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はち/宮崎家の休日の場合
〜ご奉仕評価争奪戦・第2ラウンド開始〜
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「ランジェリーパブに進入したのを雪華が確認したのは午後3時前。その時間ではまだ営業していないのではないかと思われる。そこで、だ。営業中に入ったことが あ る の か ?」 

 最後の言葉をわざわざ力を込めて一区切りづつ区切って問いかける。返答次第ではどうなるか分かったものではない。まずは正直に答えることにした。

「ある」

『!!!!!』 

その返答に全員が眼を見開いてこちらを凝視した。雪那本人の口からこの言葉を聞きたくないと思っていたのが本音だろう。また何人かが憤怒して殴りかかろうとするが、それを綾乃が冷静に押し止める。

「よ、ようし、正直に答えたな」 

珍しく綾乃も動揺しており、言葉がうまく出ない。そのまま質問を続ける。

「次だ。そこの店員と関係は」

「ない」

「本当か? サービス受けた挙句、その、アフターまでとか、受けてたらぶち殺すぞ?」

「ねえよ……」 

店員は全員年上のいい姉のようなものなので、関係をもつこともありえない。そもそも、あそこに行くのはあかりの事情を知ったからであり、そういう経験をした雪那には信頼できる相手が誰かいたほうがいいとわかっているのだ。そこには恋愛感情はなく、ただ、『同じ』だからと感じれるからこそしている行動。その結果があの場所に行くことに過ぎない。

「一応信じるぞ」

「一応なのか」

「当たり前だ」

「次は私です」 

京子が一足踏み出て質問を開始する。眼を見る限りでは信用されていないだろう。

「そこに入る時に抵抗感はありましたか?」 

最初の頃を思い出す。

「特に何も? だって、目的あるだけで楽しむために行ったわけじゃないし」

「目的? 何です、それは」 

身の安全を確保するためならここはあかりの事情について話すべきだろう。しかし――

(――。あいつ、知られたがらないからな。どうするかな) 

校内でも問題児扱いされ、クラスメイトからも一定の距離をあかりが置かれている理由はこれだ。雪那とパブ以外の人物には事情を知られたくないと思っている。だからどこでも彼女は孤立している。ここで話せば自身は保障されるが。

「――言えねえ」

「――はい?」 

雰囲気が、ガラリと変化する。

「言えねえ。言い訳でもなんでもない。これだけは、言えねえ」 

そう言葉を吐いた雪那の眼が、本気だった。追い詰められたから開き直ったわけではなく、それに関してはどうあっても口を割らないと。そう伝えるための、本気の意思表示。が、だが。だが。

「――ほう。そうまでして」

「行く理由は」

「明かせないんだ。男の意地だね」 

完全に勘違いされた。男として言えない意地が、どういう意味で取られたか雪那には痛いほどわかった。

――どうせお目当ての女がいるんだろ――

(御免。今まで散々な扱いしたこと謝るから助けて、ロイ) 

心の声虚しく。届かぬ思いは何処へと流れる。 

綾乃が鉈(なた)を持ち出し。 

京子が薙刀を取り出し。 

椿は『月光牙(げっこうが)』を鞘から抜く。

周りの空気が昂ぶっていることから察するに、無意識のうちに魔眼を発動しそうだ。 

そして瀬里奈は、両手に、光る拳。(うそおん) 聖宝具『ゴッドハンド』。再開した時に既に瀬里奈が所持者となっていた聖宝具だ。旧約聖書にも記されている古い宝具で、あれで貫かれたらいくら雪那といえど体の再生は不可能だろう。

(ちょっ、死ぬ! これは冗談抜きでマジで死ぬ!) 

眼前に迫る住人達を前にして、藁に包まれた体は蒸し暑い。それほどまでに体から汗が噴き出して、本気で雪那は焦っていた。 しかし。

「兄さん」

「はっ、はい!」

「もしかして、あの女が目的ですか?」 

ピタリ。

雪華の言葉を受けて全員が動きを止めた。ゆっくりと、全員の視線が雪華へと移動していく。本人は、確認したいことがあるのだから、あくまで冷静に。

「あの女、というと」

「私が尾行した際にパブから一緒に出てきた女です。一緒に買い物までして、随分と親しいようでしたが」

「……」 

さて、どう言い訳したものだろうか。ここに雪華が注目してくれたのは吉か、凶か。事情を話さないと決めている。

が、雪華は―― 「雪華」 真剣な眼で雪華に話しかける。

「はい」 

真剣な眼で雪那に答える。

「お前なら事情を話せる。一旦降ろしてくれないか」

「なっ、雪華ちゃんにだけ都合がいい言い訳して!」

「頼む!」

「!」 

怒鳴って静止したのは雪那自身だった。あまりにも唐突だっため、全員が面食らってしまう。そして雪那は、頭の中であることを考えていた。もっと早く気付くべきだったのだ。雪華なら、あいつの親友になれるかもしれないと。

「雪華、頼む」

「え、……はい」 

事情は解せぬが兄が少なくとも本気であることを理解できた雪華は、全員から意見を貰う前に雪那を降ろす。巻いていた藁をはがす。

「ふう、きつかった。さて、雪華、俺の部屋で話すぞ」

「えっ!? に、兄さんの部屋で!?」

「悪いが他の連中は盗み聞きしないでくれ。こればっかりはな、頼む」 

1回だけ大きく頭を振って下げた雪那は、その場で唖然としている住人達を置き去りにして部屋まで移動してしまった。

「なんなんだ、おい」

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