 今度こそ。完全に奴を地面にめり込ませるための術式を解放した。 少し冷ためのシャワーを浴びて目を覚まさせる。体調、確認。長めに睡眠をとったから体は問題ない。耳も、目も特に問題なし。気分、最悪。 「野郎……」 人選ミスとは分かっていてもやはり少々腹が立つ。シャワーを止めてあがる。次は、そうだな、戦闘用に気持ちを切り替えるとしよう。着替えて外へ。 Copyright 2005-2009(C) 場決 & 成立 空 & k5 All rights Reserved. |