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壱/空、何よりも高く。 
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歯車が回る。

カタカタ、カタカタと。

誰の歯車かは解らない。
あなたか、それとも私か。
はたまた誰でもない第三者か。
誰も知らなくても歯車は確かに回り続ける。

カタカタ、カタカタと。




 世界はいつもと同じように朝を迎えた。ヒトにも、植物にも、全ての存在に共通して朝は訪れる。良き朝だと感じる事ができないのは自分が病んでいるからか、抱えごとで他の事が頭に入らない時なのだ。

「……と、すごく朝から詩人な俺なのだが聞いてくれる相棒はすでに飯へ。さみしいねぇ……」

 そう呟いて雪那(せつな)も朝食を食べるために食堂へと向かう。ここの宿舎では各自で決められている時間帯のうちの好きな時間に食事を食べにいくようになっている。
他の宿舎によっては全員同じ時間に一斉に、という場所もあるため、比較的自由に時間が選べるということもあり住んでいる隊員たちから評判はいい。食堂に着くといつもと同じように、

「食パン。あとコーヒーミルク入りで」

「あいよ。あんま文句は言わないけどさ、もうちょっと腹に入れたら?」

「いんや、これくらいがちょうどいいのよ。あまり入れっと動きづらい」

「そうかい。ま、無理しないようにね」

「おう、サンキュ」

というやりとり。このやりとりにも慣れたものだ。食事する前に友の姿を探したが見当たらない。まあこんな日もあるのだろう。適当に座って食事を始めようとすると一人の少女が声を掛けてきた。

「雪那隊長、相席よろしいですか?」

「ん? ああ、フェイミンか。別に構わないよ」

「では」

 そういって隣に座ったのは雪那が隊長を務める第六部隊副隊長のフェイミン・フー。中国の出身で、長い黒髪がよく似合う物腰が柔らかい女の子だ。

「本日は隊長・副隊長全員が召集の日ですね」

「ああ。チカラとカーマインが帰ってきたからな。ま、最近こちらでは派手な出撃がなかったからそろそろ何かあるとは思っていたが」

「そうですね。魔物が大きく動いた情報もありませんでしたから。となると戦争関連でしょうか?」

「ありえなくもないな。まあ行けば分かるだろ」

 そんなことを話しながら朝食を済ます。

「……あの、隊長」

 フェイミンが少し困った顔をして聞いてくる。

「なんでこれしか食べないで十分なのですか。私が言うのもなんですけど育ち盛りなのですからお腹がすきません?」

「うーん。そうでもないんだよなあ……。これ以上食べると午前中は眠くなって動けなくなるし。これくらいがちょうどいい体になってるんだろ」

「女性からすれば羨ましすぎます……」

「ん? なんか言ったか?」

「い、いいえ! なんでもありませんよ、はい!」

「そうか? ならいいけど……。集合時間に遅れるなよ」

「あっ、はい」

 そうして雪那は席を立った。部屋に戻る途中、窓から見た空は目を細めたくなるほどの快晴だった。


 部屋に戻り、着替えて準備をする。羽織るコートは隊長の証である紋章のついたコート。腰には師匠から貰った愛刀「霧消(むしょう)」。その瞬間から彼は十四歳の少年ではなく第六部隊の隊長へと姿を変える。準備が整った彼は集合場所へと向かった。


 月代雪那(つきしろせつな)。たった十四歳の少年でありながら国連特務機関「魔術騎士団(マテリアルナイツ)」第六部隊隊長を務める。コードネームは「紅い死神(クリムゾン・デス)」。若さとは裏腹に完成された剣技と魔法、そして隊員からの絶対的な信頼を得ている機関の中枢を担う一人である。

 彼が所属する「魔術騎士団(マテリアルナイツ)」とは国連が秘密裏に運営する部隊で、上層部の人間しかその存在を知らない部隊。主な任務は世界中にはびこる魔物の掃討。場合によっては要人の護衛・暗殺、国連が直接介入できない戦争への参加、国際指名手配犯の殺害など、表立って国連が公表する事のできない「暗部」を担っている。

普通の狩人(ハンター)では相手が困難な上級・ヒト型の魔物をまともに相手にでき、さらには「規格外者(ノンスタンダー)」と真っ向から戦う事のできる唯一の存在。故に存在を知る者達からは「人類の切り札」とも呼ばれている。

雪那は十三歳で入団、たった一年で隊長の座まで上り詰めた。彼の部隊の他にも部隊は第七部隊まであり、それぞれが世界中で活躍している。


「お。早いな、昨日帰ってきたばかりだから寝坊してるかと思ったが」


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