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はち/宮崎家の休日の場合
〜ご奉仕評価争奪戦・第2ラウンド開始〜
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翌日。朝6時。 
スズメの鳴き声がまだ聞こえる時間帯。朝日が昇り、冬とは違いすでに外は明るい。宮崎家の住人は全員が居間に集合していた。

全員寝巻き姿。雪那の目には少々眩しい光景だ。破壊されたものとは別の小さなテーブルが雪那の目の前に用意されており、雪那は正座で残る全員と向かい合っている。

「善は急げ、ということで」 

綾乃は眠そうな目をしながらも、雪那の前に置かれたテーブルに紙を一枚、差し出した。

「?」

「読め」 

言われたとおりに雪那は目を通す。声に出して読んでみた。

「このたび、私、月代雪那は宮崎家に同居する親愛なる家族に誤解を招いた挙句、全員を悲しませるような行動をしたことを謝罪すると共に、これ以上如何わしい場所への進入を禁止し、健全な学生生活を営むことを誓います。尚、この契約を破った場合は、二度と復帰できない……程の……調教を……受けて、一生、奴隷として、生きること、を誓い、ます……?」 

途中まではちゃんと謝罪させるための文章だと理解できるが、最後はどう考えてもおかしい。おそらくこれを作ったのは綾乃なのだろうが、これは冗談でもなんでもなく本気だろう。

朝からとんでもないことで目が覚めてしまう。読み終わってからゆっくりと顔を上げると、また寝てしまったアティを覗いて全員がこちらの表情を伺っていた。昨夜ほどの視線ではないにしろ、

「どうなんだ」

という視線は痛いほど伝わった。

「えっと……」

「いいな?」

「お、応」

「よし」 

コト。 

小さな音を立てて、テーブルの上に果物ナイフが置かれる。

(うん?)

「血判書だ。それで親指切って血で名前書けや」

「――オーウ」 

ばればれなリアクションで両手を挙げて見せるが、どうにも受け入れてくれる雰囲気ではない。雪華も申し訳なさそうな視線でこちらを見ており、どうやらこれ以上は事態を緩和できないようだ。
しばらくアメリカ人のコメディリアクションのポーズで固まっていた雪那だが、やがて覚悟を決めてナイフを手にする。

「ッ!」 

僅かに走る痛みに耐えながら、親指から流れる血で名前を書く。

月代雪那

と。赤く書かれた字は痛々しく、これで血判書は完成した。

「いいな」

「あー、それなんだが」

「そこだけは進入するのを許してやる。但し、営業中は却下」

「――、助かる」 

その一言で一旦全ては決する。綾乃から了承が出たところで解散、となるはずなのだが。

「……眠い」

「そう、ですね」

「んー……」

「ふああああああ」 

パタパタパタパタパタ。 

テーブルとソファーが破壊されているため、邪魔なものが無い居間は現在非常に広い。
そのままなし崩しに全員が倒れ、その場で寝てしまった。

1名を覗いては。

「……」

「……御免な」 

謝る雪那を横目に。瀬里奈は隣までやって来て、雪那の腕をつかむ。そしてそのまま押し倒した。

「へ?」

「このまま……」 

瀬里奈は雪那の右腕に両腕を絡ませたまま、すやすやと寝息を立てて寝てしまう。当然、雪那はどうすることもできないわけで。

(俺も寝るか……) 

この日、二度目の睡眠につくことにした。  居間で大量の死体のごとく寝転がっていた住人達は徐々に目を覚まし、昼前には全員が目を覚ます。とりあえずは割り切ったのだろう、雪那への追求は無くなった。

「今日はどうするんだ」

「特に予定はありませんが」

「そうね。家でごろごろしてるかなあ」

「なし。綾乃さんは?」

「ああ、私も無しだ。ふむ……」 

昼食として炒飯をつついていた綾乃がしばし考え込む。と。

「なあ、お前等、金をやるから居間のテーブルとソファー、買ってきてくれないか? まあ車は無いからそこは配達で頼むとして」

「はあ」

「いいですけど」

「うん、いいよ」 

こうして、出撃人数は3人。瀬里奈、京子、椿はショッピングに出かけることになる。残るは月代兄妹と家主、それとアティ。

「じゃあ頼む。おい雪那、お前は私の手伝いだ」

「う、了解」 

渋々ながら了解した雪那は2階へと。残るは――

「アティちゃん、遊びましょうか」

「うん! ユカー、ショウギやろー? この間リズに教えてもらったんだー」

「はい。ではあとで持ってきますね」

終始和やかなムードで会話が進んだ。昨日のことがまるで嘘のようだ。しかしこういうのを昔のヒトはうまく表現した。 


――嵐の前の静けさ、と。

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