〜さよならの家族・お帰りの家族〜 1/7 一日が終わりに差し掛かる。いつものように日中を過ごし、いつものように翌日を迎える。そして目の前のこれも間違いなくいつもの光景の一つだった。 目の前には一人の少女が佇んでいる。綺麗な銀の髪の毛は風になびき、揺れている。着ている服は紺色で、黒いスカートが闇に溶け込みそうだ。月明かりに照らされ、非常に美しい一枚の絵のような光景である。 足元に、ヒトの死体が転がっていても。 虚ろな目は青く光り輝いている。発動した力は制御されることなく解放され、結果として今日もいつもと同じように肉の塊を一つ増やした。視線は宙を彷徨い、目の前にいる自分には気付いていない。それも、いつもと同じ。 闇の中に佇む少女は服を返り血で汚していた。彼女にとっては必要な作業であったために躊躇いはないものの、身の回りまでは気を使えないようである。人形のような均整の取れた顔に美しい白い肌、その肌が赤く染まっている。 少女が、こちらと目を合わせた。 時計の針が全て一本に重なる。日付が変更され、あと五時間もすればこの静寂の街は活気を取り戻して行き、息を吹き返すだろう。 現在、沈んだままのこの街はまるで少女が作り出したようにも見える。 「――アナタモ、テキ?」 生きている心地がしない声。機械的、というレベルではない。死んだ者が口を開けばこう聞こえるのだろうか。感情の抑制が全く存在しない声は相手に違和感と恐怖心しか植え付けない。 ――自分を除いては。 「そう、敵だよ。お前が殺そうとしても絶対に殺せない、最悪で最高の獲物だ」 ポケットに手を突っ込んだまま、静かに答える。自分の表情は冷静だった。目を動かさず、鼻で息をして、口を閉ざす。 怖くは無い。自分が目の前の少女に対して敵対心を持つことも、恐怖心を持つことも、殺意を抱くことも全てありえない。 ここに自分がいるのは少女と戯れるためだ。そしてその行動によって少女の餌の数は減る。あとは、時間制限目一杯まで戯れの相手をすればいい。 少女の唇が歪む。幼い顔は妖艶な魔女のようにその表情を変化させる。随分と欲情させられる顔だ。魅了効果のある魔力が放たれていればそれも当然だが。しかし、自分には表面上しか効果は無い。 「――アナタハ、スグニコワレナイ?」 楽しそうだ。まるで極上のオモチャを見つけたような目をしている。あまりにも嬉しそうな表情をするので、『俺も』笑ってこう答えた。 「ああ。どれだけ無理しても壊れねえよ」 体の中を血が駆け巡る。集束された魔力が体内中を駆け巡り、外面の膜が剥がれ落ちて本来の姿が露になっていく。 両の瞳は血よりも濃く紅に染まり。 黒い髪は血を頭から被った様に毒々しく染まっていった。 そして背中からは、ヒトにはあるまじき紅の翼が姿を表す。 「――キレイ」 少女は素直にそう呟いた。天に向けて背伸びをする翼は美しく、夜に生えた焔の柱のごとく光り輝く。 何処まで見ても赤、紅、アカ。着ている服すら赤く染まった『テキ』は、明確な戦闘の意思の証として本来の姿を現した。 それに答えるため、少女も制御の必要が無い力を外界に向けて解放する。足元の地面がバキリ、と音を立てて沈み、体中から青い波動が滲み出る。 (参ったな。今日は食事の後か) 食事終了後の少女は強い。純粋に出力、力押しにおいて自分と下手をすれば同等にまで及ぶ。回りへの被害を考慮しながら戯れれば、余計な傷が出来るかもしれない。 長期戦においてそれはあまり好ましくない。 が、少女は別の手口を考えさせてくれる時間を与えてはくれなかった。瞬時に懐に潜り込むように移動してくる。すでに彼女の腕は放たれている。 「――」 余裕を持った動作で後方に回避。少女は追撃を始めた。 Copyright 2005-2009(C) 場決 & 成立 空 & k5 All rights Reserved. |