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弐/蜩、鳴きながら。 
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初めに覚えた色は真っ赤、真っ紅(か)、真っ朱(か)、マッカ。赤紅朱紅朱赤赤紅朱紅朱赤赤紅朱紅朱赤赤紅朱紅朱赤。それが、全て。世界がマッカで染まっていた。
そして歩いてきた後には無数の死体。息をせず、ただ朽ち果てるだけの、マッカな血を流した。ああ、そうか。同じなんだ。
ヒトが当然のように花を殺して摘むのと同じように。俺は、自分のためなら簡単に全てを殺せる。相手がヒトであろうと。
そういう、生き物、なんだ――


「雪那殿。その意見は本気でおっしゃっていられるのか」

「ああ。悪いが俺は他のみんなを捨て駒にできん。例え本人が覚悟を決めても、な」

「確かに確率としては一番高いけど……。これを他のみんなに話したら不服そうな顔をされるのが目に浮かぶわね」

 雪那は現在、任務で同行することになるカーマインとテュッティと打ち合わせ中である。作戦の段取りを話している途中で、雪那がバルム・タルシスと遭遇した時の対処法について意見を出したことからこのような会話になっている。隊長・副隊長全員が集まったミーティング中に宝具を優先しろと言われたにも関わらず雪那は自分達が残ったほうがいいと言うのだ。

「そこは我々だけでは抑えきれないと?」

「いや。信用してないわけじゃないが間違いなくやられる奴が出てくる。特に遺跡内部になれば全員残る方法は使えないからな。もし相手がすでに宝具を確保していれば逃げるし、そうでなければ他の奴らにレイポイントの封印を優先してもらって、その間俺達が抑える形の方が理想的だろう。宝具も結界で守られでもしない限りは所持者にならなくても、持って帰るくらいできるだろうし」

 この意見にテュッティは少し考えた後、

「一理あるね。被害者を少なくするには宝具を持ってる私は残るべきだし。カーマインと雪那の二人となら連携もしやすいから」

 と同意を示してきた。どうせなら確実性の高い方を選ぶのは当然だからだ。だがカーマインはどうも納得ができない顔をしている。

「しかし雪那殿」

 渋るカーマインに雪那は思い切って訊ねる。

「あのさ、カーマイン。あんた遺跡にある宝具がどんなものか知っているだろ」

「! それは……」

 不意をつかれてカーマインは黙り込んでしまう。しまった、とカーマインは思ったがもう遅い。

「ついでに言えばバルムも確実にそこに現れるな。しかも宝具の所持者に俺が適任なのではなく何か別に理由があるんだろう? できれば話してくれないかな。これじゃあ信頼置きたくても置けなくなっちまう」

 雪那は自分の考えをはっきりと話した。このままでいけば間違いなくバルムにやられる。手遅れになる前に全ての情報を整理して対処法を考えなければ宝具どころではない。

「――分かりました。隠していてすみません。まずは謝罪を」

 そう言ってカーマインは頭を下げる。

「あ、いや、頭まで下げなくてもいいよ。うん、大丈夫だから顔上げてくれ」

「ありがとうございます。では――」

 改めて、とカーマインは話を始める。

「実は遺跡に存在する聖宝具は旧約聖書に書かれていた武器である可能性が非常に高いのです」

 その言葉に二人は一瞬、息をする事を忘れてしまった。旧約……聖書!?

「な……本当か?」

「うそ……信じられない」

 二人が驚くのも無理はない。旧約聖書は世界の歴史と「魔」の存在、それに魔法とはどういうものかを記してある紀元前に書かれた貴重な書物で、現在は国連が保存している。さらに、古代の魔法の粋を集めて作られた宝具の数々を記しており、一部の場所までは書かれていないものの記された宝具は伝説として残る物よりさらに強力と言われている代物ばかりなのだ。
現在までに旧約聖書に記された宝具で所持者が確認済みのものはいずれも「規格外者(ノンスタンダー)」が所持者であり、現存するヒトはまだ一人も所持してはいない。

「古代ルーン文字で記されている聖宝具の存在する場所を発見して、らしき物を確認したのはいいのですが私では無理でして。一撃に使う魔力が強大すぎて私の魔力がもたないのです。ですから正式に持ち帰る前に魔眼を持つ雪那殿を連れてこようと思ったのですが」

「バルムに気付かれた?」

「はい。我々の存在ではなく聖宝具の方が。まだ探している最中でしたから大丈夫とは思いますが。そこで我等に目が行かないようにわざと宝具を遺跡に残しました。最悪、時間稼ぎが効きますので」

 これで大体の事情は理解できたがまだ一つ理解できない事が雪那にはある。

「上層部を無視した理由は? これは報告してもいいだろう?」

「そうね。わざわざ隠すのは何か理由があるのでしょうけど」

 するとカーマインは小さい声で

「……雪那殿は最近上層部がおかしいことに気付いてますか?」

 と訊ねてきた。


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