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きゅう/アナザーサイド
〜さよならの家族・お帰りの家族〜
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 完全に寮から離れる。もうこの先の道を抜ければ、あとは進んでいけば街につく。そこから手元の資金と相談してどこかに飛べばいい。最初は芸術の都にでも足を運んでみようか。そういうのも悪くない。

「――。最後はあんたか」

 考えて歩く途中。直線に続く道の最後の最後で、その男は待ち構えていた。サングラス。煙草。背中に背負った、三匹の地獄の番犬。

 足を止めて対峙する。空気は張り詰めていた。流れる風でさえその場所を通過するのは遠慮するほどの、張り詰めた空気。

「――」

「――」

 数分が経過。互いに微動だにしない。
 と。

「!」

 男が投げつけてきたものをキャッチする。掌で受け取ったものを凝視した。

銃だ。

拳銃。

だがこのデザインは目にしたことが無い。片手に馴染むようなハンドガンであり、銃身は透き通るように白く、半透明だった。見ていると心が落ち着くような芸術品だ。

「餞別だ」

 男が口を開いた。視線を銃から男に戻すと、奴は笑っていた。珍しいこともあるものだ。

口元を曲げてまでこの男が笑う場面を、自分は部隊に入隊してから現在まで一度も目にしたことが無い。餞別なのは銃か、それともその笑顔か。

「俺の現在の知識の全てを注ぎ込んで作り上げた、お前専用の魔導銃だ。魔力を変換して無尽蔵に弾丸を打ち出すことが出来る。専用の弾丸も作ればそれで放てる」

「どういう風の吹き回しだ」

「餞別だ、と言っただろう」

 答えはそれ以上に存在しない、と男は笑う。

「グラスバレル・ver・β。前回作成に失敗した魔導銃の完成品だ。魔力が尽きないという点では俺もお前も同じだからな、向いてるだろう。ついでに暇だったから色々と特典を追加しておいたぞ」

「は?」

「銃身の中に詠唱式を登録しておいた。望む分だけ魔力を注げば、無詠唱でも禁呪を銃口から発射できる」

「――何の冗談だ、それ」

 こちらの言葉は無視して男は話を続けた。
「ああ、それと暇だから『あの』失われた魔法(ロストミスティック)も登録しておいた。暇なら使え」

 何も言えなくなる。

 こいつもしかしたら、今まで知らなかっただけでとんでもない化け物なんじゃないだろうか。

「……他の連中はともかく、俺は今生の別れにならない可能性が高いからな。別れの言葉は無しにしておこうか」

「……失聖櫃(ロストアーク)所持者である以上はそうなるな。次に会ったら敵同士かも知れないけど」

「ああ。俺達は各々の存在意義を賭けてあれを所持している。無条件で扱えるほど甘くは無いからな、敵同士になるかもしれん」

「できれば避けたいなあ。まだ切り札隠してるだろ? 別の、さ」

 その質問にも男は笑ってしか答えない。

 どうせこれ以上は無駄かと判断して、奴の真横を通り過ぎる。奴も二度と話しかけてくることは無く、寮に向って帰り始めた。


 こうして、俺の人生は三度目の転機を迎える。新しく歩く前の、ちょっとした時間の長い長い物語。


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