ダイアル・オン
 なな
怠惰な休日&雪華ちゃん奮闘記
〜1番キャラ変わってねえか、こいつ〜



 かちゃり。
「あ」
 雪華は放心状態のまま気付いていないようだが、カメラから覗いていたシスターには見えた。入り口から雪那が知らない女と出てくるのを。状態が悪化した雪華は、そのままずり落ちて地面に腰を下ろして座り込んでしまっていた。それが幸いしたのか、雪那と見知らぬ女は雪華が視界に入らなかったらしく、そのままどこかへいってしまう。
「ちょっといい加減目を覚ましなさいって。お兄さん店から出てきたよ」
「……知らない女と一緒なんて……」
「見てたんじゃないの。ほら、追わないと」
 のそのそと立ちあがったものの、雪華からはやる気が確実に感じ取れない。ショックからいまだ立ち直れていないのだろう、カメラには写らないが目は虚ろで妙に肌が色白い。血の気が引いてしまっているようだ。
「あー、もうどうでもいいかなー」
 仕舞いにはこれ。基本概念をとりあえず一旦崩すことが目的だったものの、今回は効果がありすぎたようだ。シスターはなんとかして雪華を現実に引き戻すため、思い立った言葉で雪華に話しかける。
「ほ、ほらあ、とりあえず妹としてはさ、兄が変な場所に入ってるのを見逃すわけにはいかないでしょお?」
「うーん」
 とぼとぼと歩き始める。視界の直線上には見知らぬ女と歩く兄。
「そ、それにさ、頑張って兄さんを引き戻せば『俺が間違ってたよ、ありがとう』とか言ってあんたに目が向くかもしれないし――」
 ピタッ。
「目が、こちらに向く――?」
「そ、そうそう! あんたが頑張って兄を更正させるのよ! そうすれば感謝されて後はどうにでもなるって!」
 当初の予定から大きく外れてしまった気がするが、担当した相手が灰になるよりは余程いいと割り切ったシスターは、雪華をさらに後押しする。
「さ、尾行続行しよー」
「……行きます」
 目的を外れたことすら忘れた雪華はそのまま追尾を再開する。顔色は良好、瞳には炎が灯っておりまする。現時刻・PM・3:30。

こうして再び兄の尾行を開始した。雪那は見知らぬ女と隣り合って歩き、そのままいつも雪那が通うスーパーへと消えていく。
「買い物?」
「ま、まさか、兄さんはあの女と……!」
「はい、落ち着きなさい。パブから出てきたんだから、買出しでも頼まれてる可能性があるわ。早計に考えすぎないの」
 シスターの言葉で雪華は頭の中を冷静に戻す。どうやらシスターに通信機を貰ったのは効果があったらしい。1人のままであれば、どうなっていたか検討もつかない。いや、パブの時点で完全にノックアウトか。
 指示されたとおりに動き、買い物客を装って雪那たちの後に続く。2人は雰囲気も悪くなく、大量のミネラルウォーターをかごに入れて、話をしていた。
「あんな派手なヒトが兄さんと付き合うなんて、み、みみみとめ」
「だから落ち着けっての」
 そのままおつまみのような物を適当に選んではかごに詰め込み、2人はレジへと向かった。買い物事態は特に何も無く、順調に進んで終了したようである。雪華も喉が渇いたので、缶紅茶を1つ購入して、雪那たちがいるレジとは正反対の離れたレジで会計を済ませる。2人が店を出たのを確認してから、尾行続行。
「このまま帰るだけかな」
「だといいんですけど、ってもうパブなんかに入った時点で兄さんは……ブツブツ……」
「……おーい」
 ふてくされながらブツブツ呟く雪華。そうこうしているうちに雪那たちとの距離が離されてしまう。慌てて後を追った。結局のところ、そのままパブに戻ってしまい、時間が経ったらまた雪那が出てきて、ふらふらと。

「まあ今日の収穫を検証しましょうか」
「はあ」
 結局、その後は雪那はCDショップと本屋に入っただけで帰宅してしまった。つけてるものを返さなくてはならないので、雪華は再び懺悔室にてこの状況。
「今日は非常に大きな収穫があったわね」
「兄さんがパブですか」
「ここであなたの妄想は完全に打ち砕かれた。これでもう安心ね」
「そうですね」
「ふー、なんかいい仕事終わった後ってすっきりするわね」
「ありがとうございました。後はこちらで何とかしますので」
「……え?」
 シスター側からは顔が見れている。そのためだろう、シスターは雪華が発した言葉と顔を見て不安に刈られてしまった。雪華の表情は、いつか見た、厳しい決意を込めた表情。
「あ、あれ?」
「帰宅してからは問いただします。あんな破廉恥な場所に兄さんが出入りしているとは思いませんでしたので」
「あー……」
 全ては傾いて右に流れていく。シスターの行動は成功だった。雪華の妄想を直す、という点においては、確実に。代償として、へたすれば兄弟仲が崩壊する爆弾を抱えさせたわけだが。
「では失礼させていただきます」
 丁寧に見えないシスターに対してお辞儀をした雪華は、足音が響くくらいの気迫を持って家へと帰還していく。シスターは口を開けてその光景を見るしかなかった。そして、心の中で顔しか知らぬ兄へと告げる。――死なないでね。


next/back/top

Copyright 2005-2007(C)
場決 & 成立 空 & k5
All rights Reserved.