〜ご奉仕評価争奪戦・第2ラウンド開始〜 1/11 「『ランジェリーパブ・花宝』ってどこですか」 『え?』 「――、――」 ムンクの叫びのポーズで声なく叫ぶ雪那は、もしかしたら芸術的な姿をしているかもしれない。画家が見たら最高のモデルとか言い出すかもしれない。それ程の表情で固まっている。 他の住人達は一瞬何のことか戸惑ったものの、雪華が口から出した単語を理解した後、食事中にもかかわらず餌に群がるハイエナのごとく雪那に押しかかった。 「雪那! 貴様どういうことか説明しろ!」 「ちょっとちょっと、家のメンツじゃ満足できないって言うの!?」 「あなたがまさかそんな如何わしい場所に赴くなんて思ってもいませんでした!やはり所詮は欲望に駆られるだけの男ですか!」 「セツナー、らんじぇりーぱぶってなーにー?」 「何よ、あたしにあんなモーション掛けたのは遊びだったわけ!?うわーん、弄ばれたーーー!!!!!」 各々が恨み言やら事情説明求むやら遊ばれたやらそれどんな場所だやら。和やかに進んで終了できるはずの食卓は一瞬にして修羅場と化した。 最初に飛びかかった綾乃に胸倉を掴まれて押し倒され、椿にはこれだけの住人で足りないのかと綾乃に続いてワイシャツの襟元を掴まれ、京子は接近しつつ罵詈雑言、アティはまあいいが、瀬里奈に至っては自分が弄ばれたと本気で大声で泣き崩れている。 けしかけた雪華はそれこそ殺気にも似た恐ろしく冷たい視線を箸を動かしながら雪那に叩き付けた。雪那に逃げ場なし。 (に、逃げたい! 世界の果てまでマジで逃げたい!) ここまで本気の宮崎家の住人は見たことがない。血走った目に加えて向けられる殺気は尋常ではなかった。このままでは殺されると思った雪那は、何とか開いた口から細々く言い訳を始める。 「あのう」 『何だ!』 「その、少しくらい、言い訳、聞いてくれないかなあ、とか」 この一言は火に油。 「言い訳ですって!? 言い訳するということは、本当に入ったことがあるのですね!?」 「なっ、貴様、一緒に住んでる奴らのことを考えなかったのか!」 「こっ、こんのお、限度にもほどがあるっての……!」 「入っちゃだめな場所なの?」 「うううううううわああああああああああああん!!!」 「最低ですね、兄さん」 「――」 落とされた場所は地獄だ。こういう時に限ってうまい言い訳どころか立ち回りが出来ない自分を、心の底から恨めしく思う。実際、営業中に入ったことがないわけではない (あかりの事情ありの時だったが)のが負い目になって、口から出る言葉が油にしかならなかったのだ。一番酷い状況なのが瀬里奈で、大声で泣き叫んでいるためにもう本当に辛い。 と、そこで意外にも救済の船を出港させたのは雪華だった。 「皆さん、詰め寄るのもいいですけど、私も今日知ったばかりで。それで兄さんに本当に趣味だけであんな場所に出入りしているのか聞きたいんです。一旦離してはくれませんか」 (今日? そうか、雪華あれ見てたのか。一旦解放してもらえば話せるか、さすがは妹) 雪那はなんとか助かった、という表情を浮かべる、のだが。 「ふん、いいだろう、どうせろくでもない事情だろうが聞くだけ聞いてやる。但し、その前に一発殴らせろ」 綾乃の目は本気だ。と、いうか、京子も、椿も。汗はかいているが妙に体が冷える。ああ、そうか、これが本物の『冷や汗』というやつか。言葉通りの。 「え、ちょっ」 「黙れ」 バキッ! 綾乃の拳が左の頬に突き刺さる。 「最悪」 パアン! 椿の平手打ちが右頬に決まる。 「懺悔なさい」 バゴン! 京子の拳が鳩尾に突き刺さる。 「てやー!」 どごむ。 アティが下から腹にパンチをめり込ませる。 「ふん」 「あばばばばばばば!」 雪華が規模の小さい雷を雪那に落雷させる。 「うううううううううううううわあああああああああああああああああんん!!!!!!!」 「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」 泣き叫びながら放たれた瀬里奈の鉄拳は雪那を食卓から居間まで綺麗に、弾丸のごとく凄まじいスピードで殴り飛ばした。居間では凄まじい音が鳴り響き、ソファーやらテーブルを薙ぎ倒して滅茶苦茶な状況になってしまった。 「うう、ううう……」 「ふん、腹ごしらえしてからだな」 意識が飛んでしまった雪那を放って置き、ギスギスした空気を漂わせながら残る全員は食事に戻る。綾乃・京子・椿は肉じゃがの具を突き刺すたびに皿の底まで箸を突き刺し、ガツン、ガツンと音を鳴らす。雪華は眼が釣り上がったまま次々と具を口に含んでいき、瀬里奈は泣きながら味噌汁をずずずず、と飲んでいく―― 「最初に言っておく。貴様がどう言おうとこちら側はまずお前が『行った』という事実を知っていることを忘れるな。下手な言い訳や誤魔化しているのが目に見えてわかるようなことをすれば、それこそ本気でここから締め出すし学校にも通告させてもらうぞ」 「はい……」 意識が回復した雪那は、気がつけば身動きが取れなくなっていた。天井から簀巻きにされた常態で吊るし上げられ、ぶらぶらと揺れている。自分を包んでいる藁が暖かい。 泣いている瀬里奈もなんとか泣き止み、それでも鼻をすすりながらこちらを睨んでいる。アティを除く全員も同様に睨みつけている。信頼を裏切ったことで付き尽きられる視線は痛すぎる。 「全員いいな」 「ええ」 「そうね」 「これからこちらが質問することに答えろ。貴様に拒否権があると思うなよ」 「りょ、うかい」 こうして雪那への質問は開始された。まずは全員の意見を代表して、確認の意味も込めて綾乃から質問を開始する。 Copyright 2005-2009(C) 場決 & 成立 空 & k5 All rights Reserved. |